表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移で兄妹チート  作者: ロムにぃ
第一部 第二章 異世界で冒険者活動
34/90

第十一話 受諾


「これが冒険者証か……」

 

 副組合長から受け取ったのは一枚のカードだった。

 大きさはキャッシュカード位だ。色は下級・中級・上級・特級と上がるにつれ、茶色・銀色・金色・黒色と変わるそうだ。そして俺達初心者は白だ。

 受け取ると同時に本人確認が終了し、その冒険者証に自分の情報が登録された。

 仕組みとしては【能力板】と同じで、その人固有の魔力に反応し、記録されるらしい。表面には名前・階位・性別・依頼達成数・達成率が、裏面にはこの冒険者証に入っているお金の量や現在の遂行中の依頼が表示されているのだとか。俺が受け取った冒険者証に問題無く俺の情報が表示されているのを確認する。

 カードについて詳しく聞くと、この大陸ではそれぞれの身分(大まかに王族・貴族・国属・商人・平民・冒険者・奴隷等)によって身分証が分けられており、更に身分証は財布代わりにもなっている。身分証には他に組織毎に組織証というのもあるらしい。

 売買の際には互いの身分証を接触させ、互いに了承すれば金銭の受け渡しが出来るとの事だ。

 依頼達成時も、この冒険者証に冒険者組合から依頼料を収受する形になる。

 無論、この身分証は本人、組織証は許可された者にしか扱えない様になっており、誰かの身分証やどこかの組織証を手に入れたとしても使用する事は出来ないそうだ。

 マイナンバーと電子マネーが合わさった様な物だと思うのと同時に、この世界の文明のちぐはぐさが気になっていた。【能力板】やこの身分証に比べ、建物の造りや乗り物に落差がありすぎるからだ。

 その事を聞くと、こういった高度な技術に関しては、大体は異世界人が関わっているらしい。そうした事から異世界人は尊敬や畏怖の対象となるそうだ。

 そう考えると、昔現れた異世界人達が自重せずに偏った文明の伝達を行った結果、一部の文明が突出している形になっているのだろう。

 とりあえず、それは置いておき今は冒険者証だ。早速エドワードから使い方の練習がてら金銭の授受を行った。額としては一人頭30万圓(平民の平均月収)程だ。

 初めは断ったが、無一文では依頼を受けた際の準備すら出来ないと言われ、受け取る事になった。受け取りのやり方は簡単だった。お互いに手に持った状態で身分証を一部重ね、出現した半透明の板に金額を入力し、渡す方が『渡』受け取る方が『受』と表示されている部分を触るだけで完了する。

 そうして問題無く金銭の受け渡しのやり方を覚えた俺達は、次に隊を組む事にする。

 これも難しい事ではなかった。まず隊長を決めて組合に登録、そして隊員になる者は金銭の受け渡しの時と同じように、冒険者証を重ねて現れた半透明の板に表示された『入隊申請』と『受諾』を触る事で完了する。そして隊長を決める際に──

 

「お兄ちゃんしかいないよね」

「もちろん、にーになの!」

「兄上様お願いします」

「一刀がやらねえで誰がやるんだ?」

 

 サマーリはともかく、エドワードにまで言われ、俺が隊長になる事に。

 頭の良い椿姫の方が良いんじゃないかと、提案したが「私は参謀向きだから」と言われ断られた。まあ、隊長ともなれば矢面に立つ事もあるかと思い直したが。

 ともかく、これで隊限定の依頼も受けられる様になった。次に肝心の依頼を受ける為、どんな依頼があるのかを尋ねる。


「恥ずかしい話、現状この依頼しか無いんじゃよ」

 

 そう言って、副組合長が提示してきた依頼とは常時依頼と言われるものだった。

 常時依頼とは期限も特に無く、常に誰でも行える依頼の事だ。

 まともに冒険者組合が稼働していれば、個人や組織からの一般依頼や冒険者を指名しての指名依頼等があるが、冒険者自体が暴徒化に近い状態だったため、まともに稼働出来ていなかったとの事だ。

 まあ、それに俺達も巻き込まれた訳だから、納得せざるを得なかったが……。

 依頼の内容に戻るが、その内容は簡単に言うと食糧難に伴う食料調達だった。

 今回の依頼元はアギオセリス王国で、報酬額は相場より若干多い位らしい。恐らく、食糧の調達がそれほど急務なのだろう。

 詳しい内容としては、動物の狩りと食用植物の採取だ。

 

「注意点が一点あっての、瘴魔に関しては食料にはならないので対象外となることじゃ」

「瘴魔?」

「あ、お兄ちゃん、瘴魔というのはね。邪神が放つ瘴気に侵された生き物の事で、その肉を口にすると体調不良を起こすらしいの。だから食料には適さないの」

「成る程な、だがそれは見分けがつくのか?」

「お嬢ちゃん、異世界人なのに良く知っとるのう。見分け方は動物よりも好戦的なのが基本的に瘴魔となるの。大きさも動物に比べ若干大きくなっとる。慣れないと見分けづらいかも知れんのう。じゃが、鑑定があれば直ぐ分かる──と、お前さん、確か鑑定を持っておったの」

「あ、そう言えば……」

「お兄ちゃん、忘れてたね……」

 

 余り使う事が無い─というかサマーリにしか使ってない──から忘れそうになるが、俺は鑑定を持っている。サマーリの時は緊急だったから使ったが、敵対者以外には本人の許可がなければ使わない様にしている。何故かというと、その人のプライベートを土足で踏み入っている気がするからだ。

 サマーリであれば元伯爵令嬢という称号から、何かしらあったのだと推察出来てしまう。俺や椿姫にヒルティの称号に関しても、第三者の立場からすると特殊過ぎる称号だ。だから俺は基本的に鑑定を使わない様にしている。

 ……忘れていたというのもあるが。

 逆に誰かに鑑定される可能性もあるので、対策が必要だが今はその方法が無いので置いておく。

 ともかく今回の動物が変異した瘴魔に関しては、人では無いから気兼ねなく使えるし、様々な点から有効だろう。

 

「それで受けるのかの」

「……まあ、これしかないですし、内容もそれほど難しくなさそうなので受けます」

「それじゃ、冒険者証に記録するから一度渡してくれんかの」

 

 副組合長は受け取った冒険者証を、機械らしき物の溝に滑り込ませた。

 そして、戻って来た冒険者証の裏面には『常時依頼・食料調達・隊10級遂行中』と新たに表示が増えていた。


「本当に良くできてるな、これは」

「そうじゃろう、じゃがそれを作ったのはお前さん達と同じ異世界人じゃぞ」

 

 だが、どう考えても魔法と科学が揃って初めて作れる物だ。異世界人だからといって直ぐ作れる物ではないだろう。憶測でしか無いが、異世界人とこの世界の人との合作ではないかと考えられる。まあ、それを考えても仕方のない事ではあるが。

 

「そうじゃ、一つ説明しておこう。瘴魔に関してじゃが、動物は瘴魔に変異すると、頭の一部に瘴魔石というのが出来るのじゃ。もし瘴魔を倒す事があったら、これを取って来てほしいんじゃ」

 

 そう言いながら、副組合長は机の中から一つの石を俺達の目の前に置く。

 大きさとしてはゴルフボール位の大きさで、完全な球体では無く歪な形をしており、色は黒で光沢を放っている。

 

「これを……?」

「うむ。これには魔力を溜め込める性質を持っており、これを埋め込む事により様々な魔導具を作る事が出来るのじゃ。瘴魔によって大きさは変わるが、これを持って来たのなら買い取るからの」

 

 成る程、瘴魔石はお金に換金出来るのか。だが、それには一つ問題がある。

 その瘴魔の頭を開いて瘴魔石を取り出さなければいけないからだ。それが出来るかは微妙な所だ。精神的にも技術的にもだ。

 だが、そんな俺の思考を読み取ったのか、椿姫がそれに対する答えを口にする。

 

「お兄ちゃん、瘴魔石の取り出しについては考えがあるから大丈夫だよ」


 余りに自信満々に言われたので、きっと確証があるのだろう。俺は頷き「分かった、椿姫に任せる」と返した。

 

「これで手続きは終わりじゃな。この依頼は特に期間は決まっておらぬが、飽和状態になると報酬額が下がるのでな。他の冒険者が復帰する前に達成した方がよいじゃろう」

 

 そうして無事登録と依頼の受諾を終えた俺達は、冒険者組合を後にした。

 エドワードはこれから尋問や調査等の仕事があるらしいので、そこで別れる。

 馬車に関しては、翌朝渡すのでそれまで街から出ない様に釘を刺された。まあ、流石に車椅子を押しながら街の外に出ようとは思わないが。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 外に出て、時計塔の時間を確認すると、もうすぐ12時になる頃だった。

 その為、何処かで食事をして買い物をする事になり、食事処を探す事になったのだが、これがなかなか大変だった。それは営業している店が少なかったからだ。

 数日前まで、最悪な治安状態であったので仕方がなくはあるが。

 漸く見つけた店も城で出た料理と比べるのもあれだが、余り美味しくはなかった。それでも、地下牢で食べたスープとパンよりは数段ましではあったが。

 それにより日本の食事情がどれ程恵まれているのかを認識させられた。

 それはともあれ、今は必要な物を揃える必要がある。

 装備は城で整えられたが、下着などは買わなければいけない。状況により野宿する可能性もあるので、その備品一式諸々に加え食料や水も必要だ。俺と椿姫が【空間収納】──珍しくはあるがそれほど驚かれる程の技能ではない──という能力が使えるので持ち運びや食料の期限は気にする必要は無い。

 皆で何が必要なのかを相談しながら、様々な物を買い【空間収納】へと納めていく。

 やはり一番困ったのは、営業している店が少ない事だ。商業区はそれなりに広い。

 そのせいで商業区の隅から隅まで歩き回らなければならず、それなりにくたびれてしまった。特に椿姫はこの中でも一番準位が低く体力が少ないので、時折俺が背負うなどして店を探し回った。そのかいあって大体必要な物は揃ったが。

 その途中別の意味で困った事もあった。それは下着を買う際の事だ。

 

「お兄ちゃん、これ私が着けたらどう思う?」

「にーに! これヒルティに似合う?」

「あ、あの、兄上様……わたしはどうでしょうか……?」

 

 妹達は俺に一枚ずつ見せて聞いてくる。時には試着室に連れ込まれて、着ている姿を見せられもした。俺としては妹達に請われれば、余程の事でなければ断る事はしない。

 その度に、色は違う方が良いとか、似合っているとか、そういった意見も忌憚無く述べた。

 それは構わないのだが、俺が困ったのはその度に送られる周りからの視線が痛い事だ。その視線は生暖かかったり、驚きだったり、呪い殺しそうなものだったり、犯罪者を見ている様なものもあった。

 俺としては地球にいた頃からの当たり前の事なので、何故そんな目で見られるのかが分からない。だが、妹達の楽しそうな様子に水を差すのは悪いと思っているのか、声を掛けてくる者は店員以外一人も居なかった。

 因みにこの世界の下着は日本の物と素材は違うが、デザインはほぼ地球の物のそれだった。やはり日本の文明が惜し気もなく伝えられているのだろう。

 まあ、兵器等の文明を伝えられるよりはましかと思いながら、俺は妹達の下着選びを手伝った。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 そうして全ての買い物が終わったのは、夕暮れ時の時間帯──17時位だ。

 因みに、当たり前だがこの世界にも太陽は存在する。それは地球で見るものと全く変わらない姿だ。ただ名称は太陽では無く【日光】と呼ばれている。逆に月は【暗光】と呼ばれ、その姿も地球の物と変わらない。そして星は【小光】と呼ばれている。

 この世界でも地動説が一般的で、勿論それも異世界人からの知識が伝聞されている。

 天動説を信じているのは極一部らしい。

 それはともあれ、買い物を終えた俺達は城へと戻る途中だ。

 眠っているサマーリが座る車椅子は今は椿姫が押しており、ヒルティも俺の背中で眠っている。起きているのは俺と椿姫だけだ。

 そんな二人を起こさないよう、静かにゆっくりと歩いていると、椿姫が小さく俺を呼ぶ。

 

「……お兄ちゃん」

「ん? どうした?」

「……私達、この世界で生きて行けるのかな……」

「……」

 

 椿姫の声からは不安が滲み出ていた。

 この世界に来て直ぐは理不尽な事だらけだった。だが、それは地球にいてもあり得る事だ。この世界に限った事じゃない。

 逆に楽しい事もあるだろう。今日の様に冒険者組合で襲われた事以外、特に買い物の際はとても楽しかった。今日の様な日々がずっと送れれば良い。だが、恐らくそうはならないだろう。そしてそれを椿姫も感じているのだ。

 今日という日が楽しかったが故に感じる不安……それを完全に消し去ることは出来ない。だが、不安な気持ちを和らげる事くらいは出来る。

 

「椿姫……確かにこの先がどうなるかなんて俺には分からない……。けどな、俺はこの世界での出来事で色んな覚悟を決めた。俺は自身と俺の大切な者達の幸せの為なら、どんな事も(いと)わない。必ず椿姫達を守って見せる。だから、安心してくれ」

「お兄ちゃん……うん、分かったよ。でもお兄ちゃんの事は私が守るからね。お兄ちゃんだけじゃダメ、皆で頑張ろう?」

「……そうだな、皆で頑張ればきっと……」

 

 椿姫と二人誓いを立て、俺達は城へと戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ