第十八話 紹介
「でも、何で一刀にぃはこの世界にいるのかな?」
「それは──」
俺は芽衣に、この世界に来る事になった経緯を話す。勿論、拷問された事は省いて説明した。そして、その流れでそれぞれの自己紹介を行う事になった。
「まずは、私からかな。お兄ちゃんの実妹の椿姫だよ。12才の魔法使い。得意な事は物覚えが良いことかな」
「あ、覚えてるよ。あの時の赤ちゃんなんだね。でもあっちの世界じゃボクが年上だったけど、こっちの世界じゃ逆だから、どっちがおねぇになるのかわからないなぁ」
「それじゃ、お互いに名前で呼びあったほうがいいかな」
芽衣もそれに同意し、お互いにちゃん付けで呼びあっていた。
確かにその方が良いだろう。どちらかが姉呼びしても違和感があるし、今の年齢もそれほど変わらないしな。
「ヒルティはヒルティなの。にーにの妹で10才の半妖精族なの。神聖魔法と……今は封印されてるけど精霊魔法が使えるの」
そこでルドルフから封印珠を奪った事を思い出す。俺は【収納空間】から封印珠を取り出し、ヒルティへと差し出した。
「これで間違いないか?」
「……え……にーに、これ本物なの?」
「本物かどうかは俺には分からない。ただ、ルドルフから奪ったのは確かだ」
「大丈夫、私が【鑑定】で見るから……うん、間違いなくヒルティちゃんの力が封じられた封印珠だよ」
「そう……なの? 良かったの、よか……ぐす……にーに、ありが、とうなのっ……ふぇぇぇぇぇんんっ!!」
ヒルティは未だに俺の上に被さっていたので、流れた涙が俺の衣服を濡らしていく。
俺は黙ってヒルティの頭を撫でた。
少しすると落ち着いたヒルティは俺の手から封印珠を受け取り、大事そうに両手で包み込んでいた。
「直ぐにでも封印を解かないのか?」
「封印を解くには色々と準備がいるから、後でいいの。今はお話を先にするの」
俺は分かったと返し次を促す。
「次はわたしですか。わたしは兄上様の妹でサマーリと言います。人族で元伯爵家の娘です。年は15才です。戦う事は出来ませんが、皆の身の回りのお世話をしています」
俺とコロナは芽衣とは認識があるので、自己紹介は省いた。
三人の妹達の自己紹介が終わり、最後に芽衣の自己紹介へと移る。
「みんな、一刀にぃの妹なんだ……。まあ、一刀にぃの妹になりたい気持ちは良く分かるけど……。あ……えっと自己紹介だったね、ボクは生まれ変わる前は一刀にぃの従妹で芽衣って名前だったよ。今はメイナっていう名前で、獣人族の猫人ていう種族だよ。年は多分10才だったと思う。名前は好きな方で呼んで。……一刀にぃには芽衣って呼んで欲しいけど……。え、えっと、得意な事は短剣を使った…………ご、ごめん、言えない……」
「メイナ……」
始めは普通に喋っていたが、最後辺りは小声になっていた。恐らく、言えなかったのは暗殺術という技能の事だろう。その事を知っているであろうコロナは、辛そうで悲しそうな表情で芽衣の事を見ていた。
コロナ話では芽衣は身を守る為とはいえ、人を殺してしまっている。恐らく、今まで少なくない数の人を殺してしまっているのだろう。そんな事を自分で言うのは普通の人間には辛いに決まっている。しかも親しい人間には尚更言いにくいだろう。
それっきり芽衣は黙りこくってしまった。
他の妹達もどう声を掛けたら良いか分からないのだろう、黙ってしまっていた。
ここは兄である俺が言うべきだ。
「芽衣」
「な、なにかな?」
「人を殺した事はあるか?」
「っ!?」
「答えにくいだろうが……どうだ?」
「あ、ある……」
「それはどうしてだ?」
「そ、それは……」
芽衣は口ごもるが正直に話してくれた。
「コロナ様を守るためにだけ、だよ。でも……殺した事に変わりはないよ……」
「いや、そんな事はない。俺もこの世界に来て、やむ終えなかったとはいえ何人も人を殺した。最近では罪悪感を抱く事もなくなってきた。一時期それに悩みもしたが、椿姫のお陰で立ち直れた。必要以上に殺せば確かに殺人鬼と変わらないだろう。だが、芽衣は殺したくて殺したのか?」
俺の問い掛けに芽衣は大きく首を横に振る。
「そんな事、ない。ボクもどうしようもない時以外は殺さなかった。でも、それでも、胸が痛くて辛かった。コロナ様は無理しなくて良いって言ってくれたけど、ボクを救ってくれたコロナ様を、人を殺すことになっても助けたかった」
「メイナ……」
「分かってるじゃないか。それで良い。芽衣は間違ってない。これからもその気持ちで、むやみにその力を振るわなければいい」
「……それで良いのかな?」
「ああ、それを攻める奴はただの偽善者だ、放っておけばいい。間違ってないと思うのなら、自分に自信をもて。俺が芽衣の味方で居続ける。もし間違った道に行こうとしたら止めてみせる」
偽善者ですらない俺が何を言っているのか、とは思ったが間違った事は言っていない筈だ。妹の心を軽くする事が俺にとっては重要だ。
「そうだよ。私もお兄ちゃんの為なら何でも出来るし、ずっとお兄ちゃんの味方で居続けるよ。でも、明らかに間違った道を行こうとしたら、頑張って説得する。私達のお兄ちゃんなら妹の言葉に耳を傾けない訳がないしね」
「はい、兄上様ならわたし達が間違えた事をしそうになっても、絶対止めてくれるでしょう」
「兄妹にして頂いてからまだ短いですが、わたくし達ならきっと間違った道には行かないと確信しております。ですが、人は時に感情で間違いを犯す者。その時はわたくしも精一杯説得させて頂きますね」
「ヒルティは何となくいい人か悪い人か分かるの! ここにいるみんなはみんないい人って分かるの!」
皆が芽衣に向かい、思い思いの言葉を投げ掛ける。
その言葉が届いたのか、芽衣の不安そうな表情が目に見えて変わっていった。
「うん、分かったよ。ボク、もう迷わない。でも間違えそうになったら、止めてくれる?」
芽衣のはっきりとした声に俺を含めた皆が多く頷いた。
◆◆◆◆◆
「それで、あれからどうなったんだ?」
兄妹の絆を深めあった後、ベッドから部屋に設置されているテーブルを囲んでいる椅子に座ってから、今の状況を知りたい俺はそう尋ねた。
「そのご質問にはわたくしがお答えしましょう。フランツが消えた後は特に問題も無く、反乱軍の勝利で街を占拠したようです。国王であったルドルフは現在、牢屋に投獄されているとお聞きしました。ただ、懸念事項がおひとつありまして……」
「懸念事項?」
「はい、どうやらお兄さ──いえ、王子の行方が分からないそうなのです」
「王子ってこの街の領主だよね。それがいない?」
「はい、城にいた兵士の話によりますと、反乱が起こる直前までは姿を見た者もいるそうなのですが、反乱が起きた後は誰一人として見掛けていないのです。加えて、城から出たといった情報も皆無なのです」
城から出ていないにも係わらず、どこにも姿がない……となるとフランツが目の前で消えた事と同じかも知れない。あの様な特殊な道具があれば、城から抜け出すのも容易だろう。その事を俺は告げた。
「はい、エドワードからもそう報告を受けております。あの様な魔導具は今まで聞いた事もありませんが、可能性の一つでは有ります。ですが、もうひとつの可能性の方があり得るかと」
「もうひとつ?」
「どうやら城には王族用の隠し通路があり、ルドルフやフランツもそれを使って街へと脱出した様なのです。であるならば王子は直前に反乱に感づき、一人先に脱出したとも考えられます」
なるほど、確かにあの様な道具よりもそっちの可能性の方が高いだろう。
だが、どちらにしろ、そう簡単には探し出すのは難しいと思える。
「その逃げた王子に関してはこれ以上考えても仕方がないだろう。他には何があったんだ?」
「わたくし達が助けた子供達とエドワード達が助けた大人達は、現在この城にて保護しております。ルドルフが各地で奪った食料等がかなりこの城にあるので、食料庫を解放すれば暫くは大丈夫でしょう。ですが……」
そこでコロナの表情が暗くなり、僅かに顔を俯かせた。
「ですが、何だ?」
「子供達の殆どが連れ去られた際に、親が抵抗し殺されてしまっていました。ですので、わたくし達が助けた子供達ほぼ全員が孤児になります。そして今この国に、子供達を養う程の国力は存在しないのです」
「では、あの子達は路頭に迷ってしまうんですか?」
「はい、ですがそれだけではありません。この国はルドルフの圧政、というよりは暴挙により独自での復興が不可能になっております。捕虜の兵士を問い詰めたところ、どうやら国王は国内の街や村から食料を略奪し、国民を強制的に連行していたようです。この街以外の街や村はほぼ壊滅している可能性が高いとの事でした」
この国は想像以上に酷い状態だった。反乱が成功したは良いが、このままでは国民もろとも国自体が滅んでしまうだろう。となれば、取るべき道は限られてくる。
「そこでトゥレラ王国は、アギオセリス王国へ降伏する事になりました」
「そうだね。他国に援助を求めるしかない状況だけど、同盟国のエマナスタ帝国とは隣国では無くなってるし、戦争をした相手国が援助をしてくれる訳がないしね。そうなると降伏するしかない、ってところかな」
椿姫の推測にコロナは小さく頷いた。だが、一つ気になる点がある。
「従属ではなく、降伏、か。……コロナはトゥレラ王国の国王にはならないのか?」
「それは……わたくし自ら辞退致しました」
「……理由を聞いても良いか?」
「はい、先程申した自国での復興が不可能な事と、わたくしはあの国王の血を引いております。行うつもりはありませんが、わたくしが圧政を行わないとは限りません。ですので、王位に着くつもりはありません。国民も恐らくは望まないでしょう」
「そんな! コロナ様ならきっとみんなが歓迎するよ!」
芽衣の反論にコロナは首を横に振る。コロナの決意はきっと翻らない。表情からそう感じ取れた。
「もうその様な段階ではありません。ハルバ平野の戦い以前であったなら、その選択肢もありえました。ですが、もう無理なのです……それに……」
「それに?」
「国王に即位してしまうと、お兄様と居られなくなってしまいますから」
「え?」
思わず、間の抜けた声を出してしまった。俺と国の一大事を天秤に掛けるとか、おかしいだろう……。だが──
「それならしょうがないかな……」
芽衣はそれで納得してしまい、他の妹達も何度も頷いていた。
その様子に俺がおかしいのだろうか、と思ってしまった……。




