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異世界転移で兄妹チート  作者: ロムにぃ
第一部 第三章 異世界で人質解放
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第十五話 接敵


 ──一刀視点──

 

 俺の前に姿を現したのは、俺と椿姫を牢屋に入れ、拷問をするように指示した張本人のトゥレラ王国の国王ルドルフだった。

 何故ここにと思ったが、状況とこの男の性格からして城から逃げ出したのだろう。

 

「こ、これは、どうした事だ!?」

「陛下、お下がり下さい! 敵に回り込まれております!」

「何だとっ! 何故、ここを通るとばれておるのだ!」

「分かりません。ですが、敵は一人だけの様です。直ぐにでも排除致します」

「急げ! ……ん? そなたは……まさか、あの時の異世界人ではないかっ! 何故ここにおる!?」

 

 兵士達が殺されている状態に一瞬混乱していたようだが、向こうもこっちの素性に気が付いた様だ。会話の内容からして、こちらを突破するつもりなのは間違いない。

 だが、こちらとしてもここを通すわけにはいかない。それにこの男のせいで椿姫は心と身体に消せない傷を負うところだった。俺自身も死んでいたかもしれない。

 そんな個人的な恨みに加え、この男を逃がせば、今助けようとしている子供達ような被害者が増える事は間違いない。ならば逃がす訳には行かない。

 

「まさか、あの時の事を恨んで、余を弑するつもりか!? 何故だ! 余に逆らったのだ。そなたらに行った事など当然の事だ。逆恨みも甚だしいぞ!」

 

 逆恨み? この男は何を言っているのか。こっちはどう考えても被害者だ。

 分かってはいたが、やはりこの男は普通の感性等持っていないのだろう。

 間違いなく話をしたとしても通じはしない。ならば、会話するだけ無駄だ。

 俺はルドルフの問いかけに答える事なく、刀の切っ先をルドルフに向けながら足を進める。それにルドルフの周りにいる兵士達が、ルドルフを守るように前に出てくる。

 

「お前ら二人は陛下お守りしろ! 俺を含む残り四人でこいつを排除するぞ!」

 

 隊長だと思われる兵士が指示を行い、周りの兵士達はその指示に従い動き出した。

 その合間に俺は鑑定をそれぞれに使用した。それほど驚異には思えない強さだと察知出来たが、力を隠している可能性もあるので念のためだ。

 結果、隊長らしき兵士を含め、それほど強くはなかった。俺一人でも問題はないだろう。

 だが、【俯瞰探査地図】よれば後続がいるのが分かり、時間を掛ければ後続が合流してしまう。そうならない様に俺は歩きから一気に速度を上げ、先頭の兵士に斬りかかる。相手の剣を避けるように振った刀は、紙を斬るかの様に兵士の両手首を切断する。

 

「え…………ぎゃああぁぁっっ!! お、俺の手がぁぁっっ!!」

 

 少し間を置き、手を切り落とされた事に気付いた兵士が、叫びながら尻餅を着く。

 叫ぶ兵士から視線を外し、次に近い右手にいる兵士へと視線をやる。

 二人目の兵士は、手を切り落とされた兵士に気をとられているのか、呆然としている。その隙を逃さずに、一歩踏み込みながら振り抜いた刀を返して、二人目の兵士の首を目掛け再び刀を振り抜く。すんなりと首は胴から離れ、地面へと落ちる。そして一瞬遅れて首を失った胴体が血を噴きながら後ろへと倒れ込む。

 それを見た残りの四人とルドルフは、怖じ気づいたのか後退る。両手を落とされた兵士は蹲り未だに叫び続けていた。

 

「な、何をやっておるかっ! 退かずに早くこやつを殺すのだ!」

「し、しかし、この男強すぎます! 我らでは敵いませぬ!」

「その様な事、知らぬわっ! ええい、フランツはまだ来ぬのかっ!」

 

 怖じけづく兵士達にルドルフは喚き散らしている。その姿は王というには余りに情けなさすぎた。

 だが、今はそれよりもフランツがここに来る事の方が問題だ。作戦ではエドワード達がフランツを足止めする事になってはいるが、この状況では足止め失敗も視野に入れなければいけないだろう。となれば尚更早々にこの場を治め、逃げる必要がある。

 そう結論付けた俺は早速行動に移る。怖じ気づいた兵士達が認識出来ないであろう速度で三人目の兵士に近寄り、喉に刀を突き刺した。

 反応出来ずに絶命した兵士から四人目へと視線を向ける。その顔は完全に戦意を失っており、隙だらけの状態だ。三人目の兵士の喉から刀を抜き、血が噴き出す前に四人目の兵士の前へと移動する。移動しながら振りかぶっていた刀を、四人目の首目掛けて振り抜く。二人目の時と同じように首だけが地面へと落ちる。

 五人目、六人目が斬りかかって来たが、余りに剣速が遅く余裕で回避し、五人目と六人目の首を斬り落とす。

 そして、一人残ったルドルフの目の前へと刀の切っ先を突き付ける。

 驚いたのか、ルドルフはその場で尻餅を着く。

 

「な、あ、う……ま、待て、よ、余を手に掛ける積もりかっ!? 世界の王になりうる余を殺せば後悔する事になるぞ!」

 

 この期に及んでも、上からの物言いに流石に呆れてしまう。余りの見苦しさに直ぐにでも斬ってしまおうかと思ったが、とある事を思い出す。

 

「一つ聞きたい。トゥレラ王都でとある妖精族の精霊魔法を封じたな? その封印珠は何処にある?」

「何故、余がそれを教えねばならん! それにあれは余の物じゃ誰にも渡さぬぞ!」

「…………」

 

 俺はルドルフの言いように、無言で刀をルドルフの右手の甲に突き刺した。

 

「ぬぐわあああぁぁっっ!!」

「もう一度聞く。何処にある?」

 

 こういった手段は余り使いたくは無いが、妹達の笑顔を守る為なら躊躇はしない。

 もし、次も変わらない返答ならば、腕を斬り落とす積もりだ。


「あ、ぐぅ……お、教えれば、よ、余には手を出さんか?」

「少なくとも命は取らない」

「わ、分かった……くぅ……はぁ、はぁ……封印珠は……余が持っておる」

 

 そう言って、ルドルフは刀が刺さっていない左手で自身の懐をまさぐり、珠を取りだした。封印珠は大きさは野球の球位の大きさで緑色をしている。

 

「これが封印珠か……」

 

 差し出された封印珠を俺は受け取り、直ぐ様【収納空間】へと納める。

 

「こ、これで良かろう? は、早くこれを抜けいっ!」

 

 俺はそれには答えずにルドルフの背後へと回り、その首筋に鞘を打ち付ける。

 

「がっ!? な、ぜ……」

 

 その言葉を最後にルドルフは気を失い、後方へと倒れ込む。

 約束通り命は取っていない。ここで俺が命を取るよりもエドワード達に渡した方が良いと判断したのも理由だが。

 ルドルフが目を覚まさないか確認をした後、刀をルドルフの手の甲から抜き、軽く血を払い納刀する。

 そこで表示されたままの【俯瞰探査地図】を見ると、もう直ぐそこまで赤色の点が迫っている事に気付く。身を隠すにはもう時間がない。となれば、迎え討つしかないだろう。

 先手必勝、向こうが姿を現した瞬間に斬りかかる為、【居】の構えを取る。

 そして、敵が姿を現した瞬間、俺は刀を抜き放った。

 

 だが──

 

 俺の渾身の居抜きは、あっさりと大きな剣によって受け止められていた。

 その事に一瞬驚くが、俺の刀を受け止めた奴の顔を見て納得してしまった。

 俺の刀を受け止めたのは──

 

 トゥレラ王国近衛騎士団団長のフランツだった……。

 

 ◆◇◆◇◆

 

 ──椿姫視点──

 

 外壁を先頭で抜けた私とコロナお姉ちゃんは、外壁を抜けた子供達を整列させていた。人数の確認の為、全員が外壁を抜けてから再出発する予定にしている。

 子供達は外壁を抜けて安心している子や、まだ不安そうにしている子もいる。

 年長者の子がそんな子達を宥めているのを横目で見ながら、私は未だ子供達が通っている外壁の穴を注視する。

 後数人で子供達は全員、こちら側に抜け出せる。その後は馬車がある場所まで辿り着ければ安全な筈。

 そんな事を考えていると、遂にヒルティちゃんの姿が現れる。

 ──だが、その後ろに現れる筈の人物の姿を見つける事は出来なかった。

 咄嗟に【俯瞰探査地図】を見ると、少し離れた位置に一個の青色の点と複数の赤色の点が接触しているのが見えた。まさかと思いながら私はヒルティちゃんに尋ねる。

 

「ヒ、ヒルティちゃん……お兄ちゃんは?」

「に、にーには……足止めに行ったの……ヒルティも付いていくって言ったの、けど、一人の方が良いって……」

「お兄様がお一人で!?」

「やっぱり、そうなんだね……」

 

 私の想像通りだった。その後方から赤色の点が、そして更に後方から青色と白色の点が複数迫っているが、合流まではもう少し掛かりそうだ。もしこの赤色の点にあのフランツが居るなら、あの時の光景が再現されてしまうかも知れない。

 またお兄ちゃんが死んでしまうかも知れない状況に陥るのは看過出来ない。

 お兄ちゃんが私を守ってくれるように、私もお兄ちゃんを守りたい。

 私はその想いを、最悪の未来を回避するためにも動かなきゃならない。

 

「コロナお姉ちゃん、ヒルティちゃん、私はお兄ちゃんを助けに行ってくるよ。ここは任せても良い?」

「それではわたくしもご一緒に!」

「ヒルティも行くの!」


 二人の申し出に私は首を横に振る。


「二人はこの子達を馬車の所まで連れていって。ここにこの子達だけを残して行く訳にはいかないからね」

「あ……そう、ですね。分かりました……この子達はわたくしが責任を持ってお守ります」

「…………分かったの……。ねーねの言ってる事が正しいの……」

「ありがとう。もう時間がないから行くよ。絶対お兄ちゃんは連れて戻るから」

「はい、また無事にお会いしましょう」

「にーにの事お願いなの」

 

 二人の言葉を背中に受け、私は来た道を走って戻っていく。外壁の穴を抜け、お兄ちゃんが一人で戦っている場所に向かう。

 もし、あのフランツがいるなら私では役に立たないかも知れない。だけど、後方から来ている青色の点、あれはきっとエドワードさんで間違いない。

 その訳は私達と相手がお互いに味方だと認識していないと、青色にはならないから。

 どちらかだけだと白色になる。敵に関してはどちらかが敵意を持っていれば、赤色になるように設定している。

 そして、お互いに味方だと認識しているのは、エドワードさんだけ。なので私達以外の青色の点はエドワードになる。だから、エドワードさんが来るまで持ちこたえれば何とかなるかも知れない。

 それぐらいならば、私とお兄ちゃんならきっと可能。

 お兄ちゃんはあれから更に強くなってるし、私も城の本を読んで様々な魔法を覚えた。だから、きっと大丈夫。私はもしフランツと遭遇した場合の戦術を思考しながらも、走り続ける。お兄ちゃんが居る場所までもう直ぐ。

 【俯瞰探査地図】を見ると、お兄ちゃんを示す青色の点とお兄ちゃんの側に居る複数の赤色の点、そして、少し後方にいる青色と複数の白色の点。赤色の点はお兄ちゃんが倒したのか、初めに見た時よりも少なくなっている。

 あの角を曲がればお兄ちゃんが居る。

 そして、速度を緩めずに角を曲がった私が見たものは──

 

 片膝を地面に付いたお兄ちゃんと、大きな剣を振り上げているフランツの姿だった。

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