初めてのレベルアップ
戦いが終わったら即リザルト画面。 良き文化って感じです。
古竜を倒した後は、速やかに行動した。 火の手が広がらないようにザリアに水の魔術を使ってもらい、周囲の鎮火が済んだ後に、古竜の死を確認した。 鑑定を使い古竜を調べたら《古竜の死骸》と出たので間違いない。 正直きちんと確認するまで落ち着かなかったが、これでようやく安心だ。 ただ、問題はまだ残っている。
「サカキ、何度でも言うわ。 きちんと説明しなさい。 私に、分かりやすく、今すぐ説明しなさい」
さっきからザリアは説明しろの一点張りだ。 こっちはこの短時間のうちに脳をフル回転させた上に、全力疾走し、古竜とにらめっこをしたせいで疲労がどっと押し寄せてきたっていうのに、少しは休ませてくれないものか。 休ませてくれないんだよなぁこの女神は。
「分かった、分かったから一旦落ち着け。 ちゃんと説明するから。 まず何から話そうか。 あーでもどこから話せば……やっぱ面倒だな」
「面倒がらないで! 説明するって今言ったわよね! まさか私に嘘ついたの?」
何だか粘着質な女神だな。 女神ってのは皆こんななのか? そうでない事を願いたいものだ。
「はいはいそれじゃざっくり説明するよ。 とりあえず、何から聞きたい?」
「聞きたい事だらけなんだけど…… そうね、まずはどうやって倒したか、ね」
「やっぱりそれか。 まあ当然だな。 『どうやって倒したか』、その答えは『正確には俺が倒したんじゃない』だ」
これは紛れもない真実だ。 俺には古竜を倒すほどの力もスキルもないからな。
「じゃあ誰が倒したの? あの場にはアンタと私しかいなかったのよ?」
ザリアは良い反応をしてくれる。 もしかしてこれが聞き上手ってやつか。
「古竜は古竜自身によって殺されたんだ。 それが答えだ」
「いや、全然わかんないから。 カッコつけてないで説明して」
すごく冷たい反応だ。 なかなか辛い。
「これからするつもりだったんだよ! ったく、いいか。 これには古竜の外見とクリティカル鑑定の結果が大きく関わってる。
そもそも最初の鑑定で『古竜は最大級だと山一つ分』ってあったが、こいつは明らかに山一つ分じゃ収まらないサイズだった。 これはクリティカル鑑定からも明らかだ。 つまりこいつは最大級を超えた超最大級の古竜で、大きいってのはそれだけ歳食ってるってことだ。 ここまではいいか?」
「ええ。 確かに本で読んだ時のサイズはこんなになかったわ…… 何で気付かなかったんだ私……」
「そうか。 まああの時は俺も焦ってたし、気付かなくても仕方ないさ。 話を戻すぞ。 デカイってのは年寄りの証だ。 ここでクリティカル鑑定の二つ目の情報、古竜の死因について、が役に立つ。 鑑定によるとコイツらは戦いで死ぬことは少なくて、古竜の大半の死因は肺炎による病死、結局のところ古竜を殺せる奴なんて奴ら自身の他にいないんだよ」
「へぇ〜〜〜〜。 古竜の死因が肺炎か、何だか人間みたいねー」
「竜種はブレスで攻撃するらしいから、肺の構造が俺らとは全然違うんだろ。 そんでもってラストの鑑定情報、この古竜の健康状態だが、案の定身体中ボロボロで、肺炎も重症だった。
しかし、これで条件は揃った。 俺は火を起こしてヤツに煙を吸わせ、それによる気道熱傷による肺炎の急速悪化、老体には耐え切れずそのまま呼吸困難で死亡って寸法だ」
要するに病人に鞭打っただけなんだよな、これ。 心苦しい気もするがやらなきゃやられていたと思うと…… 何だかなぁ。
「そういう事だったとは…… 思ったよりアッサリしてたわね。 てっきり私はアンタがとんでもないスキルでも持ってたのかと思ってたから、何だか拍子抜けしたわ」
「んなもんねーわ。 俺が欲しいくらいだわ。 てかなんやかんや倒したの間接的には俺なんだしご褒美くらいあってもいいんじゃないか? なぁ女神様よ、なぁなぁなんかねーのかー?」
これだけ頑張って何もなしってのはいささか徒労すぎやしませんかね? そう思ってるとザリアは近くの岩の上に立ち、偉そうに踏ん反り返ってこう言った。
「安心しなさい! 間接的にとは言えアンタは古竜を倒したの。
つまり、レベルが上がっているはずよ! それもすっっごく! レベル1が古竜を倒すなんて聞いた事無いけど、何にせよ早くステータス見せてほらはーやーくー」
「そうか! モンスターを倒したら経験値が手に入る、そして経験値が溜まるとレベルアップ! 俺としたことがレベルの存在を忘れてたぜ!」
ひゃっほう! あんな強い奴を倒したんだ、レベルが20、いや30くらい上がっててもおかしくないよな!?
「時々妙にテンション高くなるのはクセなのかしら? とにかく、ステータス開いて! ここではいちいちキャラクターシートを出さなくても、ステータス出ろ!って思えば目の前にステータス画面が出てくるから!」
「よ、よし。 出ろ、俺のステータス!」
思わず口に出していて恥ずかしかった。 ともあれ、俺の目の前に半透明な画面が出てきた。
「そのままだと私が見えないから左下の方にあるボタン押して! あと口に出さなくてもいいから」
「……りょーかーい」
少しテンションが下がったが問題無い。 さて、俺のレベルはいくつかな?
【名前】 サカキ ユイト
【Lv】 202
【STR】10(+1)
【CON】11(+1)
【POW】14(+5)
【DEX】11(+1)
【APP】10
【SIZ】14
【INT】15(+1)
【EDU】12(+1)
【スキル】 《ダイスの女神の加護》
《全知の神の加護》
《武術:CQC》
《剣術:片手剣》
《魔術:召喚術》
【スキルポイント】 1030
「「は???」」
ザリアと声がシンクロしてしまった。 だ、だってレベルが200、それでスキルポイントが1000越えしていたのだ。 驚きを超えてあきれてしまった。 自分の事とは思えない、どこか他人事のような感じがしてならない。
「ちょ、ちょちょちょっとアンタ、これ、一体、何? レベル202? この世界の平均は30そこらで、私ですらこの前やっと100越えたのよ? 確かに私はあんまり戦ったりしてないから女神の中では低い方だけど…じゃなくて! レベル202なんてありえない! だって、だって、そんなの、ズルよ! チートよ!!」
「うーん、俺もそう思う。 やっぱりこれおかしいよな。 流石に俺自身ドン引きだわ」
こういう個体ごとの経験値とかを決めてるのが神様だとしたら、その神様は適当すぎんだろ。
「と、とりあえずヘルヴェル様に聞いてみましょう。 きっとなんとかしてくれるわ。 少なくとも私にはもう無理。 サカキ、指輪を貸してくれない?」
「あぁ、分かった。 何とかヘルヴェル様に事情を説明してくれ」
内ポケットに入れていた指輪を取り出し、ザリアに渡す。
「こんなにも早くこれを使うことになるとは…… あー、あー、聞こえますかー? 私ですー、ザリアですー。 ヘルヴェル様ー?ヘルヴェルさまー? 助けてほしい事がありまして、いや私の事ではなくサカキの事なんですがー」
ザリアは指輪を手のひらの上に置き、それに話しかけてる。 やがて指輪がうっすら光り、声が聞こえた。
(聞こえています。 それに事情も理解しています。 サカキ様が古竜を倒したのですね? 信じ難いですが、古竜の出現と生命反応の消滅を確認しました。 信じ難いですが)
「二回言ったのは何故だ……」
「(シッ! なんでか知らないけどヘルヴェル様今機嫌悪いから黙ってなさい!) それで、サカキのレベルについてなのですが、何かのミスですよね?」
俺もそうであってほしいと思った。 それほどまでにこのレベルとスキルポイントは異常だ。 だが、現実は無情だった。
(いえ、サカキ様のレベルについては問題ありません。 そのレベル上昇は適切なものだとこちらでも認識しています。 サカキ様は現在、いえ過去においてもですが、人間としては世界トップのレベル値となっております)
今日は夜にも投稿します。