第十三話 脱出
子供達が泣き出して10分位経った頃、徐々に落ちを見せ始めた。
始めにククリが泣き止み、そのククリが一人一人声を掛け落ち着かせたからだ。そうでなければ、まだ落ち着いていなかっただろう。
全員が落ち着いたのを見届けると、ククリは俺に近寄り腕に抱き付いてきた。
その事に対し、妹達がちょっと不機嫌そうな顔になるが、何か言ってくる様な事はなかった。ククリがまだ不安を感じている事に、恐らく気が付いているのだろう。
実際、抱き付いてきたククリは、若干ではあるが震えている。
俺はその事を追及する事なく、子供達に声を掛ける。
「皆聞いてくれ、現在一部の兵士達が反乱を起こし、城内を占拠しようとしている。その際に人質に捕られるのを防ぐ為、俺達は君達を助けに来た。だが未だ敵地の真っ只中なのが現状だ。反乱軍が勝てば問題はない。が、もし負ければ、俺達は完全に孤立する。そうならない為にここから脱出する必要がある。だから俺達の指示に従って行動してくれ」
俺はそう告げた後、手分けして人数の確認を行った。牢屋に囚われていた子供達はククリを含め全員で68人、その内の48人が女の子だ。年齢で言えば、15才から13才が32人、12才から9才が21人、8才から6才が15人になる。
密かに脱出するにはかなりの人数であり、しかも女の子が数多く、半分近くが小学生程の年齢だ。色んな面で脱出はかなり困難だろう。なので最低限の行動を各々取って貰い、少しでも発見される可能性を抑えるしかない。
エドワードの方がどうなっているかも気になるが、現状気にしている余裕はない。
まずはこの子達を無事脱出させるのが最優先事項だ。
「私が【認識阻害】の魔法を掛けて気付かれない様にはするけど、70人以上もいるから、一人一人への効果が薄れると思うの。だから、なるべく物音をたてないでね。それと声は非常時以外は出さないで欲しい。もし一人でも発見されたら、全員が見付かると思って」
椿姫の説明に半分以上の子供達は頷くが、低年齢の子は理解できていない様に思える。そういった子達には年長者の子達に個別に分かりやすく説明して貰うことにした。
全員が理解したところで、早速行動を開始する。まずは【俯瞰捜索地図】にて建物内の敵と出口の位置を確認する。
出口の位置を確認するのは、この人数では侵入した時に使った方法は取れないからだ。流石にこの人数を転移させるのは、現状の椿姫の精神力では不可能だからだ。
如何に敵と接触せずに出口に辿り着き、如何に悟られずに出口から脱出するか、特に出口のある部屋には数人の人間がいる。他の部屋にいる敵に気付かれずに無力化しなければ、応援を呼ばれてしまう。椿姫も成功率は低いと言っていた。だが、やらなければ何人かが、下手すれば全員が捕まるか殺されるかも知れない。
ゆっくりと扉を開け、通路へと出る。
並びは俺とヒルティが先頭に、それから二列縦隊で最後尾にコロナと椿姫が付く。
先頭に俺が居るのは接敵した際に直ぐに無力化するためだ。近接戦闘可能なコロナは俺とは逆位置に、椿姫とヒルティに関しては戦力的に考えてだ。そしてククリと年長者を均等に数列置きに配置している。年少者に何かあった際に年長者が近くに居れば直ぐ対応出来るからだ。本当なら真ん中辺りにも配置したいが、人数が足りない。
ただ、地下はそれほど気にする必要はない。牢屋に向かう際に、地下にいる敵は排除済みで安全地帯と化しているからだ。問題は一階に上がってからだろう。
予想通り地下では問題は何も起こらず一階への階段に辿り着く。俺は【俯瞰捜索地図】を一階に切り替え、上の部屋に誰も居ない事を確認して、一階へと上がる。
だが、そこで問題が発生する。数人の敵が出口までの通路に存在していたからだ。
しかも最低でも一人が視界に入る位置にいるので、一人を無力化してもそれを見たもう一人が異変に気付いてしまう。その絶妙な位置取りに思わず俺は唸ってしまう。
「さて、これからどうするか……」
暫く様子を見るも、敵が動く様子はない。確実を期すならば動くべきではないが……。と、そこで敵が動き出した。外から一人建物に入ったかと思うと、一階にいる敵全員が出口に向かって移動し始めた。しかも出口に留まるのではなく、外に出ていっている様だ。その理由は一つしか浮かばない。恐らく反乱軍が決起したのに気付き、人員を狩り出されたのだろう。
と、そこで一人だけこちらに向かってきている敵がいる事に気付く。恐らく地下にいる人間にも声を掛けるのだろう。
この人物を地下に通す訳にはいかない。もし、通せば脱獄した事がばれてしまう。
俺は扉の横に立ち、鞘に収まった状態の刀を構え待ち伏せる。
そして扉が開き、外套を着た人物が入って来た瞬間、刀で掬い上げる様に顎を打ち抜き、昏倒させる。縄で縛りその辺に放置した後、地図を確認する。
見たところ俺がこれまで昏倒させた人間以外は居なさそうだ。
となるとこの機会を逃す訳にはいかない。俺は後ろに合図を送り、通路へ出て出口を目指す。地図が示す通り、通路には誰も居ない。そして、それは出口に関してもだ。建物の外にも敵が居ない事を確認し、建物の外へと出る。
すると、城がある方向から騒がしい声が聞こえてくる。恐らくは反乱軍の決起による騒動だろう。勿論、そちらに向かう事はしない。
俺は城門の方へと足を向ける。次の難関はその城門だ。
流石に城門の守備を放棄する事はないだろう。と、思ったのだが地図では城門付近は白色の点が複数あるだけで、敵は存在しなかった。
恐らく、この白色の点は反乱軍で、城門はその反乱軍が制圧したのだろう。
城門に近付くと、その城門は開け放たれている状態だ。城門には10人位の人の姿が見えるが、こちらには気付いていない。
恐らくは味方だろうし、俺達の事も伝わっているだろうから、気付かれても良いかとも思ったが、こちらが味方である証明が出来ない事に気付く。下手をすれば敵と間違えられる可能性もある。となると、このまま気付かれない様に通るのが最善だろう。
幸い、城門は広く開け放たれているのと、城門付近にいる兵士達は職務に忠実の様で、その場で見回す事はしているが移動はしていない。
【認識阻害】の魔法を掛けているとはいえ、物理的に接触すれば発見されるとの事だ。そうなれば間違いなく時間を食ってしまう。
誤って接触しないように、距離を取って兵士達の間を進んでいく。
無事全員が城門を抜けたところで、先頭だった俺とヒルティは、最後尾の椿姫とコロナと入れ替わる。城門を抜ければ先頭よりも最後尾の方が襲われる危険が高いからだ。
そして次に俺達は、行きに通った外壁が破損している所に向かう。
この状況なら大丈夫だとは思うが、念のため門は通らないでおく。
穴はそれほど広くないので、子供と言えど一人づつしか通れない。その為、全員が抜けるには時間が掛かりそうだ。
かなり離れているにも関わらず、城の方角からは人の叫び声等が聞こえてくる。
俺はこの時はまだその事に疑問を持たなかった。が、子供達が半分程抜けた頃に、使用したままの【俯瞰捜索地図】の端に赤色の点が複数現れた時点で、城からではなくこちらに近付いているから声が聞こえるのだと気が付いた。
敵を示す赤色点は次々に10人20人と数を増やしていく。しかもその集団は明らかにこちらに向かって来ている。だが、全員が外壁から抜け出すにはまだ時間が掛かる。
ペースを考えると、どう考えても間に合わない。
「ヒルティ、今来ている奴等の足止めをしてくる。ヒルティは先に行っててくれ」
「にーに? 一人で行くつもりなの? それはダメなの! ヒルティも残るの!」
「足止めなら一人の方がやり易いし、子供達の護衛も必要だ。それに──俺一人でも無さそうだしな」
「それって……? あ、これは……」
【俯瞰探査地図】の赤色の点の後方に、青色と白色の点が複数表示されているのが見える。その数は赤色の点よりも多い。そして青色の点は恐らくエドワードだろう。
恐らくエドワード達はこの敵集団を追っているのだと思われる。そうであるなら、少し足留めを行えば、後方からの援護が期待できる。
その事をヒルティに告げると、ヒルティは納得してくれた。
「…………わかったの……でも無理はしないで欲しいの」
「勿論だ。妹達を残して死ぬつもりはないからな」
もう接触まで時間がない。俺は近くにいた年長の子にメイナを預けた後に、ヒルティに背を向け敵集団へと向かう。この場で戦闘を行えば、ヒルティや子供達が巻き込まれる可能性があるからだ。
そして、足留めを行うなら通路がなるべく幅が狭い方が足留めをしやすい。
なので俺は比較的狭い──人が三、四人並べる位の通路に陣取る。これ以上広い場所だと抜けられる可能性がある。
俺は刀を抜き、もう片方の手には鞘を持つ【鞘二刀】にて構えを取る。本当なら、もう一本刀が欲しい所だが無いものは仕方がない。
敵集団が角を曲がれば俺の視界へと入る。だが、俺は【認識阻害】で相手からは見えていない。ただ、異変を察知されれば、俺がそこに居る事はばれてしまうらしい。であれば不意討ちは一回のみではあるが可能だ。更に相手が動揺している内に数を減らす事も可能性だろう。
そして、遂にその時は訪れる。まずは兵士達が数人姿を現す。その手には抜き身の長剣、全員が鎧を着た揃いの格好をしている。更に後ろからも次々に兵士達が現れるが、まずは先頭の兵士達を倒すのが先決だ。
やはり、兵士達は俺には気付いておらず、真っ直ぐに走ってくる。兵士達は鎧と兜で武装していたので、武装されていない箇所を狙い、無力化する必要がある。
俺はその走ってくる勢いを利用し、鞘で左前方にいる兵士の鼻眉間を突き、右手の刀は右前方にいる兵士の喉に突き刺す。手加減はしない。手加減をしたせいで妹達に被害が及べば、後悔しても仕切れない。なので明確な敵に手心を加える積もりはない。
「ぐあぁっ!!」
「かはっ……」
「な、何だっ!?」
いきなり先頭の二人が倒れた事に動揺した兵士達が立ち止まる。その隙を逃さず、手近にいた兵士の喉を切り裂き絶命させる。それでもまだ兵士達は動かない。【認識阻害】はもう機能していない筈だ。その証拠に、立ち止まっている兵士達の視線は俺の方を見ている。
俺は数歩踏み込み、正面の兵士の喉を鞘で突き、右前方の兵士の首を斬り落とす。
視界に映る兵士は後二人、後続が来る前に仕留めようと更に数歩踏み込む。
漸く残った二人は長剣を構えようとするが、もう遅い。一人を鞘で喉を突き、もう一人を刀で喉を切り裂いた。その後、後続が姿を現す前に、始めに立っていた位置へと下がる。目の前にあるのはもう動かない死体と気を失った者だけだ。
想像以上に上手くいった事に驚きながらも、俺は気を緩めない。もう後続は直ぐそこまで来ている。そうして、角を曲がって現れたのは──
トゥレラ王国の国王であるルドルフだった……。




