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異世界転移で兄妹チート  作者: ロムにぃ
第一部 第三章 異世界で人質解放
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第十話 潜入


「問題?」

「ああ、それがな未成年の子供らは、城に隣接して建っている施設に居るらしくてな……。しかもここには兵士は近寄る事すらできないらしい」

「子供達を集めて一体何を……?」

「……その施設って言うのはな、第一王子主導の元に作られた暗殺者養成場だ。表向きは練兵場っていう事になっているがな。そして、そこに子供らは連れていかれたらしい」

「暗殺者養成場……聞いてはいましたが本当にあったのですね……あの人はなんて物を……」

 

 コロナが悲しそうな声で呟くのが耳に入る。そんな施設を実の兄が作った事に、恐らく心を痛めているのだろう。しかも、その暗殺者にコロナは拐われた事もある。

 兄が妹を害する等あってはならない。兄妹婚が普通にあるこの世界では尚更だろう。

 もしかしたらコロナが俺を兄と慕ってくれているのも、兄という存在に愛されたかったのもあるのかも知れない。

 

「それで何が問題なんだ?」

「言ったろう? 兵士が近づけねぇって、要するに──」

「警備と称して中に兵士を配置出来ないって事だよね。そうなると子供達の安全確保が確実には出来ない。その役目を私達にして欲しいってところかな」

「あ、ああ、そう言う事だ……」

 

 椿姫に先に答えを言われてしまい、若干悲しそうな表情になるエドワード。

 それでも何とか気を取り直し、話を進めようとする。

 

「んで続きだが、ここの警備は異常に厳重でな。正面からの侵入は強行突破しか不可能だ。更に裏口は存在しねぇときた。特殊な方法でもない限りは気付かれずに侵入は不可能だろう。そこでだ、椿姫の嬢ちゃんは【空間魔法】が使えるだろう? その中に侵入に適した魔法がないか?  【空間魔法】は人間族で使い手が現れる事自体が歴史上数人しか居なくてな、よく分かってねえんだ」


 エドワードには俺達の加護や技能の事は伝えてある。確かに空間に関する魔法ならそういった魔法が確かにあるのかも知れない。

 

「【空間魔法】で侵入に適したものは確かにあるけど、一つは中の状況が分からないと無理だし、とんでもなく精神力を使うからその後の事を考えると厳しいかな。私達を他者に認識させない様にしても、扉が閉まってると入れないから開くのを待つしか無いけど……何時開くか分からないものを待つのは、他の人達の連携を考えると現実的じゃないよね。となると──」

 

 深い思考に嵌まり込んだ椿姫を俺達はじっと見守る。椿姫は目を瞑って微動だにしない。そんな椿姫に声を掛けたさそうなエドワードを静かに止める。まあ、掛けたとしても反応しないだろうが。

 

「……うん、この方法ならいけるかな。お兄ちゃん、幾つか魔法を創造しようと思うんだけど。手伝って貰って良いかな?」

「ああ、勿論いいに決まってるだろ」

「うん、ありがとう。それじゃ説明するね──────と──────に─────だよ? どう、想像出来そう?」

「……ちょっと難しいが、何とかいける、か?」

「うん、それじゃ創ろっか、私とお兄ちゃんとの愛の結晶をね」

「って、一体何を創るつもりだ……」

「えへへ……半分は冗談だよ」

「半分は本気なのか……」

 

 そんなやり取りをしながらも俺は椿姫と両手を繋ぎ、【魔法創造】の準備を始める。

 繋いだ椿姫の手は何時もと変わらず柔らかく温かい。

 他の妹達が俺達を羨ましそうに見ているのが目に入るが、椿姫以外には出来ない事なので仕方がない。その代わり今回の事が無事終わったら構って上げよう。

 椿姫の体温を感じながら、椿姫から聞いた内容を想像する。

 そして何時もの様に俺の胸から白い光が現れ、椿姫の胸に吸い込まれていく。

 

「ひゃうっ! あ、ああっ、お、お兄ちゃんのが中で動いてっ──!」

 

 吸い込まれると同時に椿姫が激しく反応する。何時も思うが椿姫の台詞が若干紛らわしい。見ている妹達の顔も若干赤くなっている。エドワードだけがニヤニヤしている。

 

「あ──だ、だめっ! お、お兄、ちゃん、これ、ちょっと違う、かな……」

「む……違ったか?」

 

 椿姫は息を荒げながらそう告げた後、もう一度と言った。

 それから俺達は妹達とエドワードが見守る中、必要な魔法を創造していった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 作戦開始一時間前、俺達──俺、椿姫、ヒルティ、コロナ、エドワードの五人で街へと向かう。戦う能力の無いサマーリと子供達は馬車にて待って貰う。

 ただ、そのまま置いていくのは危険なので、椿姫の空間魔法の一つ【遮断結界】にて周りから馬車が見えない様にしている。基本、術者と範囲内に居た者以外は視認不可能らしいので問題は無いだろう。

 馬車を離れて少しすると、街の外壁へと辿り着く。エドワードが言った通り、外壁には大きな穴があり、問題無く街へと入れそうだ。

 しかし、念のために【認識阻害】という、他者にそこに誰も居ないと認識させるという空間魔法を掛けてあり、その魔法の甲斐もあってか城壁まで問題無く辿り着いた。

 だが、城門は閉まっているのでこのままでは中に入れない。

 

「どうするんだ?」

「俺がまずは城壁を登る。そして上から縄梯子を架けるから一人ずつ登って来てくれ」

「う……ちょっと高いの……」

「だ、だね……」

 

 コロナは平然としているが、椿姫とヒルティは及び腰だ。

 城壁はかなりの高さがある。もし落ちれば怪我では済まないだろう。

 だが、エドワードは何でもないかの様に、城壁をあっという間に登って行く。

 そして城壁の上に辿り着いたエドワードは、縄梯子を城壁に架ける。

 エドワードからの合図を確認した俺は、まず安全確認の為に縄梯子を強めに引く。

 体重を掛けて引いて見たが問題は無さそうだ。

 

「お兄様、それでは先に登らせて頂きますね」

 

 コロナは一人でも問題無く登れるとの事だったので、始めに登らせた。本人の言葉通り、順調に登って行くコロナは程なく城壁の上へと辿り着く。

 さて、次は椿姫かヒルティだが……。

 

「こんな事なら浮遊系の魔法も創っておけば……」

「にーに、ヒルティには無理なの……」

 

 まあ、そんな訳で一人ずつ俺が背負って登る事になった。その途中、椿姫が「やっぱり創らなくて良かった」とか呟いたのが聞こえ、それを聞いたコロナがしまった、という顔をしていた。背負って欲しかったんだろうが、通常時ならまだしも流石にこの状況ではやり直したりはしない。

 城壁を登り終えた俺達は、近くにあった階段で下に降り目的地へと向かう。時折兵士が通り掛かるが魔法のお陰で気付かれる事はない。

 そうして目的地へと辿り着いた俺達の目の前に建つのは、無機質な石造りの建物。飾り気の無い建物はかなり大きく、体育館が二つは入りそうな程だ。

 入り口は鉄らしき扉で塞がれており、容易には侵入出来そうにない。

 

「さてと、こっちは頼んだぞ。俺はフランツを抑えておく」

 

 俺は小さく頷き、エドワードを見送る。

 作戦開始まで後30分、それまでに俺達は子供達を人質に捕られない状況にしなければならない。子供達の中には今回の反乱に参加している親の子供もいる。なのでもし人質に捕られれば、作戦自体が成り立たなくなる可能性もある。

 

「お兄ちゃん、良いかな?」

「ああ、頼んだ」

 

 椿姫の問い掛けに俺は短く返す。

 さあ、作戦開始だ。

 

 ◆◆◆◆◆

 

「それじゃいくね。【俯瞰探査地図】更に【地図共有】」

 

 椿姫が二つの創造した魔法を使うと、椿姫の前面に半透明の地図が表示される。その地図には今現在いる場所が表示されており、建物だと思われる四角い枠の外側に青色の点が四個、そして内側には更に複数の様々な枠と所々に赤色の点が、地下のとある一ヶ所には白色の点が沢山表示されていた。四角い枠が建物でその枠内に存在する枠は部屋、各部屋を繋いでいるのは通路、そして青色の点が自分達や味方、赤色の点が敵対者、白がどちらでも無い事を示している。検索範囲は自分達を中心に300メートル内で、複数階ある建物等は右上の階層表示を触り見たい階を思い浮かべれば変更出来る。

 この魔法を創造するのに何回も想像を失敗してしまった。椿姫の事細かい説明でどうにか創れたが……。

 この魔法の凄い所は、範囲内であれば視認していなくても建物の造りや生物がどのくらい居るか、更には味方か敵対者の判別も可能な所だ。

 そしてこの魔法を使って何をするのかと言えば、誰も居ない部屋を探す為だ。

 何故そんな事をするかと言えば──

 

「うん、この部屋なら誰も居ないし、敵に会わずに捕まってる子供達の所に行けると思うよ。ただ、メイナちゃんが居るかまでは分からないけど……」

 

 椿姫がそう言いながらある地点へと歩き出す。俺達も椿姫に付いてその場所へと向かう。

 辿り着いた場所は壁しかない。扉どころか窓すらない。普通なら何をしているのかと思うところだろう。だが──

 

「皆、私に触れててね……良いかな? それじゃ行くね【短距離転移】」

 

 椿姫がそう言った瞬間、外ではなく室内だと思われる部屋に俺達は存在していた。

 

「う……これはきついね……」

 

 よろける椿姫を咄嗟に支える。椿姫は力を抜き、安心したかの様に身を委ねてきた。

 椿姫が使った【短距離転移】は空間魔法の一種で複数人を50メートル内なら瞬間移動させる。ただし、かなりの精神力を使うため多用は出来ない。

 その為、城壁を越える際には使わなかったのだ。

 少し椿姫を休めたいが、何時人がやって来るか分からない。俺は椿姫の背中と膝裏にそれぞれ腕を回し、抱え上げる。

 一瞬椿姫は驚いたが、直ぐに嬉しそうな表情で俺の首に腕を回してくる。


「えへへ……」

「いいなー……なの」

「わたくしも何時かは……」

 

 ヒルティとコロナが羨ましそうに俺達を見てくる。まあ機会があれば椿姫以外も抱えるのは(やぶさ)かではない。……というよりは俺自身もこの体勢は嫌いじゃない。

 そんな事を考えながらも、部屋を出て目的の部屋へと向かう。

 地図によると白色の点が複数固まっている所があり、恐らくそこに子供達が居ると推測した。その場所は地下一階だ。幸い赤色の点はそれほど多くなく、しかも殆どが一人で固まっている所はあまり無い。これならば各個撃破も可能だろう。

 地図は出したままなので、敵対者の居場所や動きは見えている。

 【認識阻害】で見つからない状態ではあるが、念のために敵には近寄らないように地図を確認しながら歩いていく。

 慎重に通路を進み、地下へと続く階段を目指す。敵との遭遇が避けられない場合は、相手はこちらを認識していないので背後から一瞬で意識を刈り取る。

 そして猿轡を噛ませ縄で縛り、誰も居ない部屋へ放り込んだ。念のため直ぐに見つけられない様に、扉からは死角になっている場所に置いてきた。

 殺さなかったのは殺してしまえば、血痕等の痕跡が残ってしまう可能性があるからだ。痕跡が残ってしまえば、異常に気付かれてしまう。

 数人の敵を昏倒させながら、俺達は目的の部屋の前の部屋へと入る。

 そこには見張りなのか、一人の人物が椅子に座っていた。

 子供かと思うくらい小柄だが、その姿は外套に隠れてよく見えない。顔も俯いているので俺達の方からは窺う事は出来なかった。

 俺はその人物を昏倒させるために、ゆっくりと近づいていく。

 油断はしない。椿姫もこの魔法は絶対ではないと言っていた。そしてこの数瞬後、俺は油断していれば間違いなく死んでいただろう。

 俺の間合いまで後一歩というところでそれは起こった。

 今まで身動きもせずに座っていた人物が、俺目掛けて手を突き出し突進して来る。しかもその手には短剣が握られている。

 俺は咄嗟に左手の手甲で短剣を弾き返す。そして右手で刀を抜いた勢いのまま、俺に襲い掛かってきた人物を横凪ぎに斬り払う。

 だが、その人物が咄嗟に後方へと身を退いたため、刀は空を斬る。

 その拍子にその人物の外套が捲れ、その素顔が明らかになった。

 茶色の瞳に同じ色の髪、そしてその髪から飛び出す動物の耳。恐らくこの人物が話に聞いた獣人族なのだろう。

 だが俺にはそれ以上に驚いた事がある。それは──

 

「メイナっ!?」

「芽衣……?」

 

 驚いたコロナの声と、戸惑った俺の声が重なった。

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