第三話 装備★
きゃらふとで椿姫一刀の異世界装備のイメージ画像を作成しました。
それにしても伴い若干装備の表現を変更しました。
「エドワードが護衛なのか……?」
「ああ、レオン王子に報告したら俺に就くように命が下った。通常時ならまだしも占領して直ぐだ。もし異世界人だとばれれば良からぬ事を考える奴等も居ないとは限らねぇ、そうなると下手な奴は就けれねぇからな」
「ふむ……」
俺としても俺達が異世界人だと言う事を知る人間は少ない方がいい。
そうなると、エドワードが護衛に就くのは問題無いと言える。
そう結論付けた俺は、俺とエドワードが話している間に横に来た椿姫に視線を向ける。俺の視線の内容に気付いた椿姫が小さく頷く。
「分かった、よろしくお願いする」
「よろしくお願いします」
「よろしくなの!」
「おう、よろしくな。それじゃまずは朝飯食いに行くか! お前らはこの部屋で飯食ってたから知らないだろうから、食堂に案内するぞ」
「ああ、頼んだ」
恐らく椿姫が食堂どころか、この城全体を既に把握してるのではと思ったが口には出さないでおく。
椿姫も何も言わなかったので、俺達三人は歩き始めたエドワードの後を付いていく。
軽い雑談や途中にある部屋の説明を受けながら、俺達はエドワードの案内で食堂へと向かう。
途中、侍女らしき女性と何回かすれ違ったが、軽く会釈されるのみで特別な視線等は感じなかった。
その事に俺達が異世界人だと言う事を、必要以上に触れ回っていないと認識する。
恐らく、上層部のみで留めているのだろう。その事に俺は少し安心する。
そんな事を考えているうちに、目的地の食堂へと辿り着く。
食堂内は特別変わった所は無く、給仕と思われる年配の女性達が食事を待つ者達に配膳を行っていた。
朝食のメニューは決まっているのか、席に座ると俺達に給仕の女性は人数だけ聞き、奥の厨房へと引っ込んでいった。
出された食事は今まで通り結構旨かった。
俺と椿姫は牢屋で飲んだスープの味を知っていたので、期待はしていなかった。
だが、今まで部屋に運ばれていた食事は薄味ではあったが、満足のいく味だった。
そして今目の前にある食事──決して豪勢では無いが、柔らかい仄かにバターの味がするパン、塩味の効いたコーンが入ったスープ、そして酸味が効いたドレッシングがかけられた複数の野菜が盛り付けられたサラダ。
そのどれもが、現代日本の濃い味付けになれた俺の口にも合った。
その事をエドワードに言うと、この食事に関しても異世界人が関わっているとの事だった。
昔、現れた料理人を名乗る異世界人がこの世界の料理の味に嘆き、この世界の食材を研究し完成した調理法を各国を回り広めたと言う。
その為、各国で秘匿しようとする武器の製造法とは違い、広くこの世界に広まったと言う話だった。
その人物のお陰で今俺達は美味しい食事を頂けると言う事だ。
食事を終えた俺達は、次に装備を整える為に武器や防具が保管されている倉庫に向かった。
◆◆◆◆◆
「ここが武器等が保管されている倉庫だ。一応種類毎に分けられてはいるから、どんな物が良いか希望があれば案内するぞ」
案内された倉庫を軽く見渡すと、確かに剣、槍、斧、杖、弓、他にも様々な物が広い倉庫内に種類毎に置かれているのが見える。
刃がある物は鞘や布が掛けられており、誤って触り傷付かない様になっている。
あの国王が居た城の倉庫にしては、整理されているのに少し驚く。
その事をエドワードに伝えると、近衛騎士団長のフランツがかなりの武器愛好家だった為、その部下の手により整理されていたとの事。
とりあえず各々見て回る事になり、俺は当たり前のように剣が置かれている場所へと向かう。
片手で持てる小回りの利く剣から、とても一人じゃ持てそうもない巨大な剣まで様々な剣が置かれていた。
端から順に見ていた俺は、ある場所で視線を固定せざるをえなくなった。
何故なら、俺の視界に数本の刀が映ったからだ。
興奮を抑えきれずにその内の一本を手に取り、少し鞘から抜いてみる。
磨き上げられた刃紋のある刀身に模造刀には無い鋭い刃は、この刀が本物だと告げていた。
しかし、剣道をしている内に刀にも興味が湧いて色々調べてはいたが、本物を見るのは初めてなので流石に良し悪しまでは分からない。
並べてある全ての刀の刀身を見てみたが、分かるのは刃の反り方や刃紋の違い位で、それ以外は違いが良く分からない。
俺が刀を睨んで悩んでいると、背後から声が掛けられる。
「お兄ちゃん、何に悩んでるの?」
その声に振り返ると、そこには既に装備を身に付けた椿姫が立っていた。
全体が赤と白を基調にした魔法少女のような服を着て、手には先端に輪のような不思議な意匠が付いた杖を持っていた。
「椿姫、もう決まったのか? それにしても良く椿姫に似合ってるな、可愛いぞ」
「えへへ、ありがとうお兄ちゃん♪ 私には物を鑑定出来る技能があるから、どれが性能が良いかは直ぐ分かるからね。見た目だけじゃなくて性能も問題無いよ」
「そういえば、そんな技能が有ったな……そうだ椿姫、この刀を見てくれるか?」
「刀? 私以外には余り興味を示さないお兄ちゃんが、興味を示した数少ない物の内の一つだね」
「……あ、ああ、その刀だ。数本有るんだがどれが良いか分からなくてな」
自覚が有るだけに反論も出来ない俺は、その事には触れずに本題を切り出す。
俺の視線の先にある数本の刀を、椿姫は手も触れずに視線だけを動かし一本ずつ確認していく。
そして、おもむろに一本の刀を手に取り俺に差し出す。
「うん、この中だとこれしか無いね。他のは数打ちしか無いよ」
椿姫が差し出したのは、柄頭の部分に少しひび割れた半透明の玉が付いた刀だった。
他の刀より鞘や柄が凝っている様には見えるが、それ以外は俺の目からは他の刀との違いは分からない。
「ふむ、他の刀とどう違うんだ?」
「ん~、実際に見た方が早いかな、お兄ちゃん魔法を創るからちょっといいかな?」
「ん? ああ、分かった」
「それじゃ、創る魔法だけど──」
「……大丈夫だ。何とか理解した」
説明を聞いた俺は椿姫の両手を握り、創造する魔法を想像する。
すると、前回と同じ様に光の玉が現れ、少しすると椿姫の中に消えていった。
「ひゃうぅっ! お兄ちゃんが入ってくるよぉ……気持ち良いのぉ……んんっ! はぁはぁ……出来たよ【鑑定共有】……はふぅぅ……」
そう椿姫が呟くと、先程椿姫から渡された刀の辺りに【能力確認】と同じ様な半透明の板が表示される。一部発言が不穏だが気にしない事にする。
肝心の新しい魔法は問題なく発動し、刀の辺りに文字の書かれた半透明の板が現れた。
俺は早速、表示された板の文字を読む。そこに表示された内容は──
魂欠刀
魂を持ち意思を持つ刀だったが、魂を破壊され意思を失った刀。
柄頭の宝玉には欠けた魂が残っているが、現在は機能していない。
意思を失い、本来の能力は発揮出来ないが、その刃の切れ味は一級品。
「魂……これは……?」
「魂が欠けてるのが残念だけど、武器としての性能だけなら充分優秀だと思うよ」
「魂って……この刀は生きていたと言う事か?」
「多分ね、本当に残念だなぁ……剣が喋ったりする所見たかったなぁ……」
「それは直せないのか? というか、この世界では剣が喋るのか……」
「現状では無理かな……人で言えば死んでるのと一緒だからね」
そう言われると確かに無理な気がする。
いくらこの世界は魔法が有ると言っても、流石に死を覆すのは無理だろう。
「まあ、武器としての性能は問題無さそうだしな。武器はこれで決まりだな」
椿姫から受け取った刀を抜き、その刀身を眺める。
約65センチ程の反りの少ない打刀で、刃文は直刃、地肌は杢目肌、切っ先は中切先になっている。こういう名称は分かるんだが、やはり良い刀なのかまではよく分からない。
刀を色々な角度で見ていると、ヒルティが椿姫を呼ぶ声が聞こえてくる。
「ねーね、こっちも見て欲しいの」
「分かったよヒルティちゃん、今行くね~。お兄ちゃん、ヒルティちゃんの方を手伝って来るね」
「ああ、刀を見てくれてありがとうな」
俺が礼を言うと、椿姫は嬉しそうに微笑む。
うん、可愛すぎるな……。
装備によって可愛らしさが増した椿姫が、ヒルティのいる方に向かうのを見届け、抜き身の刀を鞘に納める。
そして俺は防具を見る為に場所を移動する。
動きにくい金属鎧は避け、動きを阻害しない物が無いか探して回る。
軽防具が置いてある辺りを見ていると、衣類を入れるのに使用する行李が置いてあるのが目にはいる。
現代日本でもそうそう見る事の無い行李が何故あるのか、とは思ったが気になった俺は、藤の蓋がされたその行李を開けてみると布が入っていた。
綺麗折り畳まれた布を手に取り広げてみる。
広げた布は、紺色をした時代劇等で見る侍が着ている羽織袴に良く似ていた。
「これは……!」
俺はその服に目を奪われる。
刀に興味を持ち始めた俺は、その流れで殺陣のある時代劇を見るようになった。
そして、その登場人物が着ている服も着てみたいという欲求も湧いていた。
その服が今、目の前に有る事に興奮を抑えきれない。
性能が多少低くてもこれを着ると心に決める。
そうと決まれば早速着替える事にする。
泊まっていた部屋を出る際に貰った、この世界における一般的な布製の服を脱ぎ、羽織袴を身に付けていく。
着なれない為、着るのに少し苦労したが何とか着る事が出来た。
少し大きいかと思ったが、羽織袴は俺に合わせたかのように縮みちょうど良い大きさに変わる。
俺はそれに驚いたが、魔法という不可思議な現象が存在する世界だ、恐らく魔法的な物だろうと自分を納得させる。
着替える時に気付いたが、行李の中には草履も入っていたので履き替える。
そして腰に先程見つけた刀を、刃の方を上にして左の腰帯に差す。確か打刀はこの向きで差すのだと本で見た事がある。
「おお……」
鏡が無いので全体が見れないのが残念だが、まるで侍になったみたいで、気分が高揚してくる。
思わず、刀の柄に手を掛け、【居】の構えをとってみる。
すると何故か、身体が何時もより軽く感じられる。
試しにその体勢のまま抜刀、直ぐに納刀し、下げ緒を柄に結び鞘から刀が抜けない様にする。街中では基本この方が良いだろう。勿論、鞘から抜く事も考えて、下げ緒を引けば直ぐにほどける様に結んである。
「ふむ……?」
やはり何時もより身体が軽い……竹刀や木刀より重い刀の筈だが何時もの様に……いや、何時も以上に上手く振るう事が出来る。
その事に疑問を感じていると、聞きなれた可愛らしい声が聞こえてくる。
「お兄ちゃ~ん、私達は決まったけどお兄ちゃんは……って、お兄ちゃん、その格好……!」
「どうだ? 椿姫、変じゃ無いか?」
「変じゃ無いよっ! 似合ってるよっ! 格好いいよっ! ねえ、ヒルティちゃん?」
「初めて見る服だけど、にーにが何時もよりも格好良く見えるの!」
俺の様子を見に来た椿姫と、椿姫の着ている物とは色違いの服を着たヒルティが羽織袴の俺を絶賛してくる。
「お、そうか良かった。俺もこれが気に入ったしな、だが一応性能を見てくれるか?」
「うん、分かったよ【鑑定共有】」
椿姫が呟くと先程の刀の様に羽織袴と草履の性能が表情される。
俊敏の羽織袴
装備者のあらゆる反応速度を強化する。強化率・小
多少の損耗であれば、復元する。
男性専用装備。
強踏の草履
装備者の脚力を強化する。強化率・小
激しい動きをしても脱げる事は無い。
ふむ、性能も俺向きの内容だ、しかも勝手に直るのか。これなら全く問題無いな。
これで決定だな。
「椿姫ありがとな、俺はこの装備にする。ヒルティも決まったみたいだな」
「そうなの! ねーねとお揃いなの!」
椿姫の赤に対し、ヒルティは緑を基調にした服のスカートを翻し一回転する。
顔立ちや髪の色が違うが、お揃いの装備のせいか本当の姉妹の様に見える、大変可愛らしい。
そして手には水色でハート型の水晶みたいな物が先端に付いた杖を持っている。
それらも椿姫が鑑定しているのか、性能が表情されている。
着ているコートと靴は二人とも同じ性能の物の様だ。
防刃の装飾服
刃物等の切り裂く攻撃を和らげる。防御率・中
多少の損耗であれば、復元する。
女性専用装備。
防疲の革靴
徒歩等の筋肉の疲れを和らげる。疲労軽減率・中
女性専用装備。
そして、それぞれの杖の性能だが、まず椿姫は──
強属の魔杖
属性魔法の威力を上昇させる。上昇率・小
全属性魔法に対応している。
それに対しヒルティの杖は──
疑似精霊の杖
自然の精霊ではなく、人工的に造られた疑似精霊を使役できる。
但し、その能力は自然の精霊に比べ弱い。
二人とも、それぞれ三つの装備を身に付けている。
装備も揃った所で、エドワードの待つ入り口に向かおうとすると椿姫から止められる。
「待ってお兄ちゃん。お兄ちゃんの装備だと防御が弱いから、これも装備した方が良いよ」
そう言って椿姫が差し出したのは、肌着と恐らく手甲と呼ばれる物だ。
その性能は──
防刃の肌着
刃物等の切り裂く攻撃を和らげる。防御率・小
防刃の手甲
刃物等の切り裂く攻撃を和らげる。防御率・中
多少の損耗であれば復元する。
早速、肌着と手甲を着け、腕を数度振ってみる。
「……腕の動きは阻害されないな、これなら問題無く刀が振れそうだ」
「そっか、良かった♪ ……後は良さそうな物は無かったから、これで完了かな」
「そうだな、それじゃエドワードの所に戻るか」
「分かったのー!」
花粉症で目が痒くて辛いです……。
目薬は使ってますが、それでも一時的な物……集中力が削がれる……(*_*)




