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赤き瞳のサムライ  作者: タピオカ
session2 狼の魔笛
5/6

町の喧騒

▼──羊毛亭──

 小さな町リアンにある小さな宿屋。猪亭から少し離れた場所にある。

 朝と夜だけ食堂をやっている。朝にだけ出されるフレントーストは絶品。



 興奮のあまり眠れなかった、なんてのは久しぶりの経験だった。

 昨日見た光景が、まぶたの裏から離れて消えない。

 矮小なる人間が一人、暴力の権化たる竜を真っ向から叩き斬る。

 噴き上がる鮮血の中で見せた、機械じみた美しい所作。

 斬撃からの納刀、残心と呼ばれるその一連の行動に、僕は見惚れてしまったのだ。

 サムライ。

 果てしなく強く、どこまでも美しい戦士。

 あんなものを見て興奮するなと言うのが酷だ。

 僕も、あんな風に強かったなら……


 ザワリ。


 胸が嫌な痛みを発する。

 ……もう関係ない。どうせ都のギルドにでも行ってるんだ、あんな奴等もう会うこともないだろう。

 

 興奮が冷や水を食らったみたいに醒めてしまった。

 仕方ない、まだ朝は早いがベッドから出ることにしよう。


 「おや、もうお目覚めかい?」

 部屋から出て一階に降りると、店の店主がカウンターの上を拭いていた。

 ここは宿屋の羊毛亭。

 このリアンの町にある宿屋の一つで、一番安く泊まれるのがここだ。

 「食堂はまだ開いてないよ」

 「目が醒めちゃったんで」

 そう言って宿を出ると、僕は猪亭へ向かう。


▼──猪亭──



 町の中央にある酒場、猪亭に着いたアーサー。

 酒場に入ると、閑古鳥が鳴いているいつもとは違い何やらざわざわと人の声がする。

 何かあったのだろう。サムライの3人が来るまでアーサーは情報集めをする事にした。


 「何かあったんですか?」

 アーサーは近くにいた、何度か話したこともある歳若い冒険者に尋ねる。

 「ああ、アーサーか。調査隊だかが帰って来たらしい。ただ魔物に手酷くやられたらしくてな。今魔物討伐の冒険者を募ってるところだ」

 「調査隊?」

 「このリアンの町から北の方にユニスの森ってあるだろう?その奥に、新しい遺跡が見つかったんだ。んで、都の研究者達が調査隊を組んでそこを調べようって話だったんだが……なんでも物凄い数の魔物に襲われたらしい」

 「物凄い数……」

 「討伐に参加可能な冒険者は中級者以上らしい……全く、最近じゃこんな田舎の町の近くでも魔物が沸きやがる。ダンジョンにでも籠もってりゃ良いのによ」

 そう言うと歳若い冒険者は自分のパーティー達の所に歩いて行った。


 (参加可能な冒険者は中級以上……受注じゃないって事はあの3人は無理か)

 実力はともかく肩書きとしては上級者の仲間入りを果たしてしまっているアーサー以外は今回の討伐隊には参加できそうにない。

 (それにしてもユニスの森に遺跡か……何にもない小さな森だと思ってた)

 中級以上の冒険者が闊歩する事が珍しい片田舎だ。この町に住む人達もそう思ってたいた事だろう。


 (竜は出るし魔物の群は出るし……何だか嫌な予感がするな)

 アーサーは酒場のカウンター席に腰を下ろした。

 「注文は?」

 頭の髪を剃った酒場の亭主がコップを拭きながら聞いてくる。

 言外に「冷やかしは許さない」と言われているようでアーサーは水を注文した。

 あいよ、と返して亭主は空いていたコップに冷やした水を注ぎアーサーの前のカウンターに置いた。

 「お前上級だったよな?」

 亭主が尋ねて来た。アーサーは自分の実力が中級の、それも下位の方だと自覚していたので曖昧に頷いた。

 「討伐隊には行かないのか?」

 ギルドに併設されたこの酒場の亭主は一応ギルド職員として扱われる。

 (店の経営をしながらギルド職員として給金が発生するのだからボロい商売だ、と荒くれ者の冒険者が陰で蔑んでいるのをアーサーは何度か聞いたことがあった)

 どうやらギルド職員としては困難なクエストを早く解決して貰いたいらしい。

 しかし己の実力を理解し、尚且つ神楽道達と行動したいと思っているアーサーは首を横に振った。


 「上級って言ってもレベルは低いんだ。それに背中を任せられる仲間が居ないんじゃ行きたくもないよ」

 「そうか」

 亭主は興味がなくなったようにコップ拭きに戻った。


 チビチビと水を飲み、水がぬるくなる頃に彼女達は来た。


 「おぉ、早いなぁアーサー君、おはようさん」

 独特な癖のある話し方をする少女、神楽道綾香と桐生飛鳥、千堂椎名の3人だ。

 「おはよう、えっと……神楽道」

 「あははは、綾香でええよ」

 アーサーは心の中でもそう呼ぶよう努める事にした。

 「おはようございます、アーサーさん」

 「おはよう、飛鳥君に椎名さんも」

 「……」

 綾香にならい飛鳥と椎名の事も名前で呼ぶと、二人はコク、と頷いた。

 「そんじゃまあ本日の活動……と、行きたいとこなんやけどー」

 「?」

 「一体何事?祭かなんかでもやるん?」

 綾香達も酒場の異様な雰囲気が気になったようだ。

 アーサーは彼女らが来るまでに集めた情報を簡単に伝えた。


 「調査隊がやられたって、それ昨日の竜やないの?」

 「群にやられたって言うから違うと思うな」

 「はー、そりゃまた……しかし中級しかダメって言うのがなー」

 どうやら討伐隊に参加したかったようだ。

 「まあその魔物の討伐は他の冒険者に任せれば良いじゃないか。俺達には綾香がむしり取って来てくれたクエストが無駄に沢山あるんだしな」

 「な、なんや飛鳥、ごっつ嫌みに聞こえるで?」

 「嫌みで言ったんだよ」

 「ま、まぁまぁ。けど確かにクエストが沢山あるからそれを解決するのが先決だと思うな。期間が決められてるクエストってあるかい?」

 「期間? えっと……ああ、これとか?」

 綾香が見せて来たのは、魔物から入手できるアイテムを持ってきて欲しいと言う、いわゆる『採集』と言われる種類のクエストだった。

 そのクエストには入手するアイテムの他にクエストの期日が記載されていた。

 「そう、そう言う奴。灰色狼の犬歯五つの採集、期限は……明後日か。灰色狼はリアンの町から近い初級のダンジョンで出るな」

「ああ、わたしらが会った所やね?それじゃあちゃちゃっと終わらせよか」

 こうしてアーサー達の行き先は決まった。

 

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