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一番いいのを頼める防具屋

タイトルはかなーり適当です

 夜になると街の門の前には行列が出来ており、最後尾についたが、しばらく中に入れる気配はしなかった。 さっき見た時とはまるで異なる人の量からして、日中は仕事、夜はここに返ってくる、いわゆるベッドタウン的都市なのだろう。


 この時間を無駄にする訳にもいかず、多少のリスクを覚悟して俺は隣の奴に話しかける事にした。 当たり障りのない話で、かつ俺がここにあまり詳しくない感じを装って、内部事情を少しでも探っておきたい。


「なぁ、今日はやけに混んでないか?」


「あぁ? テメェ何言ってんだ? ってその服装、アンタ『黒犬』か!」


 大声で隣の男が『黒犬』という単語を発した瞬間、俺を中心に人が引いていった。


(まずい、俺が倒した男は有名人だったのか。 逃げるか、いやもう遅い。 どうにか乗り切るしかない!)

 

「黒犬の旦那、勘弁してくれよ。 わざわざ並んでビビらすなんて趣味悪いぜ」


「ゴホン、ン、そうだな。 気まぐれだったんだ」


「ん? 旦那、声が急にガラガラに…… 風邪かい?」


 馬鹿かコイツ? だが便乗させてもらおう。


「まあ、ゴホン、そんな所だ。 悪いが通してくれないか」


「それゃこっちのセリフだ。 とっとと行ってくれ。 アンタが居ると空気が悪くなっちまう」


 そう言うと周りの男達がハハと笑い、道を開けてくれた。 俺はその道を通ってそそくさと衛兵の前を通り抜け、街の雑踏に紛れる事に成功した。



 よし、街の中には問題なく入れた。 まずは情報収集の続きだ。 適当に店に入って世間話でもして聞き出すとしよう。 とりあえずこの服は目立つらしいし、服を買いたい。 服を買うなら防具屋か? それなら変な輩も少ないだろう。 情報収集と言えば酒場、みたいなイメージはあるが俺は未成年だからな! 危ない橋を渡る必要もない。


「さてと、防具屋探したいんだけど、いかんせんこの街並みじゃあなぁ……」


 街は夜だというのにどこもかしこも明るすぎる。 異世界なのにネオンのような蛍光色の灯でいっぱいで、まさしく歓楽街という言葉がふさわしい。 飲食店らしき店の前には酔っ払った客で溢れかえり、怒号で隣の人の会話も聞こえない、そんな状況で何とか盾マークの看板を路地の入った所に見つけ、その店に転がり込むように入った。




「いらっしゃい。 おや、『黒犬』とは珍しい客だ」


 ここでもどうやら一目でバレてしまうらしい。 これじゃ隠密もあったもんじゃない。 何でもいいから服を買って着替えてしまおう。 そう決めると俺はマスクを外し、ゆっくりと深呼吸をした。


「アンタら用に魔結晶が何個か入りたてだ。 最近流行りの《爆発》魔術ってのが気になって仕入れたんだが、ここの連中はどうにも肉体派ばっかりでイマイチ売れないんだわ。 ある筋から手に入れたんだ、質だけは保証するぜ?」


 魔結晶? 初めて聞く名だが、多分この世界では常識なのだろう。 こういう時にザリアに聞けないのは不便だ。 聞くのも怪しまれそうだし、鑑定してみるか。



【爆発の魔結晶(小)】

 魔力を流す事で爆発の魔術が使用可能となるが、一度使うと壊れてしまう。 流す魔力量によって起動までの時間、起動後の威力に影響する。



 うーむ、これは…… 微妙だな。 魔力を持つ人なら誰でも使えるけど一回きり、ってのは何とも言えない不便さだ。 爆発魔術なんてスキル一覧にはなかったし。 まあ、俺には金を流すという目的もある。 一応買っておくか。


「そうだな、この魔結晶を3個くれ。 それと服を見繕いたいんだが」


「黒犬ともなれば金の使い方が豪勢でいい。 それと、服ね、アンタ程の人間がこんな所に来るってのはどういう風の吹き回しで?」


「あー、急用なんだ。 値段は気にしないから一番良いのを出してくれ」


 俺にはさっきヘルヴェル様からもらった百万Gがある。 ケチケチしてる場合じゃないし、こんな世間話をしてる暇もない。 長引けばそれだけバレる可能性も高まる。 まあ一度言ってみたかったのある。


「それはそれは、失礼を。 うちに来るってのはそういう事か、なら良い物がある」


 カウンターの裏に回り、店主は二つ箱を持ってきた。


「買い手が長年いなくてな。 とにかく高いってのもあるんだが、性能がピーキーなんだわ。


 こっちは【鉄と血のジャケット】

 耐爆、耐火が最高レベルな上に武器ポケットが十以上あるって優れ物だが、《爆発》と《火》以外の耐性が標準以下なのとそもそも武器を銃個も持ち歩かねぇってのでサッパリ売れてねえ。 素材が貴重な鉱石らしく、これはズボンと上下セットで五十万Gだ。


 もう一つは【ネグロカミーリャンのインナー】

 黒を基調とするインナーで、全属性に対するある程度の耐性がある。 《隠密》にプラス補正もしてくれるってんでアンタらみたいなのにはうってつけなんだけどよ、何故か【SIZ14以下】って設定にされてるんだ。 ここの連中にはちっさくて合わねえってんで長年売れ残ってるんだ。 アンタならギリ入るんじゃねえか? 在庫処分も兼ねて四十五万にしとくよ」


 性能に関しては何ら文句は無い。 しかし、合わせて95万か、持ち金が全部吹っ飛ぶ計算だが、ここで大金を放出した方が金の流れは分かりやすいかもな。 それに大金を持ち歩いてたらカツアゲにいつ会ってもおかしくなさそうだ。


「全部まとめて買う。 魔結晶はいくらだ?」


 そう言うと、店主の顔が一瞬にしてくしゃっとした笑顔に変わったと思ったらまた一瞬でさっきの仏頂面に戻った。 そんなに嬉しかったのだろうか。


「両方買うなら魔結晶はオマケだ。 今九十五万現金払い出来るならもう少しオマケしよう」


「なら今払おう。 札束でもいいか?」


「毎度あり……っておいおいこれは違うじゃねぇか!?

 ……黒犬ってのはそんなに儲かるのかい、それともアンタが特別なだけか?」


 ポンポン表情が変わる人だ。 うーん、流石に札束をポンと出すのはまずかったか? そういう驚き方には見えなかったが……


「アンタのこれ、百万じゃなくて一千万の束だよ。 ったく、驚かせないでくれ……」


「は……………………?」


 い、いっせんまん!!!??? そんな大金持ってる訳無い、第一机に乗ってるのは一万Gのたば……じゃなかった。 机の上には十万Gと書かれた札の束が置いてあった。


(この世界の最高紙幣は十万なのかよ!! ヘルヴェル様も先に言ってくれ!)


「あーーーー、その、すまなかったな、ジョークだ。 実は表面だけ十万G札なんだ!」


 苦しいか? いやもうこれで押し通るしかない!


「な、なるほど。 心臓に悪いジョークだな」


 やっぱここの人間は全員馬鹿だな! 何なんだここ居るだけでEDU下がりまくりだわ!


「とにかく、今払おう。 これで百万Gだ。 騒がして悪かったな、釣りはいらない」


 札束の表面から十枚抜いて、残りはポケットにしまう。 今俺のポケットに九百万が生で入ってると思うと死にそうだ。


「毎度あり。 意外と黒犬もアンタみたいなお茶目な奴もいるんだな」


「まあそういう事だ」


 何とかなった……か? 本当にこの格好は疲れるな……


「さて、オマケをするって話だが、ついさっき思い出した話があった。 この服を持ってきた奴の話だ。 二十年以上前の話で忘れてたが、そいつは一緒にこれも置いていったんだ」





 店主は埃のかぶった木箱を持ってきて、中を開けた。





 中身は、映画やゲームで見覚えがある物だった。


  この世界にあるはずのない、黒光りするフォルム。

 シングルアクションアーミー、通称SAA、『アメリカを作った銃』だ。 リボルバーとして多数の派生系があり、未だ人気の高い銃である。 しかし、なぜここに? ありえない!


「これ、が、何でここにある? なあ店主! これを持ってきた奴はどんな奴だ!?」


「さあな。 その時は全身黒づくめで顔すら見えなかった。 ただ、たまたま風で帽子が飛ばされてな、確かアンタと同じ黒髪だったな」


「…………店主、これ売ってくれ。 いくらでも出す」


「そう言われてもなぁ、これ壊れてんだ。 魔具かと思って買い取ったってのにピクリともしねぇ。 売り物じゃねぇし、欲しけりゃアンタにやるよ」


「そうか、悪いな」


「アンタは良い客だ、それくらいいいさ。 それじゃ、しめて百万Gだ。 服は着ていくかい?」


「あぁ、そうさせてもらおう」


 試着室を借り、買ったばかりの服に着替えた。 黒のインナーも裾が気持ち長めの灰色のジャケットもサイズは丁度だった。 パリパリと音を立てそうなくらい新品で、馴染むまで時間がかかりそうだ。



「そんじゃ、またのご利用を」


 箱を片手に持ち、店から出ると背に声をかけられたので軽く手を挙げて返事をする。 そのまま大通りに入ると、時間が経ち、さっきより街の騒がしさが薄まっているため比較的歩きやすかった。 しかし、俺の頭はそれどころではなかった。


(あの店で服と装備の問題が同時に片付いたが、また新しく問題が発生した。 この箱の中身だ。 これが、銃がこの世界にあるって事は、つまり、俺と同じく転移者がいる。 "俺よりずっと前に転移者した人"がいるって事だ)

リボルバー(ただしCQCは使えない)


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