第四話 行方
レオン王子の部屋を出た俺達は自分達の部屋へと戻り、足りない物がないか確認を行う。人数が増えたために、必要な物も必然的に増える。夜営用の寝具、食器に食料に薬等、増えた人数分買い足す必要がある。
手分けして買う事も考えたが、暗殺者に襲われる可能性も考慮し皆で行く事にした。
前回巡った買った店を中心に行ったため、それほど時間はかからずにお昼頃には城に戻って来れた。
コロナの装備に関して聞いたところ、叔父から貰った装備がかなり良いものらしく、変える必要はないとの事だ。
因みにコロナの装備は、魔法耐性もある希少金属を使用した小型の盾を持ち、防刃が施された女性騎士用の制服を着ており、足は白い色のブーツに似た俊足性能の靴を履いている。盾や細剣がなければ、地球の高校生と言われても違和感がないだろう格好だ。
黄色いリボンタイに白い長袖のブラウス、同じ白色の膝上スカートは、可愛いというよりは清楚な雰囲気のコロナによく似合っている。
そして武器の細剣には、瘴魔に効きやすい浄化魔法が掛かっているそうだ。
道具や装備の確認も終わり、食事も取り終わった頃に部屋の扉がノックされる。
入室を許可した後に入って来たのは、エドワードだった。
エドワードは警備隊用の正規装備ではなく、どこにでもいそうな冒険者風の格好だ。
だが、その背には長大な大剣を背負っており、それがエドワードを剣士だと示していた。
「お前らも準備は出来たか?」
「ああ、もう何時でも出発出来る」
「外に遠距離用の馬車を用意している。歩きだと時間が掛かりすぎる。馬車で行けばかなり時間を短縮できるからな」
聞くとレオン王子が融通してくれたらしい。
少しでも早く助けに行けるに越したことはないので非常に助かる。ありがたく使わせて貰おう。
城の外に出ると、この間乗った馬車よりも大きな馬車が目に入った。装飾等はなく質素ではあるが、造りがかなり頑丈に見える。この大きさだと、十人以上は余裕で乗れそうだ。牽引する馬は二頭で、白と黒の対称的な色をしている。
中に入ると、荷台には人が座れる空間があり、四人位は座れそうな長椅子が前方と中央に二脚備え付けられていた。そして仕切りを挟んだ後方には荷物が載せれる空間になっている。そこにはエドワードが準備したと思われる物が既に載せられていた。
「これは凄いな……」
「ええ、王族が使うような豪華さはありませんが、実用性に優れていますね」
「お馬さんも立派なの~」
「国を示す紋章が付いてないから、トゥレラ王国を走るのも問題なさそう。それに物資もエドワードさんが準備した物も沢山載ってるし、私達が準備した物を合わせると量は充分以上だね」
「この様な立派な馬車をご用意して頂き、感謝致します」
それぞれが感想を述べながら馬車を内外から眺める。
何時までも眺めている俺達を、エドワードが見かねて乗車を促して来る。
御者席にはエドワードが、座席の前列には左側から椿姫、俺、ヒルティの順番で、後列にはサマーリとコロナが座った。
御者は基本的にエドワードとサマーリが交代で行い、道中に全員が操縦出来るように教えて貰う予定だ。前回は上手く操縦出来なかったので、今回の救出作戦の間には是非とも操縦法を覚えておきたい。
全員が席に着いたのを見届けたエドワードが馬車を出発させる。
因みに見送りは断った。暗殺者達がまだ他にいるかも知れないので、目立つ事は控えたのだ。
フォティスに挨拶を出来なかったのは残念だったが。聞くとエドワードの仕事を回されて顔を見せる暇もなかったらしい。
エドワードの希望でもあるが、連れ出したのは自分でもあるので心の中で謝っておく。帰って来たら実際に謝る事にしよう。
馬車は北門に向け、ゆっくりと街の目抜通りを進んでいく。
貴族街は相変わらず人が居ない。住んでいた貴族が居ないのだからしょうがないのだろうが……。
そして、俺達は北門を抜け街の外へと出る。そこで一度コロナが持っている、メイナという子の場所を示す魔導具を使用する。
使用するには多少の精神力が必要らしいが、常に起動していなければ負担にはならないとの事だった。なので、一時間毎に起動し方向の確認を行う形になった。
「この方角にメイナって子がいるのか、ところでこの先は何があるんだ?」
「北向きだが若干西よりだな……この方角にある大きな街は……確か港湾都市プレンツィアしかねぇな」
「港湾都市?」
「ああ、トゥレラ王国と同盟国のエマナスタ帝国を繋ぐ貿易港だな。昔は他にも交易をしていた国があったが、国王が変わってから無理な税金を掛けてな、それでエマナスタ帝国以外には見切りを付けられちまった」
「何で、エマナスタ帝国は交易をやめなかったんですか?」
「お祖父様──先代国王陛下が、エマナスタ帝国建国に手を貸してくださったと聞き及んでおります。その恩もあったようですが、お父様も強大なエマナスタ帝国との交易を切られるのは不味いとお思いになったのでしょう。エマナスタ帝国には無理な税は持ち掛けなかったようです」
「昔は賑わっていたんだがなぁ……今では見る影もない状態だ。一応トゥレラ王国の重要拠点ではあるから第一王子が統治してるが……この王子もトゥレラ国王そっくりな性格をしてやがるんだ。はっきり言ってプレンツィアは王都並みに酷い状態だ。正にあの親にして子あり、だな」
エドワードの歯に衣着せぬ物言いに、コロナの表情が曇った。
「コロナ、大丈夫か?」
「あ……すみません、お兄様……。わたくしにもあの人達と同じ血が流れていると思うと、わたくしも何時かああなってしまうのではないかと思いまして……」
「コロナ……大丈夫だ、コロナが人を思いやれる子だと俺は知っている。じゃなきゃ元は自分の命を狙ってきた子を助けようとは思わないだろ? コロナは絶対にそんな事はならない、兄である俺が保障する」
「お兄様……はい、ありがとうございます!」
コロナの表情に笑顔が戻り、俺はホッとする。やはり妹には何時も元気でいて欲しいからな。そしてエドワードには女性陣からの非難の視線が殺到していた。
御者席でこちらに背中を向けていても、その視線は感じているのかエドワードの挙動が少しおかしかった。
「う……申し訳ありません、コロナ様がおられる前で軽率でした……」
「いえ良いのですエドワード、事実ですから……。それに感謝もしています、お陰様でお兄様にお優しい言葉を掛けて頂けましたから」
「は、はぁ……」
「エドワード、トゥレラ王国の第一王子がその街にいるといったな。ならそこには……」
エドワードが申し訳なさげにしていたので、庇ってやるべく話題を変える事にした。
俺の意図を理解したエドワードは、途中で切った俺の言葉の先に続く事を予測し、その先を続ける。
「ああ、調査した結果、そこにトゥレラ国王が落ち延びたのは間違いないな」
「そうか……」
「お兄ちゃん……」
「にーに、大丈夫なの?」
自然と俺の身体には力が入る。それを察したのか、隣にいる椿姫とヒルティが俺の腕を抱き締めてくる。二人の俺を心配する気持ちを感じた俺は、身体に入っていた力を抜く。
「すまん。俺は大丈夫だ。二人ともありがとな」
俺の言葉に二人の顔に笑みが浮かぶ。腕はそのままで離してくれなかったが。
「お兄様? お父様を何故そんなにお気になされて……もしかしてお父様に何かされたのですか?」
「それは……」
しかし俺達の様子を不思議に思ったのか、コロナが疑問を投げ掛けてくる。
そういえば、コロナには俺達にあった事は話していない。俺達が異世界の人間だと言うのは構わないが、トゥレラ国王が俺達にした事を話すのは気が引ける。コロナの性格からして間違いなく気に病むだろう。
「お兄様、教えて頂けませんか? お父様の性格はよく理解しているので、ある程度の予測は出来ております。それでわたくしが気に病み、お兄様への態度を変える事はしないと誓います。ですからお願い致します」
コロナのその真剣な表情と誓いに俺は話す事にした。俺と椿姫が異世界の人間だという事、トゥレラ国王に捕まり拷問された事、ヒルティも別口で捕まり精霊魔法を封印された事、直接ではないが治安悪化による間接的な被害者であるサマーリにあった事も話した。
「そんな事が……皆様全員がお父様から、直接にしても間接にしても被害におあいになっていたのですね……」
「ああ、だからと言ってコロナが気に病む必要はないからな」
「はい、そう誓いましたから、その誓いを破る事は致しません。わたくしが謝っても意味がない事も理解しております。ですが、家族として皆様の心の傷を癒せる様に頑張るのは問題ないですよね?」
「ん? そうだな、それは誓いを破る事にはならないが、具体的にはどうするんだ?」
「ふふふ、それはわたくしが皆様と仲良くして、幸せな記憶で皆様の辛い記憶を思い出さないくらい埋めて差し上げます。覚悟して下さいね」
そう言ったコロナは、気負った物がない晴れ晴れとした表情をしていた。
◆◆◆◆◆
和気あいあいとしながらの道中は、何事もなく順調だ。
今の御者はサマーリが行っており、俺はその隣で馬車の操縦法を習っている。
太陽……ではなく日光が沈み掛けた頃に、エドワードにもうそろそろ街に着くと言われた。
そこで一泊し、朝出発すれば夕刻には次の街へ、更に一日後にプレンツィアに辿り着くらしい。因みに今から立ち寄る街まではアギオセリス王国領になっているとの事だ。
それから少しすると、遠くに柵らしき物が見えて来る。
エドワードに確認すると、そこが中継地の街で間違いないとの事だった。
更に約十数分後、俺達は街の入り口へと辿り着く。
木製で出来た成人男性二人分くらいの高さの柵が街を囲っており、同じく木製の門は開かれている。そして、その側にはアギオセリス王国の兵士らしき男が二人立っており、その内の一人が門に近づく俺達に声を掛けて来た。
「失礼、ここはルクソールの街だ。何用か?」
「俺達はこういう者だ。今は作戦行動中につき詳細は省かせて貰うぞ」
「こ、これは失礼致しました。どうぞお入りください」
後ろにいたエドワードが御者席に身を乗り出し、自身の身分証を兵士に見せる。
それを見た兵士は姿勢を但して敬礼をし、俺達を街の中に誘導する。
「まだ治安は安定しておりません。充分にお気を付け下さい。宜しければ馬車は兵舎に預けた方が安全かと」
「ああ、分かった。そうさせて貰う」
兵士の忠告を聞きながら俺達は馬車を街の中へと進める。
殆どの家が木製で出来ており、その家の殆どが旧王都と同じ様に崩れている箇所がある。街を歩く人も少なく活気は感じられない。
流石に大通りで狼藉を働く者の姿は見掛けなかったが……。
そんな街の状態を見ながら俺達は、エドワードの案内でまずは兵舎へと向かう。
そこでもエドワードが身分証を見せると、快く馬車を預かってくれた。だが、寝る場所は孤児等を受け入れていたために空いて居ないらしく、俺達は泊まれる宿に向かう事になった。
兵舎で馬車を預かってくれた兵士から、この街でお勧めの宿を紹介して貰った。
兵士の話によると、その宿以外は質も安全面でもお勧め出来ないとの事だ。
街自体はそれほど大きくなく、余り時間も掛からずにその宿に到着する。
その宿を見て俺は成る程と納得した。宿の入り口には冒険者と見られる二人の男が立っている。恐らくは彼等がこの宿を警備しているのだろう。
俺達が宿に入る際に止められたが、エドワードが身分証を見せる事により、門と同じ様にすんなりと入る事が出来た。
宿の受付をしていたのは、実直そうな40才位の男だ。受け答えも丁寧で誠実さを感じさせる。俺達はこの宿が問題無いと判断し、この宿に泊まる事にした。
部屋割りは勿論、エドワードが一人部屋に、エドワード以外全員がこの宿で一番大きな部屋に泊まる事になった。エドワードを信用していない訳ではないが、妹達がいる部屋に泊まらせるのは、兄妹でも無い男女が同室では問題だからだ。そして、俺がエドワードと同室で無いのは、俺と離れて寝るのは妹達が嫌がった。
結果、この形になったと言う訳だ。
その際にエドワードがちょっと寂しそうに見えたのは、きっと気のせいではないだろう……。




