第八話 孤児
十数分程泣き続けた女の子達は、俺達に声を掛けてきた子以外眠ってしまった。
眠ってしまった女の子達を馬車に寝かせ、一人起きている女の子に事情を聞く事にした。と、そこでヒルティから待ったが掛かる。
「にーに、手を怪我したままなの。治すから手を出すの」
「ああ、すまん、怪我してたの忘れてたな」
ヒルティに短剣を握った際に付いた傷を治して貰う。幸いにも切れ味が落ちていた為、大した怪我にはならず、治療もすぐ終わる。
「ご、ごめんなさい。痛かったよね……」
「大した怪我じゃないからな気にしなくて良い。自分でも忘れてた位だしな。それよりも事情を教えてくれないか?」
「う、うん。まず、あたしの名前だけどシノンって言うの。あたし達はこの道を向こうに行った一つ目の街に住んでたんだ」
そう言って女の子──シノンは俺達が来た方向を指差した。
となると、この子達は……。
「まさか、あの街の子達なのか……」
「知ってるの? ……ってこっちから来たのなら知ってて当たり前……あ……ま、街は今は……どうなってるの……?」
不安そうにこちらを上目遣いで見てくるシノンに、正直に伝えるか迷いが生じる。
もしかしたら、この小さな女の子はもう街がどうなっているか分かっているのかも知れない。だが、それでも伝えるが躊躇われた。と、そこで俺の逡巡に気付いたのか、椿姫が俺の背中を押してくれた。
「お兄ちゃん、正直に伝えた方が良いよ。もしここで嘘を吐いても何時かは知ることになるだろうし、その時に嘘だと分かったら信用を失っちゃうよ」
確かに椿姫の言うとおりだろう。街が無事だと伝えれば、きっと送って欲しいと言い出す可能性が高い。そうなれば俺が言った事が嘘だと分かってしまう。
ならば、ショックを受けようとも本当の事を言う方が良いだろう。
「そうだな……シノン、これから俺が言う事に衝撃を受けるだろうが、気をしっかり持っていてくれ」
「う、うん……大丈夫、何となく分かってはいるから」
「分かった。シノンの住んでいた街に残された人達は……一人を除き全員死んでいた」
「──っ!」
シノンの顔が悲痛な表情に染まるが、俺に言われた事を守ろうと必死に堪えようとしていた。
「や、やっぱりそうなんだね……食べ物も全部王様に持っていかれてたから……そうなんじゃないかとは思ってたけど……」
「ああ、食料どころか井戸が壊されていたからな。水すら飲めなかった状態だったんだろう。殆どの人が餓死していた……」
「そっか……みんなが折角あたし達の事、逃がしてくれたのに……もう帰る場所も無いんだね……あ、残ってた一人って誰なの?」
「誰かは分からないが、恐らくは冒険者組合の組合長だろう。組合長室に居たからな」
「……それってお爺ちゃんだった?」
「ああ、恐らく60才位のお爺さんだったな……だが、もう誰も居ない街で生き永らえるつもりは無いようだったが……もしかして知り合いなのか?」
「うん、間違いないよ。そのお爺ちゃんが冒険者組合長だよ。あたし達の先生でもあるけどね。読み書きや計算を教えて貰ってたの」
それから、組合長が勉強を教えてくれる時は厳しかったが、普段は本当のお爺ちゃんの様に優しかった事。彼女達が王国軍に連れ去られる際に、必死に組合長が説得したが、王国軍は全く聞く耳を持ってくれなかった事。プレンツェアまでの道中で王国軍の隙を突き、大人達が彼女達を逃がしてくれた事。逃げる途中に数回商人と会い、食料を求めたが全く取り合って貰えず、途方に暮れていたところを俺達が通りがかり、話をしても取り合って貰えないなら奪おうと思い、俺達を襲ったのだとシノンから聞いた。
因みに武器は草むらに落ちていたのを拾ったという事だった。
「事情は分かったが、助けるのは……これからの俺達の目的を考えると問題はある……かといって見捨てる訳にもいかない……」
プレンツェアは敵地だ。その中に護衛対象を増やした状態で潜入するのは良いとは言えないだろう。だが、状況的に連れていくしか方法が無いのも確かだ。
「お兄ちゃん、連れていくしかないと思うよ」
「だよな……アギオセレス王国まで送る時間も惜しいしな」
「にいちゃん達はこれからどこに行くの?」
「……プレンツェアだ」
「みんなが連れていかれたところっ……!」
シノンの目が驚きにより見開く。そして、その顔はこちらを窺うかの様な表情へと変わっていた。何となくこの後の展開は読めるが……。
「ねえ、にいちゃん達は強いの……?」
「……どうだろうな、少なくとも一般的な兵士よりは強いとは思うが……」
「そ、それじゃお願いがあるの! 他のみんなも助けて欲しいっ!」
数瞬の間を置き、俺はその頼みに対して口を開く。
「済まないが……それは約束出来ない」
「ど、どうしてっ?」
「相手が国で俺達が個人でしかないというのもあるが、俺より圧倒的に強い奴がこの国に居るからだ」
「そ、そんな、それじゃみんなは……」
シノンの顔が世界の終わりが訪れたかの様な表情に染まる。
そんな俺とシノンのやり取りに妹達は誰も口を挟まない。静かに俺とシノンの話し合いを見守ってくれている。
「俺達はある目的の為にプレンツェアに向かっている。死なないようにその目的を達成するのが最優先だ。だが……」
「だが……?」
「その過程で他の人間を助ける事もあるかもしれない。ただ、全員を助けだせるとは言えない。俺はそこまで自信家じゃないしな」
「…………それでも、みんなを助けられるかもしれないなら、あたしはそれに賭ける。もしダメだったとしても誰のせいにもしない……だからっ!」
俺は妹達に順番に視線を向けると、誰もが笑顔で頷いていた。
俺達自身が子供のせいか、子供に甘いと思わざるを得ない。もし、俺がまだ年をとっていたら無理だと言っていただろう。その証拠では無いが、唯一の大人であるエドワードは苦笑いをしていた。
「エドワードは反対なんだよな」
「まあな、俺の護衛という立場的にも、今回の目的達成の為にも賛成は出来ねぇな。だがよ、俺はお前達の意思を尊重してぇ。ある程度の困難は俺が何とかしてやる。だからよ、自分の意思を貫き通しちまえ」
エドワードはそう言って不敵な笑みを浮かべた。
妹達の笑顔とエドワードの言葉で俺は決意する。
「分かった。どれだけ助けられるかは分からないが、やるだけやってみよう」
「……あ、よ、良かった……ありがとうっ!」
「まだ礼を言うには早い。下手をすれば一人も救えないかも知れないんだぞ」
「それでも、あたし達だけじゃどうにも出来なかったから……あ、えっと、よ、よろしくお願いします」
シノンは急に口調を改め、頭を下げてくる。
「何時もの喋り方で良い。無理して敬語を使う必要はないぞ」
「あ、う、うん、分かった」
◆◆◆◆◆
方針を新たに一つ付け加えた俺達はその場で休憩を取る事にした。
暫くするとシノン以外の子達も目を覚ましたので、自己紹介を行った。
先ずはシノン、年齢は11才で金色というよりは黄色に近い髪をショートにしている。
大人相手でも対等に話せる勝ち気な性格だ。
そのシノンの妹であるシリン、年齢は9才でシリンと同じ色の髪は背中まで伸びている。性格はシリンとは逆で大人しめだという。
次にシノン姉妹とは幼馴染のカティ、年齢は10才で茶色の髪をポニーテールにしている。
この様な状況なので今は分からないが、何時も笑顔を振り撒く優しい性格らしい。
四人目はカティの妹であるソフィ、年齢は8才でカティと同じ色の髪をツインテールにしている。素直じゃない性格らしく、助けられた時の礼も少し上から目線だった。
最後は冒険者組合長の孫であるクレア、年齢は10才で白い髪を腰まで伸ばしている。
さっきは限界で泣いてしまったが、普段は無表情で寡黙な性格らしい。
五人全員が女の子だ。それぞれの親や兄は抵抗して殺されたり、連れ去られたらしい、特にクレアに関しては両親と兄が目の前で殺されてしまっていた。
俺達の事に関しては冒険者という事と、捕まっているコロナの友達を助けに行く事だけを話した。異世界人や元王女だという事は軽々しく話せる内容じゃないからな。
話を終えた俺達は休憩を切り上げ、全員で馬車に乗り出発する。
何時の間にやら10人以上の大所帯になってしまったが、その殆どが子供なので馬車には充分乗る事が出来た。
御者はエドワードに変わったり、俺はエドワードの隣に座った。女の子達は全員が馬車の中に乗せた。敵の本拠地まで後数時間なので、警戒の意味も含めてこの形だ。
森を抜けると草原が俺達の目の前に現れる。
エドワードの話によると、ここからプレンツェアまで後一時間位で着くとの事だ。
途中、瘴魔が数体現れたが見晴らしが良いので接近される前に気付き、椿姫やヒルティの魔法により接近される前に倒せていた。
そしてプレンツェアが見えたところでメイナの居場所を示す魔導具を使うと、間違いなくプレンツェアの方を強い光を放ちながら示していた。
それからプレンツェアへ近付いたところで街道から外れ、草木が生い茂る中に馬車を隠す。一旦ここに隠れたのは、現状の装備と戦力の再確認及び偵察の為だ。
そこで未だ確認していなかったコロナとエドワードの能力値を先ずは確認する。
名前等:コロナ・フラウ・トゥレラ 人間族 女 15才
称号:元トゥレラ王国王女 重度兄愛 魔法剣士
技能:兄妹魔法【軍隊強化】 身体強化(弱) 魔法剣(火・風)
加護:兄妹神の加護 兄の加護
状態:正常
準位 10
生命力 662/178+499
精神力 587/159+445
筋力 88+158
体力 91+164
耐久力 87+157
俊敏力 132+238
知力 79+142
魔力 80+144
兄妹魔法【軍隊強化】
自分が指揮している軍隊全ての能力を二倍にし、士気を向上させる。
但し、軍隊が100人以下の場合には使用出来ず、効果時間は1時間で使用後は24時間使用できない。
魔法剣(火・風)
本人が装備している武器に火若しくは風の属性を纏わせる事が出来る。
相手の状態次第で通常より大きい威力を発揮できるが、逆に威力が下がる場合もある。
身体強化(弱)
筋力・体力・耐久力を一時的に基本値の20%アップ出来る。一日に5度が使用限度。
兄妹魔法【軍隊強化】は少人数では使えないが、戦争時には有効な王族らしい魔法だろう。
魔法剣は火や風の属性に弱い者には威力を発揮するが、逆に強い者には効きにくくなるとの事だった。
そして次はエドワードの能力値だ。
名前等:エドワード・キャンベル 人間族 男 48才
称号:元トゥレラ王国近衛騎士団長 トゥレラ旧王都警備隊長 重戦士
技能:身体強化(極) 身代防御 完全防御
加護:武神の加護
状態:正常
準位 251
生命力 4598/4607
精神力 1512/1523
筋力 2312
体力 2309
耐久力 2298
俊敏力 1278
知力 1015
魔力 508
………………強すぎないか?
補正値込みのコロナの約10倍位強い。
俺が今準位15で筋力が補正値込みで800位だが、それより約3倍強い。
俺が能力値的にエドワードに並ぶにはまだまだ先の事になるな……。
そして、フランツはエドワードより強いと言っていた。
エドワードにすら届いていないのに、フランツに勝てる筈がない。
エドワードの話によれば、数値は絶対じゃないとは言っていた。
その証拠に戦闘時は油断しなければ生身でも刃を跳ね返すが、寝ている時に短剣で急所を刺されれば、どんな強者でも死んでしまうと言う。
だが強者であればあるほど、そんな隙は中々見せないだろう。
もしフランツに発見されれば、逃げる事すら厳しいかもしれない。
そこで目に付いたのがエドワードの技能だ。
身代防御
範囲内に居る味方の攻撃を代わりに引き受け、その際に受ける被害を一割に減少出来る。但し、範囲は本人を中心に10メートル内かつ、効果時間は10分間で使用後は24時間使用できず、本人が受けた被害は減少出来ない。
完全防御
10分の間、完全に攻撃による被害を無しに出来る。
但し、この技能を使用中は他の技能を使用する事は出来ず、他の技能を使用している時はこの技能を使用出来ない。
この二つの技能ならば、フランツ相手にエドワードと連携及びエドワード単体で足止めが可能だろう。
それぞれの能力を確認し終えた所で、プレンツェアへの侵入路を見付ける為にエドワードを偵察に送り出す。
「それじゃ行ってくる。迂闊に動くと見付かる恐れがあるから、ここで待っていろよ」
エドワードはそう言ってプレンツェアの街へと向かって行った。




