事故って恋
最近、現代物に嵌っております。
彼と出会ったのは高校だった。
一色隼君。
見た目は普通よりちょい上。
人当たりの良い雰囲気を持ち、人の頼みを断らない彼。
率先して他人のために動く彼は私には不思議だった。
クラスで決めることがある場合、大概彼がやっていた。
皆がやりたがらない面倒なことを彼はやる。
なぜ、そんなことをするんだろう?
変な人。
要領が悪い人。
バカな人。
自分でもちょっと擦れていると思う私は、そんな風に彼を見ていた。
でも、何故か彼が気になった。
私はついつい目で彼を追う事が多くなっていた。
彼の姿を探しては、心の奥で喜びを感じていた。
そうしていつしか、私は彼に惹かれていることに気づいた。
でも、遅かった。
そんな彼には仲の良い女友達がいた。
蒼井あかりさん。
同級生の美少女。
学業成績もよく、真面目な彼女。
クラス活動や委員会活動を積極的に行う彼女。
私の「一体この人は何故そんなに頑張るんだろう」リストに載っている彼女。
色々中途半端な私とは比べようもない。
お似合いの二人。
付き合っているという話は聞かないが、仲良く話す二人は両想いに思えた。
そんなある日、私、「三守みか」は交通事故に合った。
自転車で道路を走っていると、一色君が目についた。
彼も私に気が付き手を振ってくれる。
特に親しくもない私に手を振ってくれた。
その事に興奮し、私は彼に目がくぎづけだった。
そして衝撃が私を襲った。
比喩ではなく、本物衝撃が後ろから。
響くブレーキ音と何かがぶつかる音。
私は空中に投げ出された。
その後は良く覚えていないが、気付くと道路に転がっていた。
痛みは無かったが、ただ意識が薄らいでいた。
一色君がすぐに私に駆けより、心配そうな顔で電話している。
どこにかけてるんだろう?救急車かな?そんな事を思っていた。
次の瞬間、私は救急車に運ばれていた。
どうやら意識を失っていたようだ。
数秒でシーンが切り替わる。
初めて乗る救急車にドキドキしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして始まった入院生活。
全治1カ月。
足と腕の骨折と内臓を少し。
やや大げさだが、とくに後遺症も残らないとのこと。
お金持ちではないので、もちろん個室ではない。
交通事故の慰謝料でお金がたくさん入ったらしいけど、もちろん私には回ってこなかった。お母さんが有効活用するらしい。
同じ病室には、私の他には3人。
皆女の子。
私と同い年の女の子が2人。中学二年生の女の子が1人の計3人。
林間学校みたいでワクワクした。
気の強そうな短髪の娘が茜ちゃん。まさに運動部という感じ。
バレー部に入っているらしい。
長髪の眼鏡をかけた女の子が緑ちゃん。大人しそうな女の子。文学少女風味。
いつも本を読んでいる。
私は、その中間。ここでも私は中間だった。
髪の長さも肩までだし、運動部、文化部ともいえない私。
一応吹奏楽部に入って、ピーピー吹いているけど、そんなに真面目なわけでもない。
二人を見て思った。
私は平凡だと。
中学二年生の女の子は彩ちゃん。ちょっと子供っぽい。
頬がぷくっとしてる。
チークも塗ってないのに頬が赤い。
高校二年の私が何をいってるんだと思われるかもしれないけど、やっぱ中学生は子供だ。
三人は私が来る前から一緒だからか、仲よさげだった。
大丈夫かな?仲良くできるかな?と若干不安だったけど、そんな心配はなかった。
すんなり馴染めた。
茜ちゃんは面白い。
ベッドに寝そべりながら、よく、クッション性のボールを天井に向かって投げている。
私はそれをぼけっ-と見ている。
目線が上下する。
茜ちゃんは私を見る。
「これやる」
「うん」
そうして私は茜ちゃんのパートナーになった。
ベッド間でボールを投げあう。
ちょっと白熱しすぎて、骨折した腕のギブスがずれた。
まぁ、いっか。
緑ちゃんは、ひたすら読書している。
特に好きなジャンルはないとのことだった。
人が読書している姿は不思議。
吸い込まれるように本を見ている。
魂が抜けているようにも見える。
本棚(緑ちゃんが家から持ってきた?)にある本を私は借りる。
彩ちゃんは子供っぽい。
同い年の他の娘よりも子供っぽい私が言うのもあれだが子供っぽい。
雰囲気というかオーラが。
やっぱり中学生。
私もあんな感じだったのかな~としみじみ思う。
彩ちゃんがいるためか、私はちょっと大人ぶった行動をする。
やはり自分より小さい子供がいると勝手にそうしちゃう。
そんなこんなの入院生活。
皆が学校で勉強している間、私は病院で寝ながら漫画を読む。
お母さんに頼んで家から持ってきてもらった。
ちょっといい気分だった。
皆が真面目に頑張っている中サボるのは心地よい。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そんなある日。
クラスメイトがお見舞いに来てくれた。
なんと!、その中に一色君もいた。
親友というほどの友達がいない私。
ひょっとして誰も来ないのでは?と実は不安だった。
その中でも訪問は嬉しかった。
茜ちゃんにバレー部の友達がお見舞いに来てくれるのが少し羨ましかった。
が、私は嬉しいという感情よりも、焦りが強かった。
私はジャージ姿で、髪もちょいぼさで、化粧も薄かった。
どうせくるとしても家族だろうと油断してた。
私は自分の見た目を気にし、恥ずかしさからずっと髪を触っていた。
手がつるつるになるぐらい。
又、どぎつい少女漫画を近くに置いていたので、それが彼の目につかないように自然にタオルで隠した。いつかばれるんじゃないかと思ってひやひやしていた。お母さんに頼んで持ってきてもらうんじゃなかった。
一色君は始終笑顔だったし、怪我の事を心配してくれた。
どうやら、事故に対して負い目を感じているようだった。
一色君に目がいった私が悪いのであって、彼は全く悪くない。
そんな感じの事を私は言ったけど、彼は始終その事を気にしているようだった。
面会後、私は一色君が持ってきてくれたリンゴを何回も磨いた。
布でピカピカにした。
磨けば磨くほど、何故か嬉しくなった。
部屋の皆は、そんな私を遠い目で見ていた。
私はそのリンゴをベッドわきの机の上に、トロフィーのように飾った。
が、そんなかいもなく次の日。
私が寝ている内にお母さんがそのリンゴを切って、私に差し出した。
あろうことか病室の皆に配りだし、一瞬で消費された。
私は怒りながらもりんごを食べた。
イライラしたけど美味しかった。
お母さんは不思議な顔をしていた。
しかし、怠惰な日々は続かなかった。
一色君がくるかもと思い、身なりには常に気をつけていた。
片手を骨折している身としては、結構つらかった。
そんなある日、再び一色君が訪れてきた。
今回は一人だった。
私はちょっと舞い上がった。
病室には他の子もいるので、二人きりというわけではないけど緊張した。
が、その感情はすぐに変わった。
一色君は宿題を持ってきた。しかも、結構な量だった。
退院後の事も考えて、入院中も学校と同じペースで勉強した方がいいとのことだった。
何かの冗談かと思ったけど、マジだった。
真面目な彼らしく、勉強の大事さを説いて帰って行った。
その後、「誰、彼氏?」と茜ちゃんと彩ちゃんに散々いじられた。
緑ちゃんもチラチラとこちらを見ていた。
私は、始終笑顔で「ただの友達だよ」と言った。
頬が緩みっぱなしだった。
まさかこのセリフを言う日が来るとは思わなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
病室で勉強。
想像以上に一人で勉強するのは退屈だった。
これなら学校で授業を受けた方がましだ。
退屈で、ついつい漫画を読んでしまう。
でも、やらないといけない。
同室の皆のなんだかんだいって勉強をしている。
それに、中二の彩ちゃんが勉強し、高二の私が漫画を読んでいるのはさすがに恥ずかしい。
勉強の大事さを説いて以来、一色君は毎日来た。真面目な彼らしい。
凄く嬉しかった。
だいたい来る時間は分かったので、時間になると私はそわそわしだす。
窓際のベッドの彩ちゃんが病院の入り口を見つめ、
「あ、来た!来た!三守先輩、彼が来ましたよ」
と騒ぎ出す。
私は「もう」「なんでもないから」といいながら、そわそわしながら手鏡を見る。
何故か茜ちゃんと緑ちゃんも身なりを整えだす。
彩ちゃんはそのまま。
私は深呼吸をし、ベッドで小説を読んでいる風をよそおう。
ちょっと文学少女っぽい雰囲気を醸し出す。
同室の緑ちゃんを参考にした。
あんまりバカって思われたくない。
病室に一色君が現れる。
「こんにちは」と一色君の声が響く。
「あ、今日も来たんだ」という体で私は応対し、一色君がベッドわきの椅子に座る。
まるで付き合ってるみたい。
まさか一色君、私の事好きなんじゃないかと勘違いしそうになる。
責任感溢れる彼は、毎日ノートのコピーと持ってきてくれ、ノートを見せながら丁寧に説明してくれる。そして、新しい宿題を届け、終わった宿題を持って行ってくれる。
普段適当に勉強していた私。そのためか、何故か学校に通っているより病院での方が勉強しているような気がする。私はあまり勉強が得意じゃないけど、初めてやる気が出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そんなある日。
一色君は蒼井さんと一緒に来た。
私が一色君と両想いじゃないかと疑っている彼女。
蒼井さんとはクラスが違う事もあり、ほとんど話したことがない。
久しぶりに見た彼女は、やはり綺麗だった。
それに一色君と仲が良さそうだった。
「ごめん、今日は蒼井さんも一緒にきたいっていったから。大丈夫かな?」
「迷惑じゃないといいんだけど」
一色君は苦笑いをしながら、蒼井さんは申し訳なさそうにいう。
「迷惑だから帰って」と言いたかったが、さすがにそれをいえる私じゃない。
それに、蒼井さんは本当に申し訳なさそうだったし。
私と一色君と二人きりの個人授業は、三人になった。
蒼井さんのノートは綺麗だった。
綺麗な見た目に、綺麗な文字。
私の丸っこい文字が子供っぽく見えた。
私は毎日宿題用ノートを一色君に渡している。
この差は一色君も認識していると思うと恥ずかしくなる。
そう思うと、私の中の満ちたりた気持ちがしぼんでいった。
蒼井さんの説明は分かりやすかった。
一色君の説明な熱意を感じるけど、所々?なとこが実はあった。
そこを蒼井さんは的確に説明してくれる。
「ほら、そこ飛ばしたら分からないよ」
「うるさいな~。これで分かるよ。ねぇ、三守さん」
と親しげに、私の前で話す二人。
正に以心伝心といった感じ。
そんな姿を見ていると、私の幻想を消えていく。
一色君が私の事すきかも?(ワクワク)と思っていた自分がバカに見えてきた。
そうして私の心を折る面会は終わった。
「やばいんじゃない。あの娘、絶対一色君狙っているよ」
「そうだよ。危ないよ。あの人綺麗だし。真面目そうだし」
一色君と蒼井さんが帰ると、茜ちゃんと彩ちゃんが私に寄ってくる。
私が思っていることを口にしてくれる。
緑ちゃんもチラチラと私を見ている。その目には同情が見て取れる。
それが心に波を立てる。
「別に私は一色君の事好きじゃないし、別・・・」
「何言ってるの?今さら。毎日あんなに嬉しそうにしてるのに」
「そうですよ。先輩、リンゴ磨くぐらい好きなんですから」
「でも、一色君と蒼井さんは多分両思いだよ。私は無理だよ」
「そんなことないよ」
「見た目は蒼井さんの方がいいけど、大丈夫ですよ」
「そうかな」
私は乗せられていた。
二人に煽られてノリにのっていた。
もしかしたら、ワンちゃんあるかもとこれまで思っていた。
それにしても彩ちゃん、素直に物をいいすぎだと思う。
確かに蒼井さんの方が綺麗だけど、嘘でも褒めてほしかった。
そういう所が子供なんだよね。
だめだ、なんか奴あたりみたいになってる。
「蒼井さん何できたのかな?」
私は疑問に思っていたことを口にした。
茜ちゃんは「あんた馬鹿ね」みたいな表情で私を見る。
「そんなの牽制に決まってるでしょ。好きな人を取られそうになって慌ててきたんだよ」
「そうだよ。あの人綺麗だし」
「でも、私何も言われなかったよ・・・・」
「それはそうでしょ。好きな人の前で変なこというわけないじゃん」
「そうだよ、そうだよ、三守先輩」
そうなのかな~。
蒼井さんは良い人に見えたけど。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ある日。
蒼井さんが一人で来た。
病室が凍った。
皆、私を見て苦い顔をする。
茜ちゃんも彩ちゃんも珍しく大人しく本を読んでいるフリをしている。
彩ちゃん、本逆さまになってるし、茜ちゃんは英語辞典を読んでいる。
緑ちゃんはいつも通り普通に小説を読んでいる。
蒼井さんは私のベッドの傍の椅子に座る。
「今日は一色君はこれないから、私が一人で来たの」
「そうなんだ・・」
私は緊張しながらも蒼井さんを見た。
やっぱり今日も綺麗だった。
いつもの通り、個人授業が始まった。
蒼井さんの説明は分かりやすく、さくさく進んだ。
しかし、僅かな緊張があった。
私も蒼井さんも一色君の事には触れない。
蒼井さんがふいに私に聞く。
「三守さんは、一色君のことどう思っているんですか?」
病室が静まり返る。
これまでも静かだったが、その度合いが一層深い。
茜ちゃんも彩ちゃんも、こっちをガン見している。
「・・・クラスメイトかな」
「そう・・・・」
蒼井さんは頭を僅かに傾げる。
「一色君は良い人だから、誰にでも良い人するの。だから、時々勘違いする子もでてくるの」
彼女は私を見る。
「そうなんだ」
「そうなの」
彼女は私をじっと見ている。
茜ちゃんと彩ちゃんは、口を開けて驚いている。
「人の正義感や責任感に漬け込むのは良くないと思わない?」
「・・・うん」
「分かってくれて嬉しいわ」
そうして蒼井さんは帰って行った。
すぐに茜ちゃんと彩ちゃんが私の傍に寄ってきた。
「なに「うんうん」言ってるのよ。あれ宣戦布告だよ」
「そうですよ先輩。私、あんなセリフ初めて聞きました」
「でも、蒼井さんの言ってること間違ってないし」
「そんなの分かんないよ」
「そうですよ。あんなのただの屁理屈ですよ」
「かな~」
「あの娘。絶対性格悪いよ。普通あんなこと言えないよ」
「私、聞いてるだけでも怖かったです。高校って怖いですね」
私は、ベッドで寝ながら考えた。
確かに、私は怪我をしているから一色君にかまってもらっている。
事故に対して一色君が罪悪感を抱いているからこそ、毎日来てくれるんだと思う。
そこには善意以外の何もない。
でも、私はこの時間が嬉しかった。
彼の行動の源が善意でも、恋心でなくても、私はその彼の行動が嬉しかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
入院生活最後の日。
一色君の個人授業。
つつがなく進んでいく。
私はあの日から心にひっかかる事があった。
一色君は私の事をどう思っているのだろう?
私に少しは気があるのだろうか?
それとも、何とも思っていないのか。
でも、彼に直接聞くことはできない。
聞いてしまうと、これまでの関係が崩れ、次の日から来てくれなくなる気がした。
この穏やかで楽しい時間が消えてしまうように思えた。
「そういえば、明日で退院だね?」
「うん、早いね」
「学校に戻っても、暫らくは生活に慣れるのが大変だと思うけど、頑張ってね。僕も力になるから」
「うん」
私は意を決した。
これで最後だから。
最後だから。
答えがどうでもショックは小さい。
だから聞く。
「ねぇ、一色君、私の事どう思ってるの?」
「え、その・・・・」
戸惑いの表情を浮かべる彼。
珍しく動揺している。
そして告げる。
「クラスメイトだよ」
こうして私の入院生活は終わった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
学校でも一色君は私に話しかけてくれた。
私がクラスに馴染むのをフォローしてくれる。
そのかいあってか、すんなり入院前と同じような生活に戻った。
違いは一つ、一色君とよく話すようになったこと。
一色君と話していると、蒼井さんがきた。
「何話してるの?」
「べつになんでもないよ」
「そうなんだ」
蒼井さんは私を見る。
「一色君、そういえば田中先生が呼んでたよ」
「そう、それならこれで」
去って行く一色君。
私も去ろうとしたが、蒼井さんに道を塞がれる。
動きを読まれた。
「三守さん、私、あなたが理解していると思ってた」
「なんのこと?」
「いつまでかわいそうアピールするの?」
「私、そんなことしてないよ・・・」
「そう。私、今、一色君とぎくしゃくしてるの。それはあなたのせい。あなたが一色君にかまってもらいたさそうな顔をしているから。一色君は別にあなたの事好きじゃないの。分かるでしょ。だからもう彼と話さないで」
私は何も言えなかった。
そんな私を数秒見て、蒼井さんは去って行った。
私は感じていた。
一色君が私に優しくしてくれるのは、私が彼の正義感や義務感を感じる対象であって、そこに恋愛感情などないことを。
でも、それでも私は嬉しかった。
例え恋愛感情でなくとも、義務感でも正義感でも、彼が私に目を向けてくれるのが嬉しかった。例えまがい物の愛情でも、それは私を幸せにしてくれる。
いつかその感情が本物に変わるかもしれない。
私は一色君が好きだし、私のこの感情は本物だと信じてる。
例え、一方通行の思いでも、私の想いが彼の心を変えるかもしれない。
今までは、一色君から一方的に話しかけられていた。
でも明日からは私の方から話そうと思った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
よくよく観察してみると、一色君の笑い方には二種類あることを発見した。
ポイントは、口元にできるしわ。
愛想笑いの時はそのしわがちょっと深くなる。
この発見に私は心躍った。
彼と話すとき、ついつい口元を見てしまう。
今日は私と話した時、一色君の愛想笑いは7割、真の笑いが3割。
ちょっと残念だったけど、頑張ろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一色君と蒼井さんがぎくしゃくしているのは本当だった。
見た感じ中よさそうだけど、私が発見した笑顔判別では、一色君は始終愛想笑いだった。
それに蒼井さんも気づいているのか、彼女の表情も浮かない。
あんなに仲よさそうに見えて、不思議だった。
私は変わらず一色君と話していた。
蒼井さんは時折凄い目で見つめてくるけど、私は無視することにした。
蒼井さんも一色君が好きなんだろうけど、私も好きだから。
でも、私は容姿でも負けてるし、勉強でも勝てない。
彼女に勝っている点が思いつかなかった。
「もう一囘事故に合えば」としょうもない考えが浮かんでしまう。
でも、一度浮かんだ考えは消えない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
私は街に繰り出した。
上手く事故に合えば入院できる。
失敗しても、乙女ゲームの世界に転生して逆ハー空間を築けるかもしれない。
最近ネット小説に嵌っているためか、その考えを押しすすめる。
これが世にいうゲーム脳かもしれない。
狂気に突き動かされた私はフラフラと歩いていた。
大通りを見る。
車が通り過ぎる。僅かに空気が揺れる。
私はその流れを見る。
一歩、一歩踏み出せば、新しい世界に行ける。
私は一歩を踏み出そうとしたその瞬間。
「何やってんだよ!]
私の手が引っ張られる。
一色君が私の手を握っている。
「べ、べつに」
私は彼の顔を見ないようにする。
「一色君こそ・・・なんでここにいるの?」
「それは、三上さんが心配だったからに決まってるだろ。最近ずっと俺の顔ばかり見ていたから」
気ずいてたんだ・・・
「ねぇ、一色君。事故に負い目を感じて私を気にかけてくれるんでしょ。でも、もういいよ。大変だしそんなこと。よくないよ」
「何言ってるんだよ。そんなわけないだろ」
彼は私が発見した愛想笑いの笑顔で私を見る。
彼にも同情されてる。
私は悲しかった。
「私、知ってるの。一色君、愛想笑いするとき口元のしわが大きくなるの。だから
本当のこと言っていいよ」
彼は頭をかしげる。
「俺の口元がちょっとへんなのは、今虫歯があるからで、関係ないよ」
「え?」
「それに、事故は事故って分かってる」
「なら、何故毎日お見舞いに来てくれたの?」
彼は沈黙し地面を見る。
道路を通る車の音が響く。
そしていくつかの車が通り過ぎた後、彼は顔を上げる。
「そんなの決まってるだろ。三上さんの事が好きだから」
「・・・・・・・・」
私はただ驚いて一色君を見ていた。
彼はすぐに顔を地面に向ける。
「恥ずかしいから、もう言わないからな。それと変な事はもうやめてほしい。あぶなっかしくて心配するから」
「うん・・・・」
こうして私は一色君と付き合う事になった。
やっぱりハッピーエンド