第四話 捜索
三人で連れ立ち、エドワードの元へと戻る。
入り口近くの武器を眺めていたエドワードが、こちらに気が付き振り向いてくる。
「お、決まったのか? ……って、すげえ目立つ格好だな……」
「ん、そうか?」
「嬢ちゃん達は勿論だが、一刀の装備も相当珍しいからな、かなり目立つぞ……」
「うーむ……この格好で捜索は不味いか? 結構この装備は気に入ってるんだが」
「そうだな……上から外套を羽織れば問題ねえか……準備させるから城を出る前に渡すから上から羽織ってくれ」
「ああ、済まない」
「まあ装備は性能は勿論だが、本人が気に入ってないと愛着が湧かずに扱いが悪くなるからな。性能が良くても気に入らない装備よりはいい筈だ……っと、ここで長々話し込んでもしょうがねぇ、まず何処から回るか決めるぞ。場所を変える付いて来い」
「分かった」
◆◆◆◆◆
エドワードに連れられ訪れた部屋は、中央に正方形の木製の机が置かれた小さな部屋だった。机の周りには一辺に一脚ずつ椅子が置かれており、最大四人が座れる形になっている。
「ここは?」
「ここは少人数での会議等を行う部屋だ、全員適当に掛けてくれ」
それぞれが席に着いた所で、エドワードが中央に紙製の地図を広げる。
ここで違う街の地図を広げる訳は無いので、この都市の地図である事は分かる。
その地図には、中央に城と思われる絵が描かれ、その城を中心とした街は長方形の型をしていた。路地がかなり細かく記載されているので、精度はかなり良さそうだ。
「まずは説明するぞ。ここの都市は城を中央に東西南北にそれぞれ道が走っている。そして、それぞれが外壁にある門に繋がっている、街の全長は東西に約四キロ、南北に約三キロある、ここまでは良いか?」
エドワードの言葉に俺達は小さく頷く。
「そして、その四つ道を中心に、大きく四つの区画に別れている。北の貴族街、だがほとんどの貴族が今回の戦争で逃げるか死んじまったからな、現状もぬけの殻に近い状態だ。そして南の商業地区、西の平民街、東の富裕層の住宅街になっている。もう一つ付け加えると、西門の外に貧民街が存在している……って言っても現状旧王都全体が貧民街と変わらない状態だがな……」
「 なるほど……と言う事は俺達は南門から入ったのか」
あの時は貧民街から右に進み、一番初めの門に入ったからな。
「だね、そうなるとあの時は真っ直ぐにお城に連れていかれたから、あの女の子を見かけたのは商業地区の道の途中、だね」
「そうか、ならまずはその商業地区からだな。貴族街の区画は遠すぎるからほぼねえだろうしな」
「商業地区で一番治安が悪いのはどこだ?」
「……正直どこも似たり寄ったりだな。ただ、目抜通り沿いは占領後からは比較的治安が良いから後回しで良いかもな」
「そうなると、見掛けた辺りを中心に路地裏を当たっていくしかないかな……」
「当たるのはいいが、建物内に居れば見つからねぇぞ? この状況じゃそうそう外には連れ出さねえだろうしな。わざわざ自分から捕まりに行く奴はいねえだろうからな」
「それは大丈夫、お兄ちゃんの技能があるからね」
「ほう、探知系技能を持ってんのか、範囲はどのくらいだ?」
「確か……半径20メートル位だな」
「ふむ……表通りならまだしも、裏通りならそこまで大きい商店はねえ筈だ。それに全てが商店って訳でもねえ、住居もそれなりに存在するしな。問題はねえだろう」
それから、発見時はエドワードはなるべく手を出さず、俺達だけで事に当たる型となった。細かい事は探しながら話す事にし、話し合いを終えた俺達は部屋を出た。
そして城から出る門をくぐる直前に、エドワードの部下と思われる兵士に呼び止められる。
「隊長! 外套をお持ちしました!」
「お、すまんな。お前らこれを身に付けろ」
渡された外套の背中部分には、大きな盾の中央に描かれた横顔の女性を中心に、円を描くように周りに細かい模様がある紋章らしき物が配置されていた。
「この紋章みたいのは?」
「ん? ああ、それか、これはアギオセリス王国の紋章だ。描かれている女性は兄妹神様で、国教が兄妹神教の国は紋章に使用する事が出来る、結構使ってる国は多い。そして後ろの盾は妹を守ると言う意味がある」
「妹を守る?」
「アギオセリス王国の前王朝が反兄妹神教国で、兄妹婚が禁止されててな、違反者が捕まる度に妹は兄の前で複数人に犯され、その後兄は妹の目の前で処刑された。そして残った妹は性奴隷として売られる……そんな国だったらしい」
「そんな……ひどい……」
「そんなの、あんまりなの……」
あまりの事に俺は声も出せない。
いくら宗教が違うと言えど、そこまでやるものなのか……いや、俺が居た世界でも昔は魔女狩り等があった。それと同じ様なものか……だからと言って受け入れられる訳でも無いが。
「で、約50年前にアギオセリス王国の初代国王──当時は王位継承権の無い庶子だった王子は恋仲だった実妹の王女と共に革命を起こし、当時の王朝を倒し国名を改め、実妹を王妃とし初代国王に就いたわけだ。兄妹婚を認め、兄妹神教を国教に改めた王子は、妹の解放者として讃えられ『妹の守護者』と呼ばれた。初代国王はその二つ名を元に紋章を作ったって話だ」
「兄妹で結婚……良いなぁ……」
「凄く憧れるの……」
二人のずれた感想と、こちらにさりげなく向けられる視線を気にしない様に外套を着込む。
少し小さかったが、羽織袴と同じ様に俺の身体のサイズに調節される。
流石に二度目ともなると気になった俺は、エドワードに尋ねる事にした。
「エドワード、装備が俺の身体に合わせるかのように、大きさが変わったんだが?」
「ん? ああ、特殊な効果が付いた装備は、基本的に装備者の身体に合うようにある程度大きさが変わるぞ、余りにも体格と装備に差が有ると無理だがな」
「へえ、便利だな……」
「特殊効果のある装備はそれなりの値段がするからな。成長や体重の増減で体格が変わる度に装備を変えるわけにもいかんしな」
「成る程、良くできてるな」
「それじゃ行くぞ? 俺から離れるんじゃないぞ」
エドワードの言葉に頷き、俺達は後を付いて行く。
連行された際に通った城の扉と城壁の門をくぐり、街へと出る。
最初の巡回地点に向かっていると、巡回を行っている兵士が緊迫した顔で辺りを見回っていた。
それを見た街の人々は緊張はしているが、その顔には安堵の表情も伺える。
兵士が定期的に見回っているからか、今のところ横暴な人間の姿は見えない。
だが、エドワードの話によると、それは表通りだけで裏通りはまだまだ危険だという話だ。
商業地区の筈なのに、店を営業している人は疎らだ。まだ占領されて間もないから仕方がないだろうが。
城を出てそんな町並みを眺めながら歩く事約30分、俺達はある地点に辿り着く。
その地点とはあの少女を見た場所だ。あの時見た町並みと一致する。
「この場所だったよな確か……」
「うん、間違いないよお兄ちゃん、その時見た家もあるしね」
「家がボロボロなのー……」
「良し、それじゃ目抜通りから外れて、捜索を開始するぞ。これからは全員油断するなよ?」
エドワードが先頭、俺が後方に付き椿姫とヒルティを間に挟み、目抜通りから裏通りへと移動する。
俺は油断なく、辺りを確認しながら三人の後を付いていく。
裏通りは更に店を営業している人はほぼ居ない。というよりは皆無と言っても良い。
時折、人相の悪い人間を見掛けるが、俺達の着ている外套を見ると目を背け、隠れる様に身を小さくする。どう考えても後ろ暗い事をやっている者達だろう。
本当ならこういった人間に職質みたいな事をするのだろうが、俺達の目的はあの時の少女を探す事だ。余計な時間を取られる訳にはいかないので無視して通りすぎる。
あからさまにホッとした表情の者達を横目に見ながら、俺達は進んでいく。
捜索は俺の技能だよりなので細かい道も逃さず通り、くまなく捜索する。
時折休憩を入れながら捜索する事、約三時間経つが未だ俺の技能に反応は無い。
「この近辺は調べ尽くしたか……もう昼だしな、一度食事をとってから捜索を再開するか」
エドワードが手元にある簡略地図に印を付けながら俺達に告げてくる。
俺の技能が反応しなかった場所には、地図に印を付け同じ場所を訪れるといった二度手間にならない様にしているのだ。
そして無理をしては逆に効率が落ちると考えた俺達はエドワードの言葉に従う。
食事に向かう際は効率を考え、まだ通っていない道を捜索しながら向かう事にする。
そしてその途中──胸にあの感覚が現れた。
「皆、待ってくれ」
「お兄ちゃん、どうしたの?
「技能が反応した」
俺は端的にそう告げる。
俺の言葉に全員の顔に緊張が走る。
「何処だ……?」
「ちょっと待ってくれ……こっちだ」
エドワードと先頭を代わり、胸の感覚──【傷心妹感知】の反応が強くなる方へと歩き出す。
そして、辿り着いたのは一軒の廃墟の様な小さい家。
所々に穴が空き、屋根も一部剥がれ落ちている。とても人が住んでいるとは思えない状態だ。一見誰も住んでいない様に見えるが、間違いなく胸の感覚はここを示している。
「ここで間違い無いのか?」
「ああ、ここで──」
俺が肯定しようとした瞬間、目的の家の中から大きな音が聞こえてくる。
その音聞いた瞬間、俺は嫌な予感がし扉に体当たりをする。
老朽化していたのか、扉は簡単に壊れ内側に倒れていく。
そして、俺の視界に入ったのは虚ろな目で組伏せられたあの時見た少女と、その少女を押さえ付けながらこちらを見て驚愕の表情を浮かべている男の姿だった。




