第十九話 自害
すみません、更新を1日勘違いしてました。(-_-;)
俺は他に誰も居ないかを確認しながら、慌てずにフランに近づく。
見た限りでは外傷も無く、何かされた様子もない。
そして呼吸の確認、フランの口の前に手を翳すと息が掌に当たった。
無事を確認出来た俺は、椿姫と手分けしてフランを縛っている縄をほどく。
縄の後は残っているが、時間が経てば問題無く消えるだろう。
そこで漸くフランを起こすため、身体を揺すりながら声を掛ける。
「フラン、起きてくれ」
「……ん……」
「フランさん、起きてー」
「もう大丈夫だから、起きるの」
中々起きないので全員で揺する。するとフランの身体が大きく揺れた。
頭が凄い勢いで前後に揺れている。……ちょっと強すぎただろうか?
「……ん、ええと、ここは……あれ皆さん? あの、わたくしは一体どうしたのでしょうか? それに何故かちょっと頭が揺れて気分が優れないですし……」
やはり揺すり過ぎた様だ……。
「フラン、何処まで覚えている?」
「……ええと、いきなり馬車が揺れて斜めに倒れて……確か黒い格好の者達がいきなり入ってきて…………それからは覚えていません」
「そうか……簡単に説明すると、フランはその者達に拐われてここに運ばれたんだ。そして俺達がこの場所を突き止め、男達を倒してフランを見付けたところだな」
「そんな事が……ではまた助けて頂いたのですね。ありがとうございます」
「気にするな。前にも言ったろう? 趣味みたいな物だって」
「いえ、そう言う訳にも参りません。既に恩をお受けしているのに、何もお礼をしない訳には……ここはわたくしの身を差し出すしか……」
「……………………いや、ちょっと待ってくれ」
そう言ってフランは潤んだ瞳で俺を見上げてくる。その頬は赤く染まり、今言った事が冗談でも仕方がないでもなく、是非受け取って欲しいという気持ちが伝わって来る。
そのフランの様子に日本で助けた子達もこんな表情をしていたのを思い出す。
慕ってくれるのは素直に嬉しいが、流石に身体を差し出すと言われ受け取るのは躊躇われる。お互いが好き合っているならまだしも、俺とフランはそういう仲ではない。
サマーリといい、フランといい、どうして直ぐ身を差し出そうとするのか……。
「だ、駄目です! お兄ちゃんの初めては私が貰うんですから!」
「ん、その後はヒルティの番なの」
「……もしかしたら、とは思っておりましたが、やはりそういった間柄なのですね……という事はサマーリ様も……?」
少し前までの緊迫した空気は完全に吹き飛んでいる。どうしてこうなったのか……俺は思わず天を仰ぐ。
だが、そこで急に椿姫の顔が真剣な表情へと変わった。
「えっと、真面目に聞きますけど、フランさんはお礼の為だけにお兄ちゃんにその身を差し出そうとした訳じゃ無いですよね? それって私達に話そうとした事にも関係ある事じゃ無いんですか?」
「……無いとは言えません。男女の関係が出来てしまえば一刀様はわたくしの話を必ず聞いて下さると思いましたから。そして、ある事に力を貸して頂きたいと考えていました。ですが、その件とは別にわたくしは一刀様との確かな繋がりが欲しいのです。このまま冒険者仲間では終わりたく無いのです……」
フランがすがる様な目で俺を見上げてくる。
初めて会った時にフランに対して俺の技能が反応した。となるとやはり彼女もヒルティやサマーリの様に、何かしらの心の傷を負っているのだろう。
フランはサマーリと違って一人で生きて行けない訳ではない。だからと言って人との繋がりを求める彼女の事を振り切る事も出来ない。
そうなると、もう答えは一つしか無い訳で……。
「なあ椿姫、良いか?」
「……私としてはこれ以上増えるのは余りよくないけど……お兄ちゃんはそうしたいんでしょ?」
「ああ、椿姫がどうしても嫌なら別の方法を考えるが……」
「ううん、フランさんなら良いよ。……それにまだ勝てる可能性がある大きさだしね」
後半についての内容は追及しない方が良さそうだと聞き流し、椿姫の頭を撫でてフランに向き直る。
「フラン」
「は、はい」
「繋がりが欲しいのなら……俺の妹にならないか?」
「え、え、妹ですか? そ、それは求婚──」
「じゃないぞ、あくまでも兄妹にならないかと言う話だ」
「そ、そうですか……で、でも望みが無いわけじゃ無いですよね…………分かりました、これからは妹として宜しくお願い致します、お兄様」
前半は独り言の様に呟いた後に自己完結し、妹になる事を了承してきた。
まずは一つは解決した。後はフランの話を聞く必要がある。
彼女が何を抱えているのか……それは分からないが、フランが妹となったからには全力で対処するつもりだ。
「さて、フランの話を聞くにもここじゃ落ち着かないか……とは言えどうするか……」
「そうだね、この時間じゃ宿を探すのは大変だし……」
捕まえた暗殺者達の事もある、その身柄を渡してさようならという訳にはいかないだろう。そうなると自然と城に行くしか無いわけだが……。
俺は視線をフランへと向け、無言でどうするか尋ねる。
「お兄様、わたくしならもうお城に向かう事になんら問題はありません。そこで全てをお話し致します」
「……そうか、分かった。それじゃ一緒に城に行こう。と言っても応援が来るまではここで待つしか無いが……」
「お兄ちゃん、一応あの人達を見張った方が良いと思うよ」
「そうだな、あの二人以外には誰も居なさそうだしそうするか。フランは歩けるか?」
「はい、お腹を強く殴られはしましたが、痛みはもうありませんから大丈夫です」
「分かった、とその前にフランの剣を返しておこう。拐われた時に落ちてたんだ」
「あ、その剣は……ありがとうございます。この剣はとても大切な物でしたので……」
そう言って剣を抱き締めるフラン。余程大事な物なのだろう。
フランが腰に剣を付け直したのを見届け、俺達は屋敷の外へと出る。
だが、そこで俺達が見たものは──
「……どういう事だこれは……」
縄で拘束していた男達が、口から血を流し絶命している姿だった。
俺は男達の側へ行き、その内の一人を仰向けにし口の中を確認する。
どうやら、舌を噛み切った訳じゃない様だ。ではどうして男達は死んでいる?
そこで俺は血の臭いだけでなく、嗅いだ事の無い臭いが口からする事に気が付いた。
「……まさか、服毒自殺か?」
「うん、外傷も無いし、間違い無いと思うよ。何の毒かまでは分からないけど」
「何で……」
「この者達は任務失敗時に、口の中に仕込んだ毒を飲むように訓練されているのです」
「フラン……こいつらの事を知っているんだな」
「はい、一人一人は存じませんが、部隊の存在自体は存じております。この件も含めて後程お話し致します」
「分かった。今は聞かないでおく」
俺はもう動かない男達に視線をやる。何故この男達はこうも簡単に命を捨てれるのだろうか。誰かを守る為でもない、何かしら信念がある訳でもない、只任務に失敗しただけだ。それが俺には全く理解出来なかった。
この世の中には病気や事故、それに理不尽な暴力により死にたくなくても死んでしまう事が多々ある。俺自身や椿姫や両親もそうだった、それに──
そこで俺は考えるのを止める。これ以上考えると、気が滅入りそうだったからだ。
と、そこで馬車の走る音が聞こえて来たのに気づく。
馬車で暗殺者が来るとは思えないが、念のため何時でも動ける体勢にしておく。
そして、馬車がこの屋敷の前で停止する。馬車の横に付いている紋章はアギオセリス王国の物だ。どうやら通信機は問題無く、俺達の位置を知らせてくれた様だ。
そして初めに降りて来たのは──
「エドワードじゃないか」
「よお、昨日は城に戻ってこねぇから、どうしたかと思えば……どうやら厄介な事に巻き込まれたみてえだな」
エドワードは死んでいる暗殺者達を一瞥して、眉間に皺を寄せながらそう告げた。
「んで、こいつらは何者なんだ?」
「簡単に言うと、暗殺者だな……トゥレラ王国のな」
「なっ?! ちょっとまて何でそんな奴等が……」
「それなんだが、どうやら彼女の誘拐が目的らしい。確認前に二人共に自殺したが」
そう言いながら俺は視線を、斜め後ろに居るフランに向ける。
俺の視線を辿り、そこにいたフランを目にした瞬間、エドワードの顔が驚きの表情をする。そしてそれはフランも同様だった。
「ま、まさか……っ!」
「貴方は……」
するといきなりエドワードが片膝を地面に付き、そして頭をフランに向けて下げた。
そのエドワードの行動に俺は確信を持った。椿姫は既に確信していた様だが。
「コ──」
「お待ちなさい……彼らにはわたくし自らお話ししたいのです」
「はっ……」
喋ろうとしたエドワードを強い口調でフランが止め、エドワードは素直にそれには従った。その姿はまるで主人と従者の様だ。
「エドワード、ここはお任せしました。ではお兄様、お城に参りましょう」
「ああ」
フランの言葉に何かに驚いた表情を見せたエドワードだったが、結局何も言わずに俺達を見送っていた。馬車に乗り込むと俺達が声を掛けずとも馬車が出発した。
俺達が今回乗った馬車はかなり大きく、十人くらいなら余裕で乗れる程広い。
そして、座席は前後に対面で五人ずつ座れる形だ。
後ろの席に椿姫、俺、ヒルティの順で座り、対面にはフランが中央に、そしてその左右に護衛として二人の女性兵士が座っていた。
護衛に関しては馬車の中だけでなく、馬に乗った兵士達十人位が馬車を囲んでいる。
もし暗殺者がまだ居たとしても、この警備では襲って来る可能性は低いだろう。
だが、俺はそれでも気を抜いたりはせずに、緊張感を保ち続けている。
緊張感を保ち続けている俺の様子に気付いているのか、誰一人声を発しない。
そんな無言の状況は城に着くまで続いた。
◆◆◆◆◆
城に着き、馬車から降りると何者かが俺に抱き付いてきた。
その正体は、フランを助けに行く際に一時別れたサマーリだった。
「兄上様! それに皆も無事でよかったです!」
そう言いながら、サマーリは俺の胸に頭を擦り付けて来る。
俺はそんなサマーリの頭をそっと撫でる。するとサマーリは非常に嬉しそうな表情で微笑んだ。
聞くとフォティスが、サマーリも狙われる可能性があると考え、念のため城で匿った方が良いと判断し、城に連れられたとの事だった。
サマーリと合流した俺達は、俺達が使っていた客間へとフランと共に案内された。
俺達がそれぞれ椅子に落ち着けたのを見計らったかのように、護衛の女性兵士達は一礼して部屋を出ていった。最後に俺達以外に侍従の女性が残っていたが、俺達用の飲み物の準備を終えると、同じ様に一礼して部屋を出ていった
そして部屋に残るのは俺達五人のみ。
俺達はテーブルを囲む様に座っており、そのテーブルには先程侍従の女性が用意したお茶が置かれている。だが今そのお茶に手を付ける者は誰もいない──
──かに思われたが、フランがカップを手に取り、一口に含みテーブルへとカップを戻した。そして一息つきフランが口を開いた。
「それでは、まず自己紹介を致しますね。わたくしは──トゥレラ王国の国王、ルドルフ・フォン・トゥレラの娘で、コロナ・フラウ・トゥレラと申します」




