第三話 報告
俺達は早速エドワードと話をするべく行動、と思ったが時刻は既に日にちを跨ごうとしていた。流石にもう遅すぎるので今日はもう寝る事にする。
それぞれが眠るべく寝間着に着替える中、コロナだけは一度自分の部屋に行き、着替えて戻ってきた。
何故、戻ってきたのかといえば……まあ、そういう事だ。
大きなベッドの上で俺は何時もの様に仰向けで、その上には椿姫が、両脇にはヒルティとサマーリ、そしてサマーリの横にはコロナが寝転がる。
コロナは流石に俺に抱き付いて寝るのは恥ずかしいらしい。
「うぅ……皆様、よくお兄様をお抱きになって眠れますね……。それは流石にまだ恥ずかしいです……」
「だが、同じベッドでは寝るんだな」
「そ、そこは譲れません。わたくしもお兄様のお側に居たいですから……」
ただ、何処か接触していたいと言うので、腕枕をする事にした。サマーリが肩辺りに、コロナが前腕に頭を置く形だ。
朝起きたら痺れが凄い事になりそうだが、妹達の為ならそのくらいは何て事はない。
それにしても、異世界に来て数日で三人も妹が増えてしまった。
この調子で増えるととんでもない数になりそうだし、今夜の様に全員で寝る事も不可能になるだろう。まあ、今からそんな事を考えても仕方がないか……。
俺は四人の妹達の体温を感じながら眠りに付いた。
◆◆◆◆◆
朝 、目が覚めると予想通りというか、予想以上に腕には感覚がなかった。
これは大丈夫なのか、と思ったが暫くしたら痺れがやって来たので、その痺れに悶えながらも安堵する。ヒルティに治癒魔法を掛けて貰わなければ、かなり辛いところだった。サマーリとコロナは少し申し訳無さそうな表情をしていたが、気にするなと頭を撫でてやると、顔に笑みが戻ったので一安心する。
運ばれて来た朝食を食べ、時刻を確認すると時計の針は九時を示していた。
初めは電気が無さそうな、この世界でどうやって動いているのかと思ったが、瘴魔から取れる瘴魔石が動力になっているそうだ。
それはともかく、まずはエドワードに会える様に連絡を取るべく、朝食を片付けに来た侍女へとエドワードに会いたい旨を伝える。
侍女は「畏まりました」と一礼して去っていった。
後は待つだけだ……妹達とテーブルに着き食後のお茶をゆっくりと頂く。
この街のお茶は一般的に地球でいう紅茶が主に嗜まれていた。俺達が今飲んでるのもそれだ。因みに緑茶はこの街には無いそうだ。だが、存在自体はしているそうなので機会があればいつか飲めるだろう。
そんな事を考えながら待っていると、先程の侍女が戻って来た。
「レオン殿下とエドワード様がお会いになるそうです。ご案内致しますので私めにご同行お願い致します」
そう告げた侍女の後に俺達は付いて行く。
城内の廊下からは始めに連れられた時に見た、お金が掛かってそうな美術品等の物は綺麗に無くなっていた。もしかしたら、それを売ったお金でこの街の立て直しを行っているのかも知れない。元々は民の血税で揃えられた物だ、民に還元されるのならそれが良いだろう。
侍女がとある扉の前で立ち止まり扉を二度軽く叩き、俺達が来た旨を中に伝える。その様子から、きっとここにレオン王子達がいるのだろう。直ぐ様中から入ってくれと声が掛かる。声の感じからしてエドワードと思われる。
侍女が静かに扉を開き、俺達に入室を促す。俺達はそれに従い、俺を先頭に部屋の中に入った。
俺達が世話になっている部屋程の広さの部屋には、会社の社長が使うような木目の入った重厚な机、それに八脚の椅子が並べられているテーブルがあるのみで、美術品等の華美な物は見当たらない。
そしてそのテーブルの上座に座っている一人の男──レオン王子とその後ろに控えるエドワードの姿が目に入った。
「おはよう、昨夜は大変だったみたいだね。まあ、それはともかくまずは座ってくれるかな」
俺達は朝の挨拶を返し、それぞれ席に座る。俺はレオン王子を正面に見れる対面に座り、椿姫とヒルティが俺の左手側に、サマーリとコロナが右手側のそれぞれ三脚ずつ置かれている椅子に座った。そして空いた席の内、椿姫とヒルティが座っている側にエドワードが座る。
「さて、僕も色々と聞きたい事や話したい事もあるけど、どこから話そうか?」
「それじゃあ、まずはエドワードさんから依頼されてた件から報告しますね」
レオン王子の振りに答えたのは椿姫だった。まあ、椿姫なら俺よりも上手く話を進めるだろう。俺は取り敢えず今は椿姫に任せる事にする。
「まずはトゥレラ王国王女のコロナおね──コロナ・フラウ・トゥレラ様を見付けました。こちらの彼女がその人です」
「レオン殿下、お初にお目にかかります。ご紹介に預かりましたトゥレラ王国元王女のコロナ・フラウ・トゥレラで御座います」
「君がコロナ王女かい。僕はアギオセリス王国第二王子レオン・オブ・ アギオセリス。あらかじめ言っておくけど、僕は──アギオセリス王国は貴女が敵対的でない限り、貴女に手を出すつもりはないよ」
「それを信用しても宜しいのでしょうか?」
「うん、僕が信仰する神に誓うよ」
「……分かりました、信用致します」
少なくともアギオセリス王国側から、敗戦国の王女であるコロナに何かするつもりは無さそうだ。コロナから手を出せば別だろうがそれはないだろう。
そこで椿姫が話を先に進める。
「それと、コロナおね──コロナ様の──」
「何時も通りの呼び方で構わないよ。僕達以外は誰もいないからね」
「……分かりました。コロナお姉ちゃんの叔父さんに関してですが、コロナお姉ちゃんの話によるともう……」
「そうか……それは非常に残念でならないね……」
椿姫が切った先に続く言葉を予測したレオン王子が、残念そうに首を振る。
「実はね、もし無事にお二人を保護できた際には旧トゥレラ国領を任せようと思っていたんだ。お二人はトゥレラ国王と違って民に慕われてるからね。もし排除すればトゥレラ国民から反感を買うからね。それはなるべく避けたかったんだよ」
成る程、それがアギオセリス王国の目的か。見付からなければしょうがないと諦めるが、もし保護出来れば彼らを領主に据え、民からの信頼を得ようとしたのだろう。
「それでだよ。コロナ王女。貴女に旧トゥレラ領の統治をお願いしたいんだ。無論、一人じゃ大変だろうから、優秀な補佐はつけるよ」
「大変過分な申し出では御座いますが、わたくしはこちらにおられるお兄様達に救われ、今こうしてこの場に存在出来ております。その恩に報いる為に、わたくしはこの身をお兄様に捧げました。よってわたくしは既に王女ではなく、お兄様の妹であり、それ以上でもそれ以下でも御座いません。大変申し訳ありませんがお断り致します」
相手は自分達の国を負かした敵国の王子である筈だ。なのにコロナは一歩も退かず自分の現在の立場を貫き通した。その事にコロナの俺に対する気持ちが、本気などだと再度気付かされた。
そして、それはレオン王子も同じだった様で、口を開け驚いていた。
「まさか一国の王女にここまで慕われてるとはね。君は凄いひとたらしの才能を持っている様だね。このエドワードも君を買ってるしね」
「はい。もし可能であるならば是非私の部下に、と思っておりました」
エドワードの言葉に今度は俺が驚く。確かにアギオセリス王国に行かないか誘われはしたが、そこまでとは思わなかったからだ。
だが、それなら何故誘わなかったのだろうか?
その事を聞くと、流石に異世界人を警備隊の隊員程度にする訳にはいかないと言われた。本人が望んだとしても、少なくとも貴族の位にはしなければならないらしい。
「領主の件は残念だけれど、それはそれ、依頼達成の報酬はあげないとね。そうだなぁ……一刀君は何か欲しい物はあるかい?」
「え……急に言われても……椿姫は何かあるか?」
「うーん、寝食と安全の保障はして貰えてるしね……しいて言うならコロナお姉ちゃんを私達の身内として認めて欲しい位かな……」
「それは報酬としては成り立たないね。兄妹とは本人同士の意思で決めるものだから」
「ええと、それはコロナは今後俺達と行動するのに、何も制限は無いと考えても?」
「うん、問題ないよ。そこのヒルティちゃんの時と同じ様に、何に置いても兄妹が優先されるからね。特に異世界人の一刀君の妹となると、無理に領主に任命する事も出来ないし、拘束も出来ないよ。流石に犯罪を犯せば別だけど」
という事は、コロナと共にメイナという女の子を助けに行くのに問題は無い事になる。とはいえ一応確認しておいた方が良いだろう。
「それは他の国に出向くのも問題は無いと言う事ですか?」
「うん、そうだね。なるべくならこの国に住んで欲しいけどね。そこも無理強いは出来ないよ。……あ、もしかして妖精族の子の封印珠の事かな」
「いえ、実はそれだけでは無くてですね──」
俺はコロナの従者であり友達の、メイナという女の子を救う為にトゥレラ王国に向かう旨を伝え、その際にエドワードの力を借りれないかを聞いた。
「……成る程、たった一人の女の子を救う為に敵国に行くつもりなんだね。……エドワード、君はどうしたい?」
「俺……私は彼等に付いて行きたいと思っています。無実の彼等が捕まり拷問されているのにも気付かず、助けるどころか何もしてやれませんでした。ですから、彼等がこの世界で問題なく生きていける環境が整うまでは、面倒を見てやりたいです」
「エドワード……」
まさか、エドワードが俺達に対して、そこまで考えてくれていたとは思わなかった。
確かにえらく世話を焼いてくれているな、とは思ったがそれは俺達が異世界人だからだと思っていた。
エドワードの方に視線をやると、エドワードはそれに気付いたのか俺からあからさまに視線を逸らした。……もしかして、照れているのか?
「そうかい、わかった。まあ元より護衛は付ける予定だったしね。それがエドワードになっただけだから。それじゃエドワード、後の事は副隊長に任せて直ぐにでも出発の準備をして来て。状況からして早速今日にでも出発した方が良いだろうからね」
「分かりました、早速準備致します」
レオン王子の許可が出るなり、エドワードは出発の準備の為に部屋を出ていった。
あっという間の展開に付いていけなくなりそうだったが、どうにか頭を切り替える。
「えっと……ありがとうございます。なんというか……正直すんなり話が通って拍子抜けしてますが……」
「妹からのお願いだからね、兄として放って置けない気持ちはよく分かるよ。僕の妹は滅多にお願いをしてこないから、たまにお願いをされるとついつい聞いちゃうんだよね」
「確かに……うちの妹達はしっかりしてますから、甘えては来ますけど、お願いはなかなかしてくれませんしね」
「うんうん、兄としてはもっとお願いして来て欲しいんだけどねぇ……おっと妹についての話が長くなるところだった。結局報酬に関しては何も決めてないね。そうだね……それじゃあ一旦保留にしとくかな? それでトゥレラ王国から戻って来るまでに考えて貰えば良いから」
「……そうですね……辞退っていうのは駄目ですよね?」
「そうだね、何か受け取って貰わないと逆にこっちが困るからね」
信賞必罰、王族として功績ある者に何も褒美をあげないなどしてはならないのだろう。向こうから考える時間を貰えた事だし、ゆっくりと考える事にした。
「さて、出発の準備もあるだろうから話はここまでかな……あ、一言だけ言っておくよ、目的を達成したら直ぐにでも戻って来る事をお勧めするよ、余計な事に気を取られると死に直結するからね」
そのレオン王子の言葉を聞きながら、俺達は部屋を後にした。
通販で購入した、サマー○ケッツが届きました\(^o^)/
ですが、更新が滞らない程度にプレイする予定です(^-^)




