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フラグは建てたら壊すモノ

少しシリアスです。

すこーーしです。

 もう夜も深くなる。 さて、とりあえず今晩の寝床を探すか。 異世界一日目から野宿をする事になるとは思わなかったが、さっき林の燃えた所が少し更地になってて休めそうだ。 古竜とあれこれしてるうちに野生のモンスターはどこかへ逃げたみたいだし、死骸がモンスター避けにもなってるし丁度いい。


 二人ぶんの寝るスペースは確保したが、そこで寝てくれるとは限らない。 そのためにはまず、隅っこで体育座りしてる女神様のご機嫌を取らねばなるまい。 でも、うん! 俺何言っても逆効果な気しかしないな!


  『レベルなんて気にしないで! レベルが全てじゃないから!』


 完璧に嫌味だ。 レベル差100ある奴に言われても殺意しか抱かないだろう。 仕方ない、今日は適当にご飯を済ませて一人で寝よう。 異世界初の食事はその辺の草だ。


「多分、料理スキルの影響でそんなに不味くはならないと思うけど…… 一応鑑定で毒かどうかは調べるか」


 一つ一つ鑑定しつつ、ある程度の量の草を集めた。 見た目は完全に雑草だが、元いた世界では雑草にマヨネーズをかけて飢えをしのいだなんて話はよく聞いていたし、なんとかなる、と思う。 何にせよこれをどう調理するかだ。 素材の味、生きるも殺すも俺の腕次第だ。 ただの草に素材の味があるのかは知らないけど。


 しばらくしてから、致命的な事に気付いた。


「待てよ、料理するって言っても鍋も水も無いのか! 生で食ったら流石に腹壊すわ! 馬鹿か俺は!」


 味云々以前に料理が物理的にできない。 無駄な時間を過ごしてしまった…… 草むしりしただけだった。


「もういいや。 一日くらい食わなくても大丈夫だろ。 なんか今日はもう疲れた。 寝よう」


 上着を枕がわりにして木陰で横になるが、静けさの中にすすり泣く女の声が響く。 ちょっと怖い。 おかげで疲れているはずなのに全く寝れない。


「だーーもう!! うるっせえ!! 何がそんなに不満なんだ!?」


 ……返事はない。 一言では言えない色んな感情がないまぜになってるっていうのは分かる。 右も左も分からない新人にいきなりレベルを抜かれたんだ。 そういう気持ちは俺も勉強やらスポーツやらで味わった事がある。 だけど、そういう劣等感みたいなのに悩んでいるやつほど盲目になりがちだ。


「いいか、確かに俺はたまたま古竜を倒してレベルだけは上がった。 でも、それだけなんだ。 例えばだけど、もし仮に俺とザリアが戦ったら俺が勝つと思うか?」


「そんなわけないでしょ! アンタがレベル200でも300でも私が本気出せばアンタなんか一瞬よ!!」


 ……望んでいた通りの答えではあるんだが、ストレートに言われると腹立つな。 しかしここは堪える所だ。 その証拠にザリアは叫んでからあっという顔をしていた。 これで話し合いにはなるだろう。


「そういう事だ。 俺にはレベルっていうアドバンテージは出来たけど、逆に言うとそれしかないんだ。 第一ケンカもした事なんてないし、剣だって持ったこともない。 この世界についても俺は何も知らない。 それに比べてザリアはどうだ? レベル105ってことは何回も戦っただろうし、この世界の事もある程度知ってる。 そういう、俺には無いものをザリアは持ってる」


 それは文字では表せない、本当の『経験値』だ。 一朝一夕で決して埋まることのない、見えない差だ。


「ここで生き延びてくためには、ザリアみたいに経験が豊かな奴がいないと駄目なんだ。 俺にはザリアが居ないと駄目なんだよ!」


 少しオーバーに言いすぎたか? いや、これが俺の本心だ。 ちょっと盛ったかもしれないが。


「アンタは、私が居ないと駄目なの?」


「そうだ! (俺が安全に生きていくには)この先ずっとお前が必要だ!!」


「この先ずっとって、いつまでよ……」


「決まってんだろ! (この世界で安全に暮らして)俺が死ぬまでだ!」


「し、死ぬまでって、それ、どういう意味よ!?」


 ザリアが急に焦りだした。 どういう意味も何もないんだけどな。


「だから、俺が死ぬ時までお前にはずっと一緒に居てほしいって事だよ!」


 俺は一生本当の『経験値』ではザリアに敵わない。 俺が死ぬその瞬間まで、それは変わらない。


「そ、それ、アンタ、分かって言ってるの!? 本当に、し、死ぬまで一緒って、それってつまり、そういう事、よね?」


 ザリアが一人でトリップしだした。 そんなに変な話をしたつもりはないが、やはりまだレベルの事を気にしているのか? なら、レベルが上がった事のメリットを説明したら納得するだろうか。


「それに、生活の事なら気にするな。 (スキルポイントの範囲内で)俺がご飯や家もどうにかする。 それでもまだ駄目か?」


「い、いいいいいい家!? アンタはもうそんな心配してたの!? さ、さすがにそれはまだ早いっていうかその……」


 まだ早い? 俺のスキルではまだ家は作れないって事か。 痛いとこを突かれたが、いつか必ずマンションでも何でも作ってみせる。 必要になる日は来なくても作ってみせるさ。


「とにかく、(のスキル)が頑張って(最低でも)二人は養えるように(生活系よりのスキル編成に)するから! だから、一緒に居てくれないか?」


「……そんな、ストレートに言われたら、断れないわよ……」


 何だか何の話なのか迷走してきたな。 けど、これは機嫌を直したって事でいいんだよな。 少なくとも怒ってるようには見えない。


「よし、もう夜も深いし今日のところはここで寝よう。 明日から街を探しに行かないか?」


「ねねねねね寝るってそれってまさか一緒に寝るってこと!?」


 一緒にって子供じゃないんだから…… まさか夜の森が怖かったりするのだろうか。 女神だから野宿とかした事ないんだろうなー。 いや俺もないけどさ。


「怖いなら、その、近くにいるけど、どうする?」


「そんな事いきなり出来るわけないでしょ!! 変態!!」


「変態って…… 」


 俺が会って一日目の女の寝込みを襲うようなクズに見え……ないとも言い切れないのか。 確かに俺は元居た世界でも彼女いない暦イコール年齢の冴えない男で、モテとは縁遠い高校生活を送ってましたよ……


「じゃあ俺は離れて寝るから……おやすみ……」


「ちょ、ちょっと待って! 最後に一言だけ言わせて……」


「なんだよ…… 若干傷心気味の俺に鞭打つのか……?」


 振り返ると、ザリアは姿勢を正し、正座をして三つ指をついていた。


「日本のやり方はこうって前本で読んだの……

 えっと、これから、末長くよろしくお願いします……」


 末長く……? いや待て、その体勢でその言葉って、アレにしか見えないんだが……。


「へ、返事は? 恥ずかしいんだから早く聞かせなさいよ……」


 待て待て待て待てどういう事だ? 何でこうなってるんだ? 落ち着け、落ち着け俺。 よーしさっきの会話が原因とみた。 落ち着いて冷静に客観的に振り返ってみよう。


『お前が必要だ→死ぬまで居てほしい→生活は俺がなんとかする→俺が養うから一緒に居てくれ』


 ……………………うーん? 完璧に俺が求婚してるようにしか見えないんだが? ドウシテコウナッタ? どこで間違えた? とにかくヤバイ。 さっきの古竜より何倍もヤバイ。


「早く返事を聞かせてよ……」


 この台詞だけ聞くなら可愛いって思えるかもしれない。 けど、三つ指ついてるはずのザリアの背中からオーラみたいなのがすごい。 あ、今背中の上を通った小虫が消えた。 いや、よく見たら地面に肺になって落ちてた。 いやいやいやいやヤバイってこれ。 今更ごめんやっぱ違うんだなんて言ったら死ぬわコレ。 絶対死ぬ。 てか言わせないってオーラが出てる。 『ごめん』の『ご』を言った瞬間消される。 『はい』か『イエス』しか許さないオーラですよこれ。 しかも黙ってるからだんだんオーラが増幅してる。 だんだん周りの花とか枯れてきてるもん。 覚悟を決めて『はい』って言うか? 言うしかなさそうだけど、でも、結婚する覚悟も無い奴が気軽に言うのは、ダメだ。 結婚ってそういう事だ。 適当に生きてる俺でも分かる真理だ。 だってこのままだとアイツと同じに…… ってもでもあーどうしようどうすればーー



 その時、フル活動していた脳細胞に衝撃が走った


 いや、待てよ。 結婚はしないが上手くこの場を収めれば良いのでは? 流れ的に俺が一方的にザリアを好きって事になってるだけ、つまり現段階でザリアは俺の事を別に好きではない。 結婚さえしなければこの先ザリアが俺を見限る可能性だってあるんだ。 それならただの失恋で済む。 それに俺はまだ未成年(18歳)、日本ではまだ結婚出来ない! よし、これで行こう! 完璧過ぎて俺の頭脳が恐ろしい。


「あー、ザリアさん? 俺はまだ十八歳で、俺の居た日本だと法律によって二十歳になるまで結婚出来ないんですよ。 だから、まだそういう関係になるのではなく関係を築いてから「でもここは異世界よ! 異世界に日本の法律なんて関係ないわ! それとも私にあれだけ言っておいて、まさか好きじゃないなんて言うつもりかしら?」


 ダメでした。 それもそうだ。 異世界で日本の法律の話してもダメだわ。 俺の脳みそ腐ってんな。


「でも、サカキがそう言うなら、二年間ぐらいなら待ってもいいわ。 二年なんてあっという間だし」


「そうしよう! やっぱり日本の法律には従うべきだよね! いやーザリアが理解の良い人でほんと良かったわー」


「そ、そう? いくら私が女神でもそこまで言うことないわよ、なんだか良妻みたいで少し照れるわ……」


 やっぱり俺天才だったわ。 この場を切り抜けるのは俺にしか不可能だったと言えるだろう。

  とはいえ、問題を先延ばしにしただけではある。 俺がザリアに結果として求婚してしまった事実は残ってるし、そもそも二年間何事もなかったらそのままゴールインだ。 いやまあザリアは確かに美人ではある。 それは間違いない。

けど、なんかこれだと俺が詐欺師でしかない。 第三者から見たら傷ついてるところに甘言をたぶらかして結婚を迫るクズだ。 そんなアイツみたいなクズにはなりたくない。 だから、俺はザリアが美人だろうとこのまま何となく結婚なんてしない。 だから、俺はーー


「じ、じゃあとりあえず今日はもう寝よう! な?」


「そうね! これから長い間一緒に居るのだもの! 焦る事はないわね! じゃあサカキ、おやすみ!」


「あぁ、おやすみー……」


 ーー俺は、二年のうちに、ザリアに振られてみせる。

一章終わりです。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


ブクマ、評価して下さった方、大変ありがとうございました!

これからも頑張ります!

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