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異世界転移で兄妹チート  作者: ロムにぃ
第一部 第一章 異世界に兄妹転移
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第二話 観光

章の区切りを変更しました。

文章がおかしな部分を一部修正しました。

「椿姫、痛くないか?」

「うん、お兄ちゃん気持ちいいよ♪」

 

 俺達は会場を後にし、近くに取っていたホテルの部屋に備え付けてあるお風呂に入っている。共同風呂では流石に一緒には入れないからだ。

 例え混浴風呂が有ったとしても、椿姫の身体を他の男に見られるのは嫌なので、絶対に入らないが。

 各部屋にある風呂は少々狭いが 、お互いの身体を洗うスペースくらいはある。

 そこで今、俺は何時もの様に椿姫の身体を洗ってやっている。

 スポンジは置いて無かったので備え付けのタオルを使い、白く繊細でシミひとつない綺麗な肌を隅々まで洗っていく。

 背中だけでなく、最近漸く膨らみ始めた控えめな胸、まだ括れも無い腰回り、ほっそりとしたツルツルの手足を傷を付けないようゆっくりと洗っていく。

 最後にお風呂に入る前にほどいた、腰まである長さの綺麗な黒髪も丁寧に洗っていく。

 

「やっぱり、お兄ちゃんに洗ってもらうのは気持ちがいいよ♪」

「そうか? 昔から洗ってやってるから慣れてるだけだろ」

「そう言う事じゃ無いんだけどなぁ……まあいいや、それじゃ、次は私がお兄ちゃんを洗ってあげるね♪」

 

 そして、俺の身体も何時もの様に椿姫の手によって、詳細は省くが全身を洗われる。

 その後、一緒に湯船に浸かりしっかりと温まり、お風呂から上がった俺達は何時もの様に一緒のベッドで就寝した。

 もちろん、お互いを抱き枕の様にして抱き合った状態だ。

 年齢的にはもうおかしいのかもしれないが、お互いに抱き合っていないとよく眠れない程になっている。

 修学旅行等で一緒に寝れない時は、布団に入っても1、2時間は眠れなかった、帰って来て椿姫に聞いたところ、椿姫も寂しくて眠れなかったらしい。

 そんな感じで何をするにも一緒な俺達は、今ではお互いに無くてはならない存在になっていた。もし、どちらかが先に死んでしまったら、きっと立ち直れないだろう……。

 恐らく両親を普通ではない亡くしかたをしたのも原因の一つだと思う。

 しかも俺はそれまでにも何度も辛い別れを経験してきた。

 両親が死んでしまった時に、力が無ければ何も守れない事に気が付いた俺は、余り真面目に行っていなかった剣道を真剣に習い始めた。

 そんな俺を支えてくれた椿姫や叔父さん達に佐々木兄妹、それに剣道を教えてくれた師範にはとても感謝している。

 誰か一人でも欠けていれば、今の俺は居なかったかもしれない………。

 

◆◆◆◆◆ 

 

「全員揃ったか? では行くぞ」

 

 翌朝、ホテルのロビーに集合した俺達は、師範の一声で観光に行く事になった。

 師範曰く、折角都会に出てきたのだからだそうだ。

 俺達門下生や他の師範為もその意見に反対意見は無く、観光に行く事が決定した。

 そうして、向かった先はこの都市のシンボルマークでもあるタワーだ。

 展望室に上がる為には学生の身では安くない金額が掛かったが、そこは全員分を師範が払ってくれた。師範は稽古は厳しいが剣道に無関係な事でも相談にのってくれたり、こういった時は出し惜しみしない性格なので人気はある。

 そんな師範の名前は鬼瓦権蔵といい、身長は195㎝程で体格も熊かと思う程にごつい、顔も子供が泣いて逃げ出しそうな位に厳つく、正に鬼の形相をしている。名は体を表すとはこの人の為にある言葉だと思う。確か50才くらいの筈だが未だ衰える気配は全くといってない。

 数多の大会での優勝経験もあり、段位は8段だが廃止されていなければ10段の実力があると言われており、剣道会においては最も強いと言われる人物の一人でもある。

 それでも父さんには勝てないと言っていたが、二人が試合をしたところは見た事が無いので本当かどうかは分からない。

 現在は仮ではあるが俺の父さんの跡を継ぎ、塚原流道場の代表を勤めている。

 何故、師範が代表をしているかと言うと、父さんが死んだ当時は俺は幼く、叔父さんたちは剣道は出来なかった為、道場の代表が空席になってしまった。

 流石に空席は不味いとの事で師範数名の内から代表を決める事になり、鬼瓦師範が1番適任だろうと他の師範から推挙された。

 初めは渋ったが、周囲の説得と俺の「鬼瓦師範が良い」の言葉で、俺が大人になり師範が出来る様になるまでという条件付きで、一時的に道場の代表に収まったのだ。

 そんな事を考えているうちに、エレベーターは展望室へと辿り着いたようだ。

 展望室は丁度椿姫の身長位で、外を見る事が出来る高さにガラスが嵌め込まれていた。椿姫よりも身長が低い子供用の踏み台や、備え付けの双眼鏡も所々に設置されていた。

 

「うわぁ~高いね、色んな所が一杯見えるよ~♪」

 

 椿姫は展望室に着くなり俺と手を繋いだまま、ガラス張りの窓に駆け寄り空いている片方の手を付いて、目を輝かせながら外の景色を眺める。

 俺は外の景色よりも、どんなに頭脳が大人顔負けで良くても、そんな事は関係無く小学生らしくはしゃぐ椿姫の姿を目に焼き付ける。

 

「ほらっ! お兄ちゃん海が凄い綺麗だよっ、て──お兄ちゃん、何で私の方ばっかり見てるの?」

「ん? 俺ははしゃいでる椿姫の可愛い姿を見てる方が楽しいからな」

「お、お兄ちゃん!? 見てくれるのは嬉しいけど……そんな事言われたらは、恥ずかしいよぉ……」

 

 俺の言葉に照れながらも嬉しそうな椿姫の姿に、思わず笑みが零れる。

 モジモジしている椿姫を愛でていると、横合いから椿姫が居る逆の方の腕を掴まれる。

 

「おにーさん、お待たせしました♪」

 

 腕を掴んで来たのは矢美ちゃんだった。

 矢美ちゃんのお待たせしたと言うのは、俺と椿姫が乗った時点でエレベーターが一杯になってしまい、矢美ちゃんが一緒に乗れなかったからだ。

 その時の矢美ちゃんは、少し寂しそうな表情をしていた。

 今はそんな表情はしておらず笑顔で矢美ちゃんは、掴んだ俺の腕を引き寄せて自身の胸の中へと納めてくる。それにより俺の腕は柔らかい物に包まれるが、何時もの事なので特に気にはならない。

 そして、その状況を見た椿姫の頬はフグの様に膨れていた。そんな姿も可愛いかったが。

 

「むう~……折角お兄ちゃんと二人きりだったのに……」

「独り占めは狡いよ椿姫ちゃん、私もおにーさんと一緒に居たいの」

「それは分かりますけど……矢美さんと一緒だと色々と差が浮き彫りに……」

 

 そう言った椿姫の視線は自身の胸元へと向けられており、そしてその表情は酷く哀しげだった……。

 俺はそれには気付かない振りをし、とりあえず恒例となっている二人の仲裁を行う事にする。

 

「椿姫、ここで矢美ちゃんを一人にするのも可哀想だろう? 二人きりが良いのは分かるが、今回は矢美ちゃんも一緒じゃ駄目か? 今度、二人きりで何処かに遊びに連れて行くから」

「……それなら良いかな……」

「おにーさん、椿姫ちゃん、ありがとうございます」

 

 椿姫が納得した所で外の景色を三人で眺める。

 今、俺達がいる方角には水平線が見える程の広大な海が広がっている。

 場所を移ると、それぞれの方角には雄大な山岳や整然と並び立つビル群、大きな池を中心とした公園等、さまざまな光景を見る事が出来た。

 一通り景色も見終わり、下に降りる為に他の皆と一緒にエレベーターに乗ろうとした際に矢美が乗ったとほぼ同時に、観光客と思われる人達が乗ってしまったので俺達の乗るスペースが無くなってしまった。しかも、その人達に押されてしまった為、降りる事も出来なくなってしまったようだ。

 こっちを少し困った顔で見てくる矢美ちゃん。

 

「あう~、おにーさん……」

「この状況じゃどうしようもないな、下で待っててくれ」

「うう……はい、待ってますね」

 

 少し悲しそうな矢美ちゃんを見送り、エレベーターが上がってくるのを、近くのベンチに座って椿姫と共に待つ事にする。

 エレベーターが一階に辿り着いたのを階数表示パネルで確認した所に、聞き慣れた野太い声が俺達に掛けられた。

 

「お、後はお前達だけだな」

「鬼瓦師範、もしかして見回ってたんですか?」

「ああ、引率者としての責任があるからな」

 

 俺達に声を掛けてきたのは鬼瓦師範だった。

 鬼瓦師範の発した言葉の意味からして、展望室に残っているのは俺達二人と鬼瓦師範だけなのだろう。鬼瓦師範は俺の左手側に座る椿姫とは逆に、俺の右手側に座って来た。そして三人で待つ事にする。

 少しして俺はおかしい事に気付く。

 

「なあ椿姫、一階に停まっている時間長くないか?」

「うん……一分以上は経ってる……」

「って、おい、表示が消えたぞ?」

 

 鬼瓦師範の言う通り、階数を表示するべきパネルは何故か何も表示されなくなった。

 暫く様子を見てみるも再び表示される事は無かった。恐らく故障してしまったのだろう、周りの観光客達もその事に気が付き騒ぎ始めていた。

 係員が現れたりする事もアナウンス等での説明も無く、時間だけが過ぎていく。

 観光客の内、数名がスタッフルームに向かったが、誰も居なかったと言っているのが聞こえてくる。誰も居ない? 流石にそれはおかしいだろう。

 

「師範、おかしく無いですか?」

「そうだな……それに少し前から、そこかしこで殺気が滲み出て来てやがる。二人共、俺の側を離れんなよ」

「お兄ちゃん……」

 

 師範の剣呑な言葉に椿姫は不安そうな表情をしており、俺の手を握っているその手も若干震えていた。そんな椿姫の手を強く握り締めながら、俺は周囲に視線を巡らす。

 今の状況はあの時とそっくりだ。6年前に両親が死んだその時に──

 その時に負ったトラウマを思い出し、竦みそうになるが椿姫を守る使命感がそれを上回り、どうにか立ち直る。

 そして、その時は来た。

 数グループで固まっていた観光客の内の数人が、各グループからゆっくりと離れるのが視界に入る。

 視認出来るだけで計五人、全員男だが様々な人種がおり、統一性は感じられない。

 男達はさりげなく動いているようだが、俺と師範はその微かな不自然な動きを捉えている。だが、位置が不味い。此方は壁を背にしてベンチに座って居るが、相手は半円状に此方を包囲している形だ。

 しかも相手の武器が現時点では分からない。もし、あの時と同じであるならば──

 取り囲む全員が一斉に懐に手を入れた。その瞬間、師範が右端の相手に向かって姿勢を低くし飛び出した。

 俺は咄嗟に椿姫を抱え、同じく姿勢を低くし師範に追従する。

 虚を突かれた右端の男は懐から武器を取り出す間も無く、師範の巨体から繰り出されるタックルに打ち倒される。

 いきなりの事に周りの観光客達の戸惑う様が視界に入るが、それを気にしている暇は無い。

 師範は打ち倒して気を失わせた男を盾にし、残った四人に向き直る。俺は椿姫を抱えた状態のまま、師範の後ろに入り込む。

 そこで漸く、師範の行動に固まっていた残った四人が動き出し、懐から武器を取り出す。取り出したのは黒光りする拳銃だった。四人は躊躇いもせずに師範へと拳銃を向けて発砲する。

 だが、腕前はお世辞にも上手いとは言えず、銃弾の殆どが明後日の方向へと飛んでいった。一番近い銃弾でも足下に着弾するに留まり、どう考えても素人としか思えない。

 それでも、周りに居る観光客とっては脅威に他ならない。パニックを起こし、叫び逃げ惑ったり、腰を抜かしその場で尻餅を付く者も見受けられる。更に運悪く流れ弾が当たり蹲る者も数人折り、それがパニックに拍車を掛ける。

 銃弾を打ち尽くし、焦りを見せた四人へとすかさず師範が攻勢へと移る。

 

「はぁっ!!」

 

 師範は盾にしていた男を、師範から見て右端の男に突き飛ばす。

 直ぐ様、左端の男に駆け寄り、その男の鳩尾を打ち抜いた。

 残った男達も反撃する間もなく、同じ様に師範に打ち倒される。

 それを見た俺は安堵した──が、それが油断を招いてしまった。

 制圧した男達を拘束するのを手伝う為に、師範の方へと向かう。背後に固い物が転がる音が響いたのはその時だった。

 直ぐ様振り向き、音の発生源を確認した俺は、考える間も無く椿姫を庇うように胸に抱き、前方へと身を投げ出す。

 だが、その時にはもう遅く、背中に凄まじい熱と鋭い痛みを感じながら前方へと吹き飛ばされる。床に叩き付けられる瞬間に何とか身を捻り、自身をクッション代わりに椿姫を衝突の衝撃から守る。

 

「がはぁっ!!」

 

 床への衝突で発生した衝撃に意識が飛びそうになるのを堪え、どうにか身を起こそうとするが全く身体が動かなかった。

 それどころか、徐々に意識が薄れていくのを感じる。

 背中の凄まじい痛みに加え、呼吸する度に口から血が吐き出される。

 この段に至り、俺は自身の命が尽きようとしているのを把握してしまった。

 

「おにぃ……ちゃん?」

「あ……ぐぅ……」

 

 身を起こして俺の横に座り込んだ椿姫が、呆然とした顔で俺を見ていた。

 だが、俺はそれに呻き声を出す事でしか返事が出来ない。 

 ふと視線を動かすと、椿姫の後ろに血塗れで倒れている師範の姿が見えた。その身体はピクリともしておらず、生きているのかの判断はつかなかった。

 

「うそ、だよね……お兄、ちゃん……死んじゃ、やだよぉ……!」


 俺の状態を確認した椿姫が顔を青くして泣きじゃくる。

 椿姫の泣き声に混じり、聞こえてくる足音に気付いた俺は視線を何とかそちらに向けると、そこには一人の男がおり、その雰囲気は先程の男達とは違い只者では無い気配を感じた。恐らく先程の爆発物──手榴弾を投げたのはこの男なのだろう。

 手榴弾を投げるまではパニックに陥った観光客に紛れていたのだと思われる。

 その男に気付いた椿姫は倒れる俺と、俺に向かって歩いて来る男の間に立ち塞がる。

 だが、その手足は震えており、恐怖を押し殺しているのが誰の目にも明らかだ。

 

「お兄ちゃんは、私が守る……!」

 

 椿姫の啖呵に男は足を止めたが、手に持っていた拳銃をゆっくりと椿姫へと向ける。

 椿姫の震えが大きくなったのが分かったが、全身に力が入らない俺にはどうする事も出来なかった。出来る事と言えば何とか声を発する事だけだった。

 

「に……げろ……」

「そんな事出来──」

 

 その言葉を言いきる前に、椿姫へと向けられた拳銃から銃弾が放たれ、椿姫の頭を貫き、俺の頭の近くに着弾する。

 頭を撃ち抜かれた椿姫の身体は、ゆっくりと俺の身体の上へと倒れ込み、俺の横に転がった。

 偶然、顔が俺の方へと向く。その額には弾痕が刻まれ、目は見開き、その瞳からは光が喪われていた。その目はもう二度と俺を見る事は無い。その口はもう二度と俺を呼ぶ事は無い。その身体はもう二度と動く事は無い。

 

「あ゛……あ゛……」

 

 椿姫を喪った事に目からは涙が溢れ出すが、喉は血によって塞がれまともに声を出す事も出来なかった。

 

「これで遂に──」

 

 男の言葉を最後まで聞くこと無く、再び響いた発砲音を最後に俺の意識は完全に途切れた……。

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