綺麗なお姉さんは好きですか?
僕の名前はウィリアム・セイン・フォルテア。
お父様はチャールズ・ルイス・フォルテア。
フォルテアの王様だよ。
エヘヘ、ちゃんと名前を言えるようになったんだ。
この間までお母様が呼んでたチャーリーパパって呼んでたからね。
お母様は二人いて僕を生んだのがメアリーお母様。
それでもう一人僕の兄上を生んだのがセリーヌお母様。
そう僕には兄上がいるんだよ。
ラインハルト・ロイス・フォルテア、かっこいい名前だよね。
年齢が九歳も離れているから兄上はもう一六歳。
だから兄上と呼ぶのも不思議な感じがするんだけど兄弟なんだよ。
でも、よくわからないけど、お母様が違うから余り仲良くしてはいけないらしいんだ。
一緒に遊ぼうとしたら色んな人に睨まれるの。
この間の休みの日も兄上の周りにいる学友っていう年上の人達が凄い目で僕を睨んでたんだよ。
兄上が珍しく庭にいたから、宮殿の探検に誘おうと思っただけなのにな。
普段の兄上は大忙しなんだよ、お世話係のお姉さん達が教えてくれたんだけど将来の王様になるために学院に通っているだけじゃなくて休日も一生懸命勉強しているんだって。
凄いなあ、一日中勉強だけなんて僕なら勘弁してほしいから、兄上の事は尊敬しちゃう。
僕はさっさと勉強を終わらせて庭で剣を振るったりお馬さんに乗って走るの方が楽しいからね。
今日も休みなのに兄上と一緒に遊べなくて残念だなって思ってたら綺麗なお姉さんと仲良しになれたんだ。
婚約者って言って兄上のお嫁さんになる人だって教えてもらった。
お姉さんの名前はアレクシア・マリア・ルブランっていって公爵家のお嬢様だって。
凄いなあ兄上にはこんな綺麗な人と結婚するんだって。
それに他の学友さん達と違って僕の背の高さに合わせて喋ってくれたし、優しいんだよ。
びっくりしたんだけど、将来は僕のお姉さんになるだって。
「そうですわね、わたくしとラインハルト様が結婚すれば義姉ということになりますからウィリアム様は義弟ですわ」
「もう、様はいらないって言ってるのにぃ。
ウィルでいいの! お姉ちゃんになってくれるんだからウィルでいいの」
「クッ、なんて攻撃力ですの。
お姉ちゃん、はぅぅ、ウィルって呼んだら私の事はアーシェお姉ちゃんと呼んでくれますか」
「いいよぉ、アーシェお姉ちゃん」
「フゥ、変ですわ、何故かいけない事をしている気がしますの」
背を伸ばしているとアーシェお姉ちゃんは美人で薔薇の花みたいな触ったら棘のある印象なのに、こうやって僕と話す為に屈んでくれるとフワっとしてるのに気品もある百合の花の様な人になるんだよね。
そうお母様みたいな感じになるんだよね。
「何か背徳的で、いえ義弟ですものね」ってよくわからないけど抱きしめてくれた感じもお母様みたいにふわっとしてて柔らかだったもん。
お世話係のお姉さん達の評価も高いんだ。
王族の結婚相手として相応しい方なんだって。
家柄とお血筋も良くってのはよくわからないけど、優しいお姉ちゃんが出来たのは嬉しい。
兄上が勉強で忙しい時は暇になっちゃうらしいから僕と庭園でかくれんぼしたり言葉遊びを教えてくれたりするんだ。
それにアーシェお姉ちゃんとは話も合うんだ。
兄上の学友さんっていう人たちが意地悪なんだって言ったら一緒になってぷんすかっって怒ってくれた。
「全くどうしようもありませんわね。
あの筋肉信者に冷血眼鏡と陰険従弟達……。
貴族としての躾さえなってないのかしら」
「兄上もいつも勉強ばかりしないでアーシェお姉ちゃんが折角来てるんだから僕みたいに一緒に遊べばいいのに」
「仕方がありませんわ、私との婚約は色々ありますもの。
それに勉強しているのに邪魔もできませんわ。
セリーヌ様にお茶に誘われているからこうしてウィルと遊べますしね」
「そっか、アーシェお姉ちゃんと遊べるから僕にはいい事なのかな」
「ウフフ、そうですわ。
フフフ、お姉ちゃんですものウィルの事はわたくしが守りますわっ」
相変わらず兄上の学友さん達がいるけど睨まれる事は減ったんだ、アーシェお姉ちゃんが注意してくれたのかも知れない。
優しいお姉ちゃんが出来て僕は幸せです。
お姉ちゃんに出会ってから暫くして、僕にも兄上みたいにご学友っていう子たちが現れたりして一緒に遊んだり勉強したりするようになった。
でも相変わらずアーシェお姉ちゃんとは庭で遊んでいるんだ。
だって勉強もご学友君達とだと終わるのに時間がかかるの。
僕だけが終わっちゃうから先に庭で遊ぶにしても一人よりアーシェお姉ちゃんと一緒の方が楽しいんだ。
最近はアーシェお姉ちゃんと魔法を使って遊ぶのに嵌ってるんだよ。
アーシェお姉ちゃんって結構負けず嫌いなんだよね。
「ぐぬぬ、負けませんわぁ!」ってよく叫んでるもの。
夏だと水の玉を動かして当てたり出来るんだけど、今は冬だから光の玉を動かして当てっこするんだ。
最初はアーシェお姉ちゃんが出来なくてコツを教えてあげたの。
「信じれらませんの、どういうことですの、おかしいですの」
「だって水の玉を飛ばすのと変わらないよ?」
「いえ、ですが自由自在にというのは、目で見るまで信じられませんでしたわ」
「飛ばすんじゃなくて、こうやって、こんな風にしてこうやるの」
「全くもって理解できませんの」
なんでだろう、見るだけで判る筈なんだよね。
自分から出ている魔力が繋がっててこうやってこうやるだけなんだけどなあ。
飛ばすのはエイッってやるだけだし。
「おかしいなあ、先生と同じ事をアーシェお姉ちゃんも言ってるよ。
でも大丈夫、先生も出来るようになった方法があるんだ」
「そうですの?」
「うん、えっとねアーシェお姉ちゃんの手の上にまず光の魔法を出してみて」
「はい」
「こうやって、僕がお姉ちゃんの魔力をえいっ」
「はぅっ、ひゃん、くすぐったいですわぁ」
「もう、駄目だよ、ちゃんと見て動いてるから見て」
「ハァハァ、これは強烈ですわ、危ないですわ。
ひゃうん、ハァハァ」
魔法の先生をしてくれてるお姉さんと同じような反応だなあ。
ちょっと体に触れて魔力を操作してるだけなのに……あ、いけないそういえば他の人にやるときは気を付けてって言われてたんだっけ、テヘッ。
でも先生みたいに気を失ってないから問題なしだよ!
何とか動かせるようになるまで魔力操作を何度か続けたんだけど、アーシェお姉ちゃんも精神的疲労が云々でっていう良くわからないけど疲れちゃったらしくて結局その日は余り遊べなかった。
うーん「大丈夫問題ありませんわ」って言ってたから続けたんだけど、きっと強がってたんだよね。
本当に負けず嫌いだなあ。
びっくりした。
アーシェお姉ちゃんが薔薇の妖精みたいになってたの。
王宮で開かれるパーティーで夜会デビューするんだって。
兄上がエスコートするらしいよ。
うーん大人だなあ。
僕もダンスは習ってるけどまだ夜会に顔は出しても踊った事が無いからね。
兄上も通っている学院の二年目は国中から貴族の子供が集まって教育もある程度出来ているからデビューには丁度いいんだって。
僕も将来はそうやって誰かを誘ってダンスしないといけないんだなあ。
どうせならアーシェお姉ちゃんみたいな人がいいんだけど。
「僕が将来夜会にでなきゃいけなくなったらアーシェお姉ちゃんにパートナーになってもらってもいいのかな」
「ウフフ、どうかしら。
ウィルのパートナーならきっと沢山の女の子から希望されますわ」
「でもアーシェお姉ちゃんがいいなあ」
「そうですわね。
もしもお相手がいなければわたくしをお誘いになってくださいませウィル」
夜会でお父様の後ろで見てたけど兄上とアーシェお姉ちゃんが最後に入場してきた時はすごく目立っていたと思う。
デビュタントって言うんだって。
でも兄上ももっとダンスの時間も取らないと駄目だよね、アーシェお姉ちゃんをリード出来てないんだもの、何だっけダンスの先生が言ってたんだよ紳士たるもの云々って。
兄上やアーシェお姉ちゃんが学院の三年生になった。
夏が近づくにつれて何だかお姉ちゃんが疲れていく感じがした。
お世話係のお姉さん達に聞いてみた。
何でも常識外れの留学生の女生徒がいて学院が混乱したんだって。
アーシェお姉ちゃんは頭が良くって成績も学年で一番、それに高位の貴族で、生徒会っていう所に所属している女生徒だから留学生であるその子の面倒を見ていて、この所ずっとトラブルに巻き込まれるんだって。
うーん大変だなあ。
兄上も一緒の生徒会に入っているんだから何とかすればいいのに。
「アーシェお姉ちゃん! ちょっと座ってみて」
「ウィル? いいわちょっと待ってね」
「本当は寝転がっての方がいいんだけど、こうやってこうやってこう」
「はぅ、ふぁ、はっぅ、何ですのぉ」
「疲れを取る魔法を作ってみたんだ。
魔法の先生との合作だよ」
「これはっ、確かにぃくぅ。
効きますわぁ」
「でしょ、お母様やお世話係のお姉さん達にも大好評なんだよ」
「そんなにも沢山……手遅れにぃ、もうダメですわ」
「疲れは取れるけどちょっと横になった方がいいんだって」
「その気持ちはよく理解できますわ。
ありがとうウィル」
「エヘヘ、元気になってくれてよかった」
「恥ずかしいですわね、義弟に心配を掛けてしまいました」
お姉ちゃんが元気になってくれて弟として嬉しいです。
もっとこの魔法を訓練してもっと疲れが取れるように頑張ろうって思ったんだけどね。
先生やお母様がダメよっていうから残念だけど別の魔法を勉強することになったんだ。
疲れが取れるって悪いことじゃないのになあ。
別の魔法を勉強するように勧められたから今度は魔法の道具を作る事にしたよ。
料理を運ぶお世話係のお姉さんが体調を崩したから、体が良くなる魔法を作ったり、風邪や病気にならないような魔法の道具を作って上げたら凄い感謝されたんだ。
誰かに感謝されるって嬉しいな。
お母様にも褒められたし、お父様にもプレゼントしてあげたら喜んでた。
他にも稽古をつけてくれる騎士団長のおじさんとか宰相さんっていうアーシェお姉ちゃんのお父さんとかにもあげたら喜んでくれたんだ。
勿論アーシェお姉ちゃんにも特別製を作ってプレゼントしたよ。
驚いたけど抱きつく位吃驚してくれたんだ。
エヘヘ、将来は魔法道具の発明王になろうかな。
でももう一人のお母様や兄上からは要らないって突き返されたんだよね。
うーん、どうしてだろうなあ。
風邪を罹ることも無くなるから便利なのに。
お母様は苦笑してたけどよくわからないなあ。
いつもの如く勉強をさっさと終わらせてアーシェお姉ちゃんを待つ為にお庭を散歩してたら見たことの無い女の人がやってきた。
うーん、このお庭って王宮に勤めている人でも決まった人以外には入れないんだけどなあ。
誰だろう。
兄上の新しいご学友さん?
真っすぐ僕の方にやって来るんだけど、大丈夫かな。
「止まれ!」
あ、やっぱりお世話係のお姉さんの一人に止められた。
知らない人だもの仕方がないよね。
アーシェお姉ちゃんみたいに礼法を守ってないし。
「何よ、私はレオンハルト様に招かれたのよ」
「関係御座いません」
「失礼ね、そこにいるのは第二王子のウィリアムちゃんでしょ、ちょっと挨拶しようと思っただけじゃない」
「第一王子殿下のお招きになった客人と言えど殿下のお名前を了承もなく口にするだけでなく不敬な呼び方をするなど、去りなさい」
「なんか凄い偉そう! あの子まだ子供じゃないの。
寂しそうにしてるからちょっと声を掛けようと近づいただけよ。
まあいいわ、ショタルートなんて攻略する気もなかったし顔だけ確認したかっただけだし。
母親を亡くしてマザコンを拗らした子供を相手にするショタコンじゃないのよね私」
「何を意味不明な事を、これ以上の無礼を働くならば幾ら第一王子殿下のお客人と言えど」
「あー、ハイハイ分かりましたぁ、失礼しましたぁ、さようなら」
凄い人をお招きしてますね兄上。
不敬とか以前に何を言っているのか理解出来ないだけに対応がし難いです。
思わずお世話係のお姉さんの後ろに入り込んでしまいました。
ちょっと気持ち悪い見た目だし。
髪がピンクゴールドで普通にしてればいいんだろうけど、中身が悪すぎだと思うな僕。
「殿下、大丈夫ですか」
「うん、大丈夫だよ。
それより皆も大丈夫?」
「はい?」
「ううん、何もなかったらいいんだ。
でもちょっとあの人調べておいて欲しいな」
「ハッ、では早速お世話係から適した者に調べさせておきましょう」
報告が入って分かったのは例の常識外れの留学生さんだったそうです。
お名前がメリンダ・フラウ。
お隣の国の中央学院から成績優秀者として交換留学生と認められて来られたそうです。
うーん、あの方が成績優秀者とはお隣の国は大丈夫でしょうか。
他国の事ながらちょっと心配してしまいます。
それともあの意味不明な会話が最先端の学術用語だったりするのかもしれません。
これで単なる変人なだけなら問題も無かったのですが、しかし、確かに成績は悪くないどころか礼法や馬術、ダンス以外の成績はアーシェお姉ちゃんに迫る程だそうです。
石楠花のようだと称えられているそうですが、髪の色だけじゃないでしょうか。
それともあの嫌な感じのする甘い匂いが石楠花なのかな?
他国の方ですが貴族ではない方とはあれが普通なのですかと思ったらお世話係のお姉さん達が全力で否定してました。
兄上も何を思って王宮に招いたのでしょうね。
それから何故か頻繁に王宮にやって来るようになったのですけど、兄上はもう少しアーシェお姉ちゃんの相手をするべきだと思うの、プンプンだよ。
何でアーシェお姉ちゃんが王宮に来る回数が減ってメリンダさんが来るんだろう。
ちょっと僕は怒ってるんだよ。
そういえばアーシェお姉ちゃんがお世話係だったけど、大丈夫かな。
「アーシェお姉ちゃん!」
「もう、先触れが訪れて驚いたわ。
ルブラン公爵家へようこそ、ウィル」
心配になったからやってきました。
兄上が今日もメリンダさんを呼んだとお世話係のお姉さんが教えてくれたので僕がお姉ちゃんの家に遊びに来たのです。
アーシェお姉ちゃんは生真面目だから今でも留学生の面倒を見ているらしいです。
でも兄上や学友さん達が庇うから注意しても聞いてないのだとか。
注意する立場だからこそ兄上が注意しないのも見ていて辛いそうです。
「アーシェお姉ちゃん、留学生の面倒を見るのを取り合えず辞めてもいいんじゃないかな」
「難しですわね。
留学生、メリンダさんの事は学院から頼まれた事ですの」
「うーん、でも注意しても兄上が庇うのだからもういいと思うんだ。
弟の僕のお願いだもの、お父様にも伝えておくから問題はないと思うよ」
「わかりました、ウィルに心配を掛けるなんて駄目ですわね。
ありがとうウィル」
「エヘヘ」
こうしてアーシェお姉ちゃんにはお世話する責任は無くなって、他にも色々と情報が集まったんだけど、何だか手遅れだったみたい。
というのもね、今日の夜会で問題が起きたの。
兄上が何故かエスコートして王家主催の夜会に連れてきたのはメリンダさんだったんだ。
もう、何しているのさ兄上。
婚約者を連れてこないで夜会に訪れるなんて常識外れなことをするなんて信じられないってお世話係のお姉さん達が騒いでるよ。
アーシェお姉ちゃんはお父さんである宰相さんがエスコートしてきたけど宰相さんの顔が真っ赤だよ。
宰相さんの奥さん、つまりアーシェお姉ちゃんのお母さんは兄上の学友さんがエスコートしてた。
アーシェお姉ちゃんが陰険従弟って言ってた人だ。
綺麗な人だけど、凄い形相になっちゃってる。
お父様もお母様も苦い顔になってるし。
セリーヌお母様なんて顔が引き攣ってるよ。
何だろう、笑顔なのは兄上とメリンダさんに学友さんだけだ。
なのに平気な顔をしてお父様達に挨拶に来るとかどうなってるの?
「父上、そして皆も聞いて欲しい。
私はここにアレクシア・マリア・ルブランとの婚約を破棄します。
理由は特待留学生メリンダ・フラウへの行いが不当であり、この優秀なメリンダこそが私のパートナーとして相応しいからです」
「お初にお目に掛かります両陛下、メリンダ・フラウと申します」
夜会の会場から音が消えちゃった。
兄上も兄上だけど、なんで普通に話しかけているのメリンダさん。
しかも立ったままで。
そういえば礼法の成績は最低だって報告があったよ。
「ふむ……これはどういう事かセリーヌ?」
「い、いえ私も初耳で御座います」
沈黙を破ったお父様は流石だと思うけど、ちょっと待って欲しいな。
これって詰まりアーシェお姉ちゃんを悪者にして兄上はこの変な匂いを撒き散らしている女の人を選んで奥さんにするって言ってるの?
アーシェお姉ちゃんを選ばないってことは僕のお姉ちゃんにならない事になるじゃない。
駄目だよ、そんなのは許せない。
「突然の申し出だなラインハルトよ。
このような場で宣言するのだ、確たる話なのであろうな」
「勿論ですよ、父上。
態度が気に入らないと世話役の任を笠に着て執拗に言葉にて周囲に知らしめるように注意したことは学院生徒ならば皆が知っていることです。
しかも世話役ならば留学生に対して配慮し友好な関係を生徒たちと取り持つのが役目なのにも関わらず、茶会その他交流の場から締め出す始末。
私たちが生徒会に招くことにも再三反対をするという嫉妬を見せるなど私の婚約者として相応しくない態度をとりました。
その後も世話役を降りる事で意趣返しを図り、それで満足をせず教材やノートを隠すなどの嫌がらせを指示し、言うに堪えない噂を流して辱めました。
そして最後には彼女を襲撃させたのですよ」
「そう――」
「兄上?」
お父様が何か言われそうだったが、もう僕は我慢が限界だよ!
馬鹿じゃないの、聞いてたら聞くに堪えない事ばっかり。
「ウィリアムか、私は今父上と大事な話をしているのだ。
大人の会話に子供が口を出すものではない」
「いえ、黙って聞いていられないような内容だからこそ僕が口を挟むんです」
「なに?」
「いいですか兄上、別に兄上がアレクシア公爵令嬢を妻に迎えたくないと言うだけなら僕が妻に迎えるだけだからいいのですが、事実無根の罪を作り上げて公の場であの方を貶めるというのなら話は別です。
王族に対しての作法の一つも満足に出来ない嫁を取りたいのならお好きにどうぞ。
正し、先ほどの発言は全て撤回し謝罪してからにしてもらいますよ」
「我が弟と言えど何を根拠に」
「何を根拠にと言いたいのは僕の方ですよ兄上。
さっきも言ったでしょう、作法の一つも満足に出来ないその女性が余りにも酷いからこそ数度に渡って注意され、態度を改善しないから皆の前でも叱責されたのを恥をかかされたなど笑止ですよ。
そんな礼儀作法もまともに出来ない人間を茶会に招く?
常識ある貴族の社交の場でそんな者が現れたら品性を疑われますよ。
婚約者のいる身分の王族に対して生徒会まで押しかけたら婚約者が注意するのは当然の事。
それを嫉妬だなどといい注意すらしなかった兄上こそが恥じ入るべきでしょう」
「貴様!」
「酷いですわ、私そんな風に思われているだなんて」
「大丈夫だよメリンダ、私がついている」
「ありがとうございますラインハルト様」
「ウィリアムよ、だが世話役をアレクシアが辞めたのも事実だし、彼女の教材が無くなり、聞くに堪えない噂が流れ、襲撃が行われたのは事実」
何を勝ち誇ったような顔をしているのでしょうね。
そこの臭い女も見るに堪えない顔です。
「兄上の能天気さには呆れます。
世話役を降りるように勧めたのは僕ですし、お父様に話して学院に納得させていることですよ。
それに教材の全てかどうかは判りませんが自分で処分している所を此方の手のものが目撃しています。
噂は事実が流れているだけですから何も問題はないでしょう。
実際に男を誑かしているのは兄上を見ただけで確定してますし、襲撃を掛けたのも自作自演、誑かした相手に頼んだのも此方で調べて既に拘束しています。
これでもまだ何かありますか?」
わなわなと震えていますが容赦なんてしませんよ。
兄上だけど僕は怒ってるから甘くないです。
「どういうことだ、メリンダ」
「なによこのバグキャラ、私が主人公なの。
なのに正論ばかりの悪役令嬢だし、ショタコン用の攻略キャラの癖に訳の分からない事をいうし、なんなのよ。
そうよ大体なんで王妃が生きてるの、おかしい筈よ、失意のマザコンな筈なのに」
「お母様が生きているのが不思議とはどういうことです?」
「なによ、王妃は毒殺されている筈よ、側室が毒殺させる筈だもの」
「聞き捨てならんな、衛兵!
即刻この者を捕らえよ。
例の侍女の体調不良の事件についての重要参考人でもある」
お父様が流石にこの発言は見逃せなかったみたい。
セリーヌお母様が僕のお母様を殺そうとした?
「セリーヌ何か申し開きはあるか」
「……わたくしは悪くありません、そうわたくしは。
こんな優秀な子を産むからいけないのよ。
そうよ、この子さえいなければ私のラインハルトが王位にぃ!」
突如護身用の短剣を取り出して僕に向かって走って来るセリーヌお母様。
「危ないですわ! きゃあああ」
「ギャッ」
「アーシェお姉ちゃん!」
僕をセリーヌお母様から庇おうとしてアーシェお姉ちゃんが飛び込んできたのは焦った。
良かったよ、お守りに魔法付与したアクセサリーを着けてくれてなかったら危なかった。
セリーヌお母様は撃退用の電撃魔法で気を失っただけだね。
「血迷ったかセリーヌ、馬鹿な事をっ……」
「セリーヌ……ウィル、アレクシアも無事で良かったわ」
「母上……」
お父様も兄上も唖然としている。
お母様は僕とアーシェお姉ちゃんを抱きしめてくれている。
吃驚したから震えているけど僕は大丈夫だよ?
騒然となった夜会は中止となり後日様々な処罰が言い渡される事になったよ。
メリンダ・フラウは不思議な魔力体質でフェロモンっていう匂いで男性を虜にすることが判明して、それを利用した王族に対する不敬罪と虚偽申告の罪で極刑のところを側室による毒殺未遂事件についての証言によって減刑されて国外追放、本国での修道院への収監処分となったって。
セリーヌお母様は殺人未遂の教唆として辺境の修道院に送られ、兄上も惑わされたといえ問題のある行動をとった事で廃嫡されることになってセリーヌお母様の実家に預かりという事になった。
実家も爵位を降格になっているんだけど、お父様からは将来の行いで僕から爵位を与えて欲しいって言ってた。
それで僕の現状なんだけどね。
えへへ、あの時ちょっと怒った事が貴族に怖がられたみたい。
逆鱗に触れないようにって言われているんだって。
もう、別に僕なんて怖くないのに。
「フフフ、だって仕方ないですわ。
私を妻に迎えるって言ったときのウィルは恰好が良かったですもの。
それに魔法の才能も知恵もあるって噂になるには十分でしたわ」
僕を抱っこするように座って東屋でのんびりしているのだけどもアーシェお姉ちゃんは僕の婚約者になったんだ。
献身の乙女って言われてるんだけど、凄い悶えてたから禁句になってる。
それにしても、何故婚約する前よりも子ども扱いになってるのだろう。
僕はもう一〇歳になってるし成長したのに!
「そう言えばあの時ショタコンだとか言われたんだけどあれってなんなんだろうね」
「そ、そんな事もありましたかしら。
ほら、あの方よくわからない事を言われる方でしたから気にしてはいけませんわ」
「むぅ、知ってるようなのに教えてくれないんだもの」
「世の中にはまだ知らない方がいいこともありますのよ、オーホッホッホッホ」
アーシェお姉ちゃん、っていうのは駄目だね、アーシェは胡麻化したけど知ってるんだ。
お世話係りのお姉さん達の情報だから間違いはないよ。
僕を好きでいてくれるアーシェの事だってね。
「僕もアーシェの事大好き!」
あ、思ってた事が口に出ちゃった。
「ウフフ、私もですわウィル」
ブラコンシスコンに続いてショタコン……如何でしたでしょうか。
ええ、例え悪役令嬢設定がショタコンによって崩れていても乙女ゲームならまあよくある話ですよね。
お楽しみいただけたなら幸いです。
追記、タイトル、あらすじ、後書きをちょっと変更しました。