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異世界転移で兄妹チート  作者: ロムにぃ
第一部 第二章 異世界で冒険者活動
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第十七話 誘拐


「す、凄い……あれを倒されてしまうなんて……」

「にーに、格好良かったの!」

 

 気を失っている椿姫を除いた二人からの称賛の声を上げるが、ほとんど椿姫のお陰だ。椿姫の魔法が無ければ、結果は真逆だったかもしれない。そうならずに済み、安堵のため息を吐く。

 それにしても疲れた。長時間戦ったかの様に感じたが、空に浮かぶ日光はまだ中天にすら達していない。

 少し休みたくはあるが、休むにはここは余り適していない。そこら中に瘴魔犬の死体が転がっているからだ。というか、この死体の処理も行わなければいけない事に辟易してしまう。魔法の使いすぎで精神力の切れた椿姫に瘴魔石の摘出を頼むのは酷だし、その後のヒルティによる浄化もこの量では厳しいだろう。

 となると、一度フォティスの元に戻り、処理を手伝って貰う方が良いのかも知れない。それに瘴魔の大量発生の原因を実際に見せる事で、今後同じ様な事があれば対策も講じれるだろう。そう考えた俺は二人にその事を説明し、森の外へと向かう事にした。

 

 ◆◆◆◆◆

 

「こ、これは……」

 

 森の外でフォティス達と合流した俺達は、昼食を取りながら状況の説明を行った。

 因みに椿姫は森の外に出た辺りで目を覚ました。まだボーッとした様子だったが体調には問題無さそうだ。

 そして食事を終えた俺達は、フォティス達と共に例の広場へと向かい今に至る。

 フォティス達はその死体の数に呆然としていた。話はしていたが、実際に見るとやはり衝撃的な状態ではあるだろう。

 だが、それも少しの間だけで、直ぐ様気を取り直し作業に取り掛かっていた。

 流れとしては瘴魔石の摘出作業を行い、そして広場中央部に摘出の終わった瘴魔を置いて、焼き払う形となった。

 兵士達は各々が摘出作業と中央の焼却場所へ瘴魔の運搬、俺達は椿姫の魔法での瘴魔石の摘出、ヒルティとフランがペアで摘出作業、俺は摘出が終わった瘴魔を焼却場所に運搬、といった形に作業を分担した。

 その作業中に意外な事が分かった。ヒルティは摘出作業に慣れており、兵士達と変わらない速度で摘出を行っていたのだ。聞くと妖精族は老若男女問わず瘴魔の討伐を行うらしく、その際に摘出作業も必須になるので、出来て当たり前なのだとか。

 反対にフランはやり方を知らず、ヒルティに習いながら青い顔で作業を行っていた。

 無理しなくて良いとは言ったが、本人は冒険者になるなら慣れないと、と言って解体作業を続けている。

 流石にサマーリにさせるのは酷なので、テーブルを用意しそこで皆に水を渡す様に頼んだ。本当はこの場に呼ぶのも躊躇ったが、一人にする訳にもいかずに連れてきた。

 そして俺は中央で燃え盛る瘴魔達の死体の臭いに顔をしかめながら、黙々と瘴魔石を採取し終わった死体を運んでいく作業をしている。

 因みに瘴魔石は俺と椿姫の【収納空間】へと入れている。その際に、人造瘴魔犬の瘴魔石の大きさ──成人男性の頭位──に驚く一幕もあった。

 時折休憩を挟みながらの作業は、夕刻に漸く終わった。

 俺達とフォティスは街に戻る事になったが、兵士達は瘴魔が燃え尽きるまでの見張りと、瘴魔の残党処理の為ここに残るとの事だ。

 街に戻る際に、フランは何か考え事をしており、じっと黙っているのが印象的だった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 街へと戻った俺達はまずは冒険者組合へと向かう。今回の件を報告するためだ。

 組合長室で俺達の報告を聞いた副組合長は、驚愕の表情をしていた。

 

「そんな瘴魔は見た事も聞いた事もないのう……。しかも、それが人の手に依るものとは俄には信じがたい話じゃ……」

「俺はこの世界の常識は詳しくはありませんが、流石にあれが普通でない事は分かります。何かしらの対策を立てる必要があるでしょう」

「これはワシだけ裁量では、どうすべきか判断が難しいわい。この件を明らかにすべきかもふくめての」

「ん? それは、どういう……?」

「お兄ちゃん、今回の件だけど時機があまりに良すぎるの。アギオセリス王国がこの街を占領して直ぐだからね。何処かの国家か大きな組織が関わっている可能性があるの。となると冒険者組合の一支店じゃ対応は難しいんじゃないかな」

「……その通りじゃ。冒険者組合は国家とは基本関わらん、関わるのは依頼という形でのみじゃ。じゃが、今回は国家の戦略的行動もしくは裏組織の仕業の可能性が高いのじゃよ。今回の様に依頼があり、それを受ける冒険者がいればそれを解決するために動きはするのじゃが、今回の様にその後の政治的判断が必要な案件は、冒険者組合では対応出来んのじゃよ」

 

 その話に理解は出来るが、納得は出来ない。同様の事があれば、下手をすれば街が滅ぶ可能性もある。

 正義感を振りかざすつもりはないが、流石にそれは気分的に良く思わない。しかも今回は自分達も関わったので尚更だ。

 だが、冒険者組合は動かない、いや動けない、となると──

 

「はぁ……そうなると今回の件はエドワードに任せた方が良いか……」

「そうだね、今回の依頼元は国だから、兵士の人達から報告はいってると思うけどね」

「すまんのう、冒険者組合はあくまでも依頼者と冒険者を仲介する団体にしか過ぎないからの」

 

 日本でいう人材派遣会社みたいなものか……確かにシステム的には似ているが……。

 派遣元はあくまで人を送るだけで、その事で見つかった問題は対応出来ないみたいな感じだろうか?

 なかなかに面倒くさい事だと、俺は内心嘆息する。

 とにかく、これから先は国に任せるしか無いと言う事だ。

 

「報酬に関してじゃが話を聞く限り、今回の依頼は結果的に報酬と内容が釣り合っておらん。今回の様な場合は報酬額の追加は提示出来るでの。じゃが、その追加報酬に関してはすまんが数日後になるじゃろう」

「いえ、恐らく数日位は大丈夫かと、それに報酬が増えるのは正直助かります」

「そうか、すまんのぉ。それと位階に関してじゃが、これも結果的には9級の依頼には収まらん内容じゃ。じゃから今回の依頼のみで、全員の位階を1級ずつ上げる事にした。」

 

 それも問題はないだろう。こちらとしては受諾可能な依頼の幅が拡がる訳だからな。

 また今回みたいな状況に陥るのだけは勘弁だけどな。……だが同じ様な事が起こりそうな予感はする。誰の仕業かは分からないが、あの場所でだけとは限らないだろう。

 

「とりあえず、冒険者証の更新と元々の報酬の入金を行うから、冒険者証の方をそれぞれ良いかの」

 

 報酬の入金と位階の更新をして貰った俺達は、次に瘴魔石を買い取って貰う為に冒険者組合の裏にある解体部屋へと向かう。そこには昨日と同じ男性が居た。

 

「お、昨日の兄ちゃんと嬢ちゃんたちか、今日は何の持ち込みだ?」

「今日は瘴魔石の持ち込みに来ました」

「ほう、瘴魔石か。量はどのくらいあるんだ?」

「少なくとも100個以上はあるかと……」

「はっ!? 一日で100個ってどういうこったっ!?」

 

 瘴魔石の個数に男性が驚愕の表情を浮かべる。まあそうだろう、俺達もあの状況でなければ一日でこの個数は集められるとは思えない。

 

「と、とにかく、これに入れてくれるか?」

 

 男性が示したのは乗用車位の面積はあるトレイだった。早速俺と椿姫は【収納空間】に仕舞っている瘴魔石を入れる……というよりは流し込む。

 【収納空間】に関しては前回の時に見せているので、何も言われなかったが、瘴魔石の量には唖然としていた。

 小振りの瘴魔石を入れ終わった俺達は、最後に人造瘴魔犬の大型瘴魔石を取りだし、トレイの空いたスペースにそれを置いた。

 

「こりゃ、デカいな……ここまでデカイのはなかなか見掛けないぞ……と、それよりも査定についてだが、流石にこの量はこの時間からじゃ無理だ。明日の、そうだな……夕方頃に来てくれるか? それぐらいには終わるはずだ。これが仮受取票だ、これを明日忘れずに持ってきてくれ」


 男性から仮受取票と書かれた紙を受け取った俺達は、解体部屋から出る事にする。

 さて、これからどうするか……。

 

「あの、お話があるのですが、これからお時間頂けますでしょうか?」

「分かった。重要な話、だよな」

「はい」

 

 冒険者組合を出た辺りで、フランが神妙な表情で俺達に声を掛けてきた。

 その表情から、彼女が今俺達に隠している事を話すのだと確信出来た。となると場所は何処が良いか。他の誰にも聞かれない様な場所、か……。

 

「お兄ちゃん、昨日泊まった宿屋で良いんじゃない? あそこなら聞き耳を立てられる事も無いだろうし……。それに……お城じゃ駄目なんですよね?」

 

 椿姫の問い掛けにフランが小さく頷く。

 そのフランの返答に、俺達は今日もあの高級宿に泊まる事が決定した。

 

 ◆◆◆◆◆

 

「……」

 

 俺達はサマーリが御者を勤める馬車で、旧王都の夜道をゆっくりと走り抜けていた。

 その馬車の中は馬車の立てる音のみで、誰一人として一言も喋らない。

 フランの纏う雰囲気に引き摺られているのだろうか、馬車の中の空気が重く感じられた。

 俺と椿姫はフランがかなり身分が高い者だろうと考えている。だがフランの様子から、ただ正体を明かすだけとは思えない雰囲気が感じられた。

 そんな雰囲気の中で何か話をする気も起きず、ただ黙って宿に着くのを待っている状態だ。

 沈黙に耐えられずにふと窓に視線をやると、そこには月──闇光が浮かんでいる。

 俺と椿姫がいた世界にある月と殆ど変わらないそれを見ていると、黒い何かが窓の外を横切ったかに見えた。その瞬間──

 

「なっ!?」

「きゃっ!」

「はうっ!」

「えっ!?」

 

 突如、何かが壊れたかの様な大きな音がし、俺達が乗る馬車が横に傾き始めた。

 馬車がフラン一人が座る側の地面へと、俺達三人が座る側が天井になるかの様に傾いている。このままでは倒れるのは時間の問題だろう。

 俺は咄嗟に反転し、椿姫とヒルティの頭を抱え込みむ。そしてフランへと向けて叫んだ。

 

「フラン! 左右どちらかに寄ってくれ!」

 

 フランが俺達に下敷きにされない様に、俺はフランへと指示を出す。

 背中を向けているのでフランが移動したかは分からないが、現状これ以上取れる手段がない。御者席のサマーリの事も気になるが、フォティスがどうにかしてくれるのを祈るしかない。

 そんな事を考えている間にも馬車は傾いていき──遂には轟音を立てて馬車は横倒しになってしまった。その際に、俺はその馬車の側面に背中を打ち付けられる。

 

「ぐうっ!!」

「「きゃぁぁぁっ!」」

 

 打ち付けられた衝撃で一瞬息が詰まるが、なんとか気を失わずに持ちこたえる。

 妹達の安否と、何が起こったのかの確認の為に身を起こそうとした、その時──

 黒い外套と黒い布で口を覆った何者かが、馬車後方の扉から二人侵入してきた。

 一人は身を起こそうとした俺を押さえ付け、短剣を俺の首に当ててきた。

 いきなりの事に対応できず、完全に押さえ込まれてしまった。

 

「はうっ!?」

 

 そしてもう一人はフランの腹を殴り付け、気を失った彼女を担いで馬車から出ていってしまう。それを見届けていた俺を押さえ付けていた奴は、俺を解放し同じく馬車から出ていった。二人を馬車に残し、俺は直ぐ様馬車の外へと出る。

 素早く辺りを見回したが、既に何者かの姿もフランの姿も確認する事は出来なかった。

 

「今のは……」

 

 そう呟いた俺の目には、拐われた拍子に外れたのか地面に転がっているフランの細剣と、闇に染まった街並みしか写っていなかった……。

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