早起きは三文以上の徳
二章開始ですが、時系列的には普通に続きです。
異世界生活2日目の朝は太陽の日差しと鳥の鳴き声で始まった。 アラームに起こされない朝は久しぶりで、なんとも清々しかった。
「んー、体の節々が痛いけど、慣れれば平気だな。 野宿も悪くないかもだ」
立ち上がって体を伸ばすと骨が鳴るのが聞こえた。 さて、ザリアはもう起きてるのかと周囲を見回すと、少し離れた木の根元で丸まってるのが見えた。 まだ起きてないようだ。
「早起きは三文の徳って言葉があるけど、今日に限っては三文以上の価値があるかな」
ザリアより早く起きれたのは好都合だ。 朝のうちに確認しておきたい事が二つあった。 一つは今日の予定について。 昨日はあの後疲れ果てて爆睡してしまったから、今日の予定について何も考えてなかった。 このシミュレーションがあるか否かで予期せぬ事態への対応も変わってくる。
目下の目的として、街に出る事か一番優先か。 このまま制服ってのも目立つし、食料も買っておきたい。 何より明日以降の宿を見つけなくてはならない。
そのためには情報が必要だ。 どこに街があるか、そもそもここはどこか、知っておくべき事は山ほどある。 ザリアに聞くのも手だが、頼りすぎるのも良くないと思う。 俺に今出来ること、それは膨大なスキルポイントを使うことだ。 これが確認しておきたい事の二つ目だ。 スキルポイントが1030ある現状、スキルで解決出来ることならどんどんスキルポイントを使っていきたい。 今後役に立つスキルならなおさら早めに取得したいしな。
「それから、スキルポイントは俺の唯一の武器だ。 たとえザリアにでも全てを知られたくはない」
1030もあるというのは、逆に考えると1030しかないとも言える。 30と20と10の数字の組み合わせで成り立つ以上、特定されない保証はない。 そして、一度全てを特定されたらそれはそのまま俺の死に直結する。 だから、俺しか知らないスキル枠こそ、俺の真の生命線ってわけだ。 まあ、1030の組み合わせはそれなりの数がある。 完全に特定されるのはよっぽどドジを踏まない限りないと思う。
「問題はスキル編成なんだよな…… 好きなだけ取れるっちゃあ取れるんだけど、取り返しがつかないのは緊張するよ全く」
選択肢が以前とは桁違いに広がり、この世界では不可能であろうスキルの取り方が可能になった。 それはオールラウンダーなスキルの取り方だ。
スキルシステムからして、恐らくこの世界はパーティーを組んで役割分担するのが普通なんだろう。 一人当たり、スキルは多くても10だ。 スキル枠10に対してソロで生き抜くためのスキル編成、つまりオールラウンダーなタイプはかなり難しい。
だが、俺ならどんなスキル編成でも出来る。 一人でパーティーの役割を全て担える、と言い換えてもいい。 俺しか知らないスキルが生命線なら、俺しか出来ないスキル編成が強みとなる。
「基本方針は一人で戦闘、生活についてある程度出来ること。 『ソロプレイの究極形』みたいな感じか。 よし、ステータスオープン、と」
さて、何を取るか。 歩いた所の中心から半径100メートルの地図を記録してくれる《地図》は今すぐ使うし、街を探すのには《索敵》で足跡の痕跡を辿れば良し。 うん、この二個を取れば街には行けそうだな。
「えっと、スキルポイントをタッチすればいいのか? それで、このタブにチェックすればスキル取得か」
相変わらずお手軽スキル取得だ。 間違えたりしないように注意が必要だな。
「っと、もう昼前か。 最後に昼飯の用意だな。 俺の想像通りの《投擲》スキルなら、しばらくはこのスキルだけで食事は何とかなるはずだ」
投擲スキルは投げる行為に対して威力、命中率、飛距離の三種の補正をパッシブとしてかけるスキルだ。 その補正度合いによるが、止まってる獲物くらいなら狙えるだろう。 落ちてる手頃な石を拾い、木の枝に止まってる鳥を狙って投げてみると、無事に鳥は地面に落ちた。
「ノーコンな素人がコントロール優秀なピッチャーくらいにはなるのか。 威力の変化は分からないし、検証の必要ありって所か」
そのまま二、三匹鳥を獲った。 唯一使える魔術のファイアでたき火を作り、枝に鳥を刺してたき火の周りに置く。
「そういやこっち来てから何も食べてないんだっけか。 なんとも食欲をそそる匂い、てか焼き鳥そのものだなぁ。 あータレか塩が欲しくなる! 街に着いたら調味料の普及具合を調べるか! こういうの異世界っぽくていい!」
焼き鳥にうきうきしてると、匂いが充満したのか、ザリアがゆっくりと目を覚ました。
「おはようザリア。 起こして悪いな」
「ん〜〜〜〜〜〜っ おはようサカキ、アンタ、いえ、アナタ早起きなのね」
アンタからアナタ呼びになってる…… 俺が言うのもアレだが、ちょろすぎない? 悪い男にひっかかりそうな感じがしちゃう……
「い、いや。 俺もさっき起きたばかりだよ。 朝ご飯は簡単に焼き鳥だ。今日は街まで歩く予定だから、腹いっぱい食べてくれ。 鳥だけはたくさんあるんだ」
「そうね、今日は街には着いておきたいわ。 シャワーも入りたいし、服も揃えておきたいから」
「そういや金ならヘリヴェル様から多少は手に入るんだったな…… あんまり期待すんなよ? 死骸の処分を任せたようなもんなんだし」
運良く手に入れた金なんてのは無いと考えた方が気が楽になる。
「まあ、アナタが居るならお金なんてなくてもいいわ…… ってそうだ! 私言っておかなきゃいけない事があるの!」
「気軽に言ってくれ」
「えと、昨日、話し合って、二年後にそういう関係になるって決めたじゃない?」
「そうだな」
「つまりね、二年経つまでは私達の関係はクリーンであるべきだと思うの! だから二年間、あくまで旅の仲間として接してほしいなーって」
婚前の関係ってのは問題になりやすいのは女神でも一緒なのか。 もしかしてザリアの親とかに会わされたりするイベントがあったりなかったり…… とにかく、それなら俺としても問題ない。
「分かった。 二年間は普通の仲間って事でよろしく。 それじゃ、飯食ったらとっとと出るぞ。 地図と索敵を取ったけどどのくらいの距離なのかは行ってみないと分からないんだ」
あんまりザリアの事を気にしすぎても本末転倒だ。 せっかく異世界に来たんだし、それなりには楽しまなきゃやってられない。
「それにしても焼き鳥美味しいわねサカキ! ワイルドな味?っていうのかしら、悪くないわ」
「俺には薄味すぎるかな…… 淡白で美味しいけど、やっぱり焼き鳥はタレか塩だな」
そもそもこの焼いただけの鳥を『焼き鳥』と呼んで良いのかという問題はあるが、それは大したことではない。 焼き鳥の味がしたらそれはもう焼き鳥なのだ。
「てなことで飯も食ったし、歩きますか」
「腹ごなしの散歩で収まる距離だといいんだけど、こればっかりは運よね」
街に着いてからもやる事はたくさんある。 日が暮れる前に着いておきたい。
最近投稿次官がバラバラで申し訳ありません! 探り探り投稿しているのでしばらくはばらつくと思います!