真似してはいけないレベリング
すこし短めです。
「そん…な、私、まだ105ですよ? 確かに同期の中ではちょっと遅い方だったけど、それでもコツコツ頑張って、この前ようやくレベル100になったの。 なのに、なのに、私、目の前で、たったレベル1の雑魚に、一瞬だ抜かれちゃったの……? 私の努力って、一体、あはは、あははははははは! もうこんなの笑うしかないわ! あははははははは! 笑えないわよ馬鹿! うぇぇぇええええええええん!!! もうやだぁぁぁぁあああああ!!」
隣で聞いていたザリアが情緒不安定すぎる。 笑ったり泣いたり忙しい……とからかうのは流石に空気が読めないだろう。
「すみませんヘルヴェル様、ザリアが泣き崩れてしまって…… 代わりに話を聞かせてくれませんか?」
(まあ、仕方ないでしょう。 あの子には逆に事の重大さが分かってしまうのですし。 さて、本題に入ります。 私が帰った後サカキ様とザリアは転移し、転移先で古竜と出会った。 そして、貴方達はどうにかして古竜を撃退した。 そうですね?)
体育座りで泣くザリアをちらりと見てから答えた。
「はい、そうです。 鑑定をして確認もしたので間違いありません」
(古竜と出会うだけでも珍しいというのに、まさか倒してしまうとは…… それに貴方がユニークスキル持ちだったなんて思いもよりませんでした。 一体どれほどの強さを持つスキルなのか、私でも想像がつきません)
……ん? ユニークスキル? 何の話をしているんだ?
(とはいえ、貴方が強力なユニークスキル持ちだという事は無闇に言いふらさないように。 古竜を倒す程のスキルを持っていると知られると少々厄介になるでしょう、いいですね?)
ん、あぁ、そういう事か。
倒した時の状況を知らないから、俺が『なんだかよくわからないけどすごい強いスキル』で何かしたって勘違いしてるのか。 確かに、山火事で病死させたなんて予想出来るはずがない。 ヘルヴェル様には悪いけど、今更訂正するのも面倒だしそういうことにしとこう。
「分かりました。 それから俺のレベルについてなのですが、本当に間違ってないんですか? 自分でも信じ難いのですが……」
これが一番聞きたい話だ。 幾ら何でもいきなりレベル200ってバランス崩壊してるだろ絶対。
(それについては先程の通り事実です。 確かに人間がレベル200を超えるなんて事は通常あり得ませんし、前例もありません。 しかし相手は古竜。 本来、対古竜戦はレベル150以上の者が30人以上集まってようやく最低ラインなのです。 それを貴方はたった一人で、その上レベル1で倒してしまった。 戦闘における経験値の割り振りはモンスターと自らとのレベルの差と戦闘での貢献度によって決まるため、貴方は膨大なレベル差の敵を倒し、その経験値を独占した事になります。 十分にあり得る話です)
納得のいく話……とも言い切れないが、納得するしかない。 この件に関してはヘルヴェル様はあんまり興味がなさそうというか、どうでもいいって思ってそうな感じがする。 多分ヘルヴェル様にとってはレベル202でも雑魚みたいなもんなんだろう。
「な、なるほど。 では俺はこれからどうすればいいのでしょうか? 一旦そちらに戻った方が良いのですか?」
この世界に来ていきなりこれだ。 きっと事情聴取とかあるんだろうな。 さよなら俺の異世界生活。 一時間もしないうちにお別れだ。
(いえ、サカキ様は勿論、ザリアもそのままで大丈夫です。 レベルの事やユニークスキルの事を一般人に明かさないなら、問題は特にありません。 そもそも貴方に力で敵う者はそう多くいないと思いますし、問題があってもそちらで解決出来るでしょう)
えぇ…… いいのかよ。 いやありがたいよ? ありがたいけど、神様って意外と適当というか放任主義というか。 まあ変に文句を言って気分を損ねないようにしよう。
「了解しました。 口外しないようザリアにも言っておきます」
(あと、古竜の死骸はこちらで買取させて頂きます。 古竜の現物はこちらでも貴重な品物となっており、そういう決まりとなってるのです。 対価としてそれなりの金額をお支払いすることになりますが、構いませんか?)
そういうことならむしろ大歓迎だ。 古竜の死骸なんてどこも買い取ってくれなさそうだし、第一持ち運べない。
「ええ、よろしくお願いします。 俺らも処理に困っていたので、ちょうど良かったです」
(それは何よりです。 私から伝えておかねばならない事は以上ですが、サカキ様は何かありますか?)
「もうない、と思います。 来て早々迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
(少し驚きましたが、大丈夫ですよ。 それでは、ザリアによろしくお伝え下さい)
最後にそう言うと、指輪はうんともすんとも言わなくなった。 ふと周りを見渡すと日は沈んでおり、どうやら話に夢中になっているうちに夜になっていたようだ。 俺は指輪を再び内ポケットにしまい、そこらの木に寄りかかった。
「ふぅ、これでやっと一息つける。 しかしまぁ、なんとかなったな」
密度の濃い一日だった。 女神に会ったかと思えば小学生にキスされ、異世界に転移したかと思えば今度は古竜とにらめっこだ。 俺が小学生だったら今日一日の事だけで夏休みの日記埋められそうだ。
しかし、成果はあった。 この世界で俺は、一番レベルが高くなった、らしい。 しばらくは死なずに済みそうだ。
明日からは一日一話です。
よろしくお願いします。