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異世界転移で兄妹チート  作者: ロムにぃ
第一部 第二章 異世界で冒険者活動
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第十六話 母体


「な、なにあれ……」

「あんなの初めて見るの……」

「あ……あれは何なのですか……」

「まさか、あれも瘴魔……なのか?」

 

 姿形は小型の瘴魔犬そのものだが、大きさが違いすぎる。その身体はダンプカー程もあり、その体重は何トンあるのかも想像も出来ない。

 人の頭ほどあるその目は真っ直ぐに俺達を睨み付けている。

 その巨体に圧倒されながらも、俺は【鑑定】を使用した。

 

人造瘴魔犬(母体) 人造瘴魔族

技能:瘴魔生産 威圧 俊足 遠吠

称号:人造母体

準位   44

生命力  823/823

精神力  145/145

筋力   592

体力   435

耐久力  388

俊敏力  598

知力   58

魔力   87

 

 その数値を見た瞬間、俺の額から汗が滲み出たのが分かる。

 人造というのが気になるが、今はそれを気にしている場合では無い。

 広場中央部に鎮座する巨体──人造瘴魔犬は、俺の能力値に近い数値を持っている。

 因みに俺の今の能力値は──

 

塚原 一刀

準位   11

生命力  815/224+717

精神力  450/133+426

筋力   152+486

体力   113+362

耐久力  111+355

俊敏力  128+410

知力   65+208

魔力   68+218

 

 知力と魔力を除いた数値が俺と余り変わらない為、絶対に勝てるという保証がない。

 その事に退くか戦うかの迷いが生じる。

 それが致命的な隙となり、相手の先制を許してしまった。

 

「ワオオオオオォォォォォッッッ!!!」

 

 人造瘴魔犬の大きな口から発せられた、森中に響き渡るかの様な遠吠えに思わず耳を抑える。

 

「きゃあっ!」

「くうっ、み、耳が……」

「──っ!?」

「ぐっ!」

 

 その大きすぎる遠吠えの数秒後、複数の殺気を後方から察知した。

 

「全員森から出ろ!」

 

 俺は咄嗟に叫び、全員を広場へと移動するよう促す。すくんで動けなくなる者もおらず、全員が森から離れる。次の瞬間、木々の合間から次々と瘴魔犬が姿を現した。

 それは俺達が来た方向だけでなく、全方向から凄まじい数の瘴魔犬が広場へと集まってきた。一体何匹いるのか……恐らく100匹は下らないだろう。しかもまだ増え続けている。

 完全に囲まれてしまっている。もう逃げる事は不可能だ。となれば、集団戦において数が劣る方が取れる手は、如何に相対する敵を少なく出来るかだ。


「椿姫! さっきの障壁はいけるか?」

「うん、いけるよ、【空間障壁】! ……だけどお兄ちゃん、【鑑定共有】で私も見たけど、あれが来たらこの障壁はすぐにでも破壊されるよ」


 とりあえずは障壁により相対する数は減らす事が出来た。だが、人造瘴魔犬に攻撃されれば、椿姫の言では障壁は破壊されてしまうらしい。

 半透明の壁に回りを囲まれた中で、俺はこれからの戦術を組み立てる。

 幸い人造瘴魔犬は動かずに、瘴魔犬のみが襲いかかってくる状況だ。となれば、数が減った所で人造瘴魔犬を倒す、それしか無いだろう。

 と、俺がそう行動を決定した刹那──

 

 ──人造瘴魔犬の口から新たに瘴魔犬が生まれた。

 

「なっ!」

「能力を見た時に気になってはいたけど……まさかこんな……!」

「にーに、ねーね! これじゃキリが無いの!」

「何なのですか、あれは……あんなのほうこ──いえ、聞いた事がありません……」

 

 人造瘴魔犬は俺達が瘴魔犬を倒す度に、その代わりかの様に瘴魔犬を口から生み出している。そのせいで数が減る様子が無い。いや、減ってはいるが集まってきた瘴魔犬の数が多過ぎて目に見えて変化が見えないのだ。

 このままではジリ貧……俺達の体力が先に尽きてしまうだろう。

 引くに引けず、かといって特攻しても勝てるかは分からない。しかも俺がここで抜ければ、三人ではここを支えきれない。完全な手詰まり状態に陥ってしまった。

 切れ間無く襲い掛かって来る瘴魔犬を斬り捨てながら、俺は打開策を考える。

 だが、そんな直ぐに良い案が浮かぶはずも無く、体力だけが徐々に削られていく。

 横にいるフランの顔には絶望の表情が浮かんでいた。

 チラリと振り返ると、恐怖に染まった表情のヒルティと、そしてその隣にいる椿姫の表情は──

 

 ──まだ諦めるのは早い、そんな表情をしていた。

 

「お兄ちゃん、一つだけ方法があるよ」

「分かった、任せた」

 

 椿姫の言葉に方法も聞かずに了承する。

 その事に横のフランが細剣を振るいながら驚愕の表情を浮かべている。

 

「……良いの? 絶対じゃないし、あの大きいのは多分倒せないよ」

「妹を信じなくて何が兄だ。俺は椿姫の考えを信じる」

「……分かったよ。それじゃ注意点だけ言っとくね。今から考えている事をすると、障壁の維持は出来なくなる。それと私は動けなくなると思う。最後に合図をしたら全員私の一メートル内に来てね。じゃないと巻き込まれるから」

「分かった、椿姫の思う通りにやってくれ!」

「ヒルティも信じるの! ねーね、頑張ってなの!」

「この状況では信じる他ありません。お願いします」

「分かった、皆の命預かるね」

 

 後ろから椿姫の深呼吸により発生する呼吸音が聞こえてくる。

 一体どの様な方法でこの窮地を乗り越えるのか、そんな事は考えるだけ無駄だ。

 只、椿姫を信じ、近寄る敵に刀を振るい椿姫には決して近づけさせない。

 だが椿姫が一時抜けた事により、数による圧力が増していく。その圧力に耐える中、遂にその時が訪れる。

 

「皆、行くよ!」

 

 椿姫の掛け声に俺は後方へと跳び、椿姫から一メートル範囲内に着地する。

 ヒルティ元から椿姫の側におり、フランも問題無く椿姫の側に来れていた。

 

 ──そして、椿姫の放ったそれは蹂躙する──

 

「舞い咲き乱れろ【氷刃桜花(ケラスィパゴクスィフォ)】」

 

 椿姫がそう静かに告げた瞬間──半透明の桜の花びらが視界を埋め尽くした。

 その桜の花びらは氷で出来ているのか光が反射し、幻想的な光景を作り出す。

 

「綺麗……」

 

 だが、それと同時に俺達を除いた全てに、その幻想的かつ凶悪な刃が襲い掛かった。

 半透明の桜の花びらが瘴魔犬に触れた瞬間、瘴魔犬の身体が断ち切られる。

 幻想的な光景に血飛沫が加わり、凄惨な光景へと早変わりする。

 優雅に舞う桜の花びらに、その花びらによって生み出された血潮の舞い。それがこの広場一帯で繰り広げられる。例外は椿姫の周辺のみだ。

 次々と花びらに切り刻まれ倒れ伏していく瘴魔犬達。

 どれくらい続いただろうか、気が付けば俺達を守っていた障壁と桜の花びらは消え去り、後に残ったのは切り刻まれた瘴魔犬達だけだった。

 

「これは……凄まじいな……」

「終わった、の?」

「い、今のはまさか、中級魔法……?」

「あ……」

 

 無理に高度な魔法使用した為か、力を使い果たした椿姫がくずおれる。それを直ぐ様察知した俺は椿姫を抱き止めた。

 

「椿姫、お疲れさま……」

「椿姫ちゃんは大丈夫ですか?」

「ああ、気を失っただけだ。フラン、椿姫を任せて良いか?」

「え、ええ、それは構いませんが、どうして……」

「それは──まだ終わって無いからだ」

「え……」

 

 次の瞬間、動かなくなった瘴魔犬達の中で、一匹だけ動きを見せる者がいた。

 フランに椿姫を預け、その方向に目を向けると、そこには傷だらけでありながらも力強く立つ人造瘴魔犬の姿があった。

 

「そ、そんな、あの魔法の中で生きてるのですか……?」

「でも、ねーねの言った通りなの」

「生きてはいるな。だが間違い無く弱っている」

「グルルルルゥゥ……」

 

 心なしか、うなり声も小さくなっている気がする。倒すなら今しかない。

 

「二人共、椿姫の側に居てくれ。後は俺がやる」

「分かったの! ねーねの事は任せるの!」

「分かりました……ですが倒せるのですか? あれを……」

「ここで倒さないとまた増え続けるだけだからな。それに椿姫が頑張ったんだ。兄として俺も頑張らないとな」

 

 椿姫をヒルティ達に任せた俺は、未だ新たに瘴魔犬を産み出している人造瘴魔犬へと駆け寄っていく。

 尋常でない速度で景色が流れていく。俺は本気で走った時の速度に、自分自身で驚いてしまう。そして、あっという間に目標の元へと辿り着く。

 だが、俺の接近に気付いた人造瘴魔犬がその大きな前足を振り上げた。俺は急激に速度を落とし左へと跳ぶ。その瞬間、丸太の様な前足が地面に叩き付けられた。

 凄まじい音と砂煙が舞う中、地面に叩き付けられた前足を刀で袈裟斬りにする。

 

「グアウウウウッッ!!」

「む、浅いか」

 

 見た目より毛が多いようで、目測を誤り前足を断ち切る事が出来なかった。

 それでも深手ではある。恐らく片方の前足は殆ど動かせないだろう。

 新しく生み出された近くにいる瘴魔犬を切り捨てながら、俺は後ろへと下がり前足の攻撃範囲から脱する。

 だが、もたもたしていると、それだけ瘴魔犬が増えていく。瘴魔犬は強くはないが、人造瘴魔犬を相手にしながら相手にするのは戦い難い。となると早めに方を着ける必要がある。

 俺は近くにいる瘴魔犬を斬り伏せ、一度刀を納刀し【居】の構えをとる。

 俺が今から行おうとしているのは、塚原流の奥義の一つだ。

 塚原流では師範代程の力量になれば、奥義を覚えさせられる。だが、それは剣道の試合で使える様な剣術ではない。

 塚原流は戦国時代発祥……元は命のやり取りを行う為の剣術なのだ。

 だが、戦う必要の無い現代では意味の無いもの……その為に現代に即した剣術へと変化していった。

 しかし元々の塚原流剣術を絶やさせない様に、師範代以上の実力を持つ者にだけ、奥義を伝える形になった。そして俺もその奥義を知る者の一人だ。

 だが、知識としては一通りの奥義のやり方は知ってはいるが、未だ成功した事は無い。実際に見た事があるのも、鬼瓦師範が見せてくれた時だけだ。

 今まで成功したためしも無いのに、ここで成功するのかという思いも確かに存在する。ついさっきまでは──

 構えた瞬間に何故か成功すると確信できてしまった。理由は分からないが身体の感覚がそれを教えてくれる。

 目の前には静止した俺に近寄り、前足を振り上げる人造瘴魔犬の姿がある。

 そして迫り来る前足を前に、俺は刀を解き放ち──

 

「塚原流奥義──壱ノ太刀【一刀一閃】!!」

 

 そして一瞬の後に納刀、一拍遅れて鍔と鞘の当たる音が辺りに響く。

 音すらも遅れて聞こえる程の速度。この光景を見た者は、俺が刀を抜いた事すら気づかないだろう。

 

「グァ……」

 

 その声を最後に、胴体から切り離された前足と頭が地面へと落ちる。

 そして数秒ほど油断せずに様子を伺う。だが、動き出す様子は無い。

 人造瘴魔犬の周りには数匹ほど瘴魔犬が残っていたが、母体が倒された瞬間に広場から逃げ去って行った。念のため周りを確認したが、妹達以外に動いている者は存在しないようだ。

 そこで俺は漸く緊張を緩め、妹達の元へと向かった。

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