カワウソと小学生と俺と女神様
TRPGリプレイが好きすぎて毎日あらゆることをダイスロールで考えているとそれ小説にしよう!って天啓が下ったので書きました。
初投稿ですがご容赦ください。
感想、コメント等あればお待ちしてます。
今振り返ってみると、俺、 榊 維人のその日は朝から何かおかしかった。
金縛りで目が覚め時計を見ると遅刻確定の時間、あわててスリッパを履くも裏にはガムがくっついており地面に顔面ダイブ。 朝ご飯を卵かけご飯で済まそうとすると卵ではなく茶碗が割れ、朝食を諦めて着替えようとするも何故か動物の毛だらけ。
とりあえずコロコロクリーナーを鞄に詰め込み謎の毛だらけの服を着て家を出たが、あいにくの豪雨。玄関に立て掛けてある傘を掴むと庭の木の枝にひっかけ大きな穴が。びしょ濡れでいざ駅に着くと人身事故で一時間の遅延。
もう今日は休もうと決心し、駅から出ると台風と見間違うような大嵐。今日出かけている奴は間違いなくアホか社畜だ。もはや役に立たない傘をさして家に帰ろうとしたところで今度はトラックに轢かれそうになり死にかける。 おかげで服はびしょびしょだ。
今日は外出してはいけない日だったのだろうと適当に決め込み午
後ローでも久しぶりに見るかいやでも積んであるゲームを消費しなければうーん悩ましいと考えつつ橋の下の氾濫しつつある川を眺めていると何かが見えた。
「ん…… 今川の中に何かいた…気がする…けどこれは死亡フラグな気もする…」
こんな日の川は何故か決まって犬やら猫やら流れてるものだ。 そして川の近くには小さな女の子が泣いているというのもよくある。
「ここは何も見ないように俯いて歩こう」
見えなければ無いも同然、この嵐で出歩く人もいないわけで前方不注意も起こり得ない。完璧過ぎる。
「…だれかいませんかー… あの子をたすけてくれませんかー…」
………幻聴か。 俺も疲れているのだろう。 だってまさかこんな日に外に出るアホがいるわけない。 そんなアホは俺一人で十分だ。
「…すみませーん… だれかいませんかー…」
……気にすることはない。 事態を悪化させるだけだ。 きっとすぐ親が出てくる。 俺に出来るのは真下に備えて警察に電話くらいだ。
「……ゴホッゴホッ あっ、あのー、だれでもいいから、たすけてあげて… わたしにはできないから、わたしにはこれしかできないから… だから、だから…」
……その『誰でもいい』誰かはきっと俺じゃない。 あの子が期待してるのは高校生の、何の取り柄も無い俺じゃなくて、きっと、他の誰かで、そう、俺なんかが行っても無駄に期待させてしまうだけだ。
だから、俺がすべきなのは電話だ。 落ち着いて警察に事情を話せばすぐ来てくれる。 まず、俺がすべきなのはポケットの携帯に手を伸ばすことだろ? 簡単な事だ。
なのに、なんで俺は走ってるんだ。
「……ッハァ! お前、こんなとこでなにしてんだ!! とっとと家帰れ!!」
怒鳴るとビクッとしてこちらを向いた。 小学生、くらいだろうか。
「えっと……あそこでカワウソさんが溺れてるの……」
「嘘つけ! え、は? カワウソ? マジで?」
一瞬素になってしまった。 犬とか猫じゃなくて? カワウソ? なぜここに? てか溺れてるの?
「うん……。 最近いつも川にいるの……。 それで、今日雨すごくて、カワウソさん、どうしてるかなっておもったら、あそこにいて…」
飼いきれなくなって川に放したのか…? とにかく、今はそのカワウソ救出が優先か。
「くそッ、とりあえず鞄持ってろ!」
「え……? あっ、うん! わかった!」
びしょびしょの鞄を女の子に預け、川岸に立つ。
(俺は水泳は得意ではない、だからどうにかしてカワウソのもとまで上手く流される! その後の事はその後だ!)
一度深呼吸をし、大きく息を吸うと、川へ飛び込んだ。川は思ったよりもさらに流れが速く、息をするのが精一杯だった。
(くそ、とにかくカワウソはどこだ!)
周囲を首と目を動かしなんとか見渡すと、5メートル程先に茶色い生き物が見えた。
(あそこか! 上手く流れを利用したいところだが、いけるか!?)
少し力を抜き、だが足腰には確かに力を込め、上半身を前方に傾けた。
(上半身でなんとなくの方向を捉えて、下半身でバランスをとる! これでいける! 多分!)
力を抜いてほんの数秒で流され、どうにかカワウソが手に届く範囲までたどり着いた。
(よし、あとはカワウソを掴むだけ、落ち着け、俺!)
カワウソと併走しながら、ゆっくりと手を伸ばす。
「っし! 獲った!」
カワウソに指先が触れると、幸運にも向こうから手にしがみついて来た。
(さて、こっからどうするか…… っと、まずい!!)
つい力を抜いてしまったのか、かなり流されてしまった。 そして、だんだん岩のある真ん中の方まで近づいている。
(やばいな…… ぶつかったら間違いなく終わりだ。 それまでにせめてカワウソだけでも… )
刹那、悪魔めいた発想が浮かんだ。
(このカワウソ、岸まで投げて届くか?)
ここから岸まで大体13メートル。 地上なら余裕で届くがここは足場が安定しない。 おまけに肘から先のスイングだけ。 足を滑らせたら諸共に一巻の終わり。
だが、やるしかない。
「やっぱり、確実にこいつを助けるには、これしかねぇよな! 一か八か、この瞬間くらい頼むぜ『幸運の女神様』よぉ!!!」
覚悟を決め、振りかぶろうとしたその時、頭の中で声がした。
(アンタ、この私を投げるときたか!あっはっはっは! 悪くない! 悪くないわその精神、その心意気! 気に入ったわ!
なにより、幸運の女神様なんて呼ばれて、
これで手を貸さなかったら女神の名が廃るってもんでしょ!)
「おいおいマジに幻聴かよ……切羽詰まってんな俺は!!!」
(幻聴なんかじゃない! それより、アンタにこの私が力を貸してあげる! 《ダイスの女神の加護》をあげるわ! えっと、今回必要はステータスは|『STR』と『幸運』ね!
それじゃあダイスロールいくわよ!!)
「急展開すぎてついてけねえ! てかもう下半身が限界なんだが!!」
このままだと幻聴に殺される。 あの世での笑い話にもならない。
(あと少し我慢しなさい!
『ダイスロールの結果によってもともとのステータス一つに1d10の追加判定』!!
さらに女神の恩恵で特別サービス!
『《加護》の対象を二つにする』!!
そして一回きりの超特別大サービス!!
『確定スーパークリティカル』!!!
これでいけるわ! ダイスオープン!
[STR 判定ダイス【10】SUPERCRITICAL!!! STR9→19! ]
[幸運 判定ダイス【10】SUPERCRITICAL!!! 幸運45→95! ]
よし、いいわ!! 文句なしのクリティカル! そのままぶん投げなさい!!!)
「よくわかんねぇけど、いくぜぇぇぇええええええ!!!!!!! っっっらぁぁぁあああああああ!!!!!!! 飛ぉんでけええええええええええ!!!!!!!」
肘を全力で伸ばし、上半身に極限まで捻りをかけ、カワウソを岸へと円盤投げの要領で投げた。
するとどうしたことかカワウソは綺麗な放物線を描き川岸に届くどころか大きく川岸を通り過ぎその奥の原っぱまで飛んで行き、無事着地。 川岸にいる女の子のなんとも言えない悲鳴が響く。
「マジかよ、軽く30メートルは超えたぜ…… これが俺の真の力だったのか。 陸上部に入ればよかった」
(んなわけないでしょ! それよりアンタすごい勢いで流されてるわよ!!)
未だに頭に響く幻聴ではっと意識を戻すと、川の真ん中の岩石まで数メートルだった。
「おっとやばい。 これはマジにやばい。 どうにかしてさっきの火事場パワーをもう一度……!」
しかし、どうしたことか。 全身に力が入らない。 例えるなら全力で運動次の日の全身筋肉痛のような、そんな脱力感で全身が満たされている。指先がピクリとも動かない。
(あ、そういえば『確定クリティカル』系統のスキルはデメリット持ちだったっけ…… あっちゃあ、忘れてたわ。 まあもう遅いか)
「えっ」
そんなふざけた幻聴を最後に、俺は足を豪快に滑らせ、その勢いのまま後頭部に大きな衝撃が走る。それがこの世で最後の記憶となった。
最後まで読んで下さりありがとうございます!
しばらくは毎日更新予定です!