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赤き瞳のサムライ  作者: タピオカ
session1 『赤き瞳の冒険者』
3/6

サムライの業

▼──酒場『猪亭』──

 小さな町リアンにあるギルドと併設された小さな酒場。

 冒険者はこの酒場にあるクエストボードからクエストを選択し受注する事ができる。

 ちなみに、この酒場にいつもいる情報屋『ダウック』は常に酔っ払っているが、高い酒を用意すれば情報を卸してくれるらしい



 「それじゃあ改めて自己紹介といこか」

 茶髪の少女、もとい、神楽道綾香が切り出した。

 「改めて、と言うか自己紹介をしたのはお前だけだぞ、綾香」

 黒髪の少年、飛鳥がツッコム

 「……」

 長い黒髪を後ろで纏めた女、椎名は黙したままだ。

 「もう、飛鳥は一々細かいなぁ。ほな、わたしから。戦巫女の神楽道綾香かぐらみちあやかや。得物は鉄扇、武術を少々、大好きなのはおカネや」

 親指と人差し指を繋げて輪っかを作り神楽道綾香はニンマリと笑う。

 なるほど、『巨人の籠手』が売れてあんなにテンションが高かったのはそれが理由か。


 「それじゃあ次は俺が。サムライの桐生飛鳥きりゅうあすか。サムライだけど基本的に戦闘は参加しない方針で行く。その変わり荷物持ちとか料理とか、雑用は俺がやります。よろしくお願いします」

 そう言って軽く頭を下げる飛鳥少年。

 随分と礼儀正しい。


 「ほな次は椎名やで」

 「は。……桐生葉隠れ一刀流門弟、千堂椎名せんどうしいな……」

 名前を言った後に何も続かない。これで終わりか?


 「……ぬいぐるみが、強いて言えば、……好む物ではある」

 あ、キャラぶっ壊れた。寡黙な美人剣士のイメージがぶっ壊れた。

 強いてとか言いながら少し俯いたし凄く好きなんだね、わかります。


 「えっと……名前はアーサー。職業は一応剣士だけど、レンジャーと魔法使いの職業にも手を出した事があって、レンジャーの『第六感』と『鑑定』『罠外し』、それと魔法使いの魔法付与がレベル1だけど使えます。好きな事は……特に、ないです」

 おーぱちぱちー。神楽道綾香が一人手を鳴らす。

 「さて、これで自己紹介終了やけど何かある?」

 「俺は特に」

 「私も」

 神楽道綾香が尋ねると、飛鳥と椎名の二人は首を横に振る。

 「あ、少し良いかな?」

 僕が切り出すと、三人は僕を見る。

 「君達の……さらむい?ってなんだい?」


 それからたっぷり五秒、三人の動きはぴたりと止まった。



 「ええええええええぇぇっ!?なんでや!なんでサムライの事知らんのお兄さん!?」

 「え、え? な、なにかおかしかった?」

 そんなに驚かれるようなことだったんだろうか?

 「おかしいもクソも、知らんのこの街でお兄さんくらいやで!?」

 この片田舎の小さな町に来たばかりの彼女達がそこまで有名なのだろうか。

 「まぁ知らないもんは仕方ないさ。えっと、サムライって言うのは、俺らの国での剣士の事を言うんです」

 わからずに首を傾げていると、苦笑気味に飛鳥少年が言う。

 「へぇ。あ、そうなると三人ともやっぱり同じ国の出なのかい?名前もここらじゃ聞かない感じだったし」

 「そのとーり!わたしらはここからずぅっと東にある『大和国』って所から来たんよ」

 やまとのくに、か……うーん、聞いた事ないな。

 「あとは……せや、サムライの魂ちゅーもんを見せたるよ」

 「たましい?」

 大仰な、と言いそうになった僕は慌てて口に力を入れた。

 騒がしいくらいだった神楽道綾香が、真剣な面持ちになったからだ。何を見せるかはわからない、だが、今から見せるものが本当に、彼女らの魂に相当するのだと、肌で感じた。

 「……今からこれを抜くんやけど、抜いたらあんま喋らんようにしてな?」

 彼女が取り出したのは、黒光りする鞘に収められた一振りの湾刀。

 僕はそれに見覚えがあった。

 そう、椎名だ。初めて椎名を見た時に持っていた、湾刀。

 「う、うん」

 口を片手で押さえて頷く。

 すると彼女はスルリ、とその湾刀を鞘から抜いた。


 それを一言で言い表すならば、『氷の刃』と僕は言うだろう。

 薄氷のように厚みの薄い刃ながら、その湾刀の刃はどこまでも鋭く、そして一種の妖しい色香を放っていた。

 武器を見て、うつくしいと感じたのは生涯で初めてだった。


 「これがわたしらの魂、『カタナ』や」

 鞘のカタナを納める神楽道。

 カタナ、それは実に魂と呼ぶに値するものだった。



 「お兄さん、いんや、アーサー君にサムライがどんなものかわかってもらった所で、わたしらパーティーの今後の活動を考えよ思います」

 神楽道が懐から何か紙の束を取り出し、円卓の上にバン、と叩き付けた。

 「この紙の束、全部クエストペーパーじゃないか。いつの間にこんな……」

 「せっかく新しい仲間も加わったんや、膳は急げって言うやろ?」

 神楽道が出したのは、クエストボードに張られているはずの受注書だ。暗黙のルールではあるがクエストボードから取った以上、そのクエストは受けなくてはならない。

 「安心しとき、わたしらで十分成功できるクエストしか取ってへんで」

 「いや、もうクエストボードに一枚もないじゃないか。全部引っぺがしてきたの?」

 「成功できるもんやからな」

 僕が尋ねると神楽道は猫のような笑みを見せる。

 「飛竜に青毛の狼、あと椎名が倒したタイタンって奴の討伐依頼。……まぁ確かに出来るな」

 唯一のツッコミ枠である飛鳥少年まで頷くしまつ。

 「いやいや、確かにタイタンを倒せたのは凄いけど、飛竜も青毛の狼もダンジョンでなら中級のボスクラスの相手だよ? 飛竜なんて、中級の冒険者六人掛かりでまる二日戦い続けてようやく倒せるような相手だ」

 かつて経験した激戦を思い出し神楽道を説得しようとするが、彼女は逆に、僕の話を聞いてケタケタと笑い始めた。

 「アハハハっ、しゃあないなぁ、なんせアーサー君はわたしらの事を知らんから」

 「っ、……自信があるのかい?」

 「もちのろん、や」

 その力強い言葉、そして瞳に、それが嘘でないことを実感させられる。彼女達は嘘を言ってない。

 彼女達サムライは、化け物みたいな相手に、勝てると言ったのだ。

 僕の背筋を、何かがゾクゾクと走る。

「お目当ての竜は山の麓の森に潜んでるらしいんやけど……なぁアーサー君、この森ってわかる?」

 「……うん、わかるよ」

 僕はこれから彼女達が見せてくれるであろう光景を幻視して、興奮していた。


▼──ユニスの森──

 リアンの町から馬車で数刻ほどで着く小さな森。

 リアンの住人はよくここに木の実や動物を狩りに来る。

 現在は飛竜が目撃された事で厳戒態勢が敷かれている。



 リアンの森から馬車で数刻走り、僕たちはユニスの森にたどり着いた。


 「悪いがここまでだ。俺は来た道を少し戻ったところで待ってる」

 「あいよー、ありがとうなあんちゃん」

 「ああ、あんたらも頑張れよ」

 馬車の御者はそう言うと全速力で来た道を戻って行った。

 「しかしアーサー君には助けられてばかりやな。まさか中級と上級の冒険者しか受注しちゃあかんことになっとったとは」

 今回の飛竜騒ぎ、冒険者のギルドでも中々に難物だったらしい。

 都から中級か上級の冒険者を呼ぼうとしていた所に僕らが現れたわけだが、クエストを受注したのが神楽道だったせいで受注を一度拒否される事態となったのだ。

 理由はまだギルドに登録してから数日しか経ってない新米冒険者で、級をつける以前の問題だったからだ。

 肩書きだけは上級の僕が代わりに受注して事なきを得た。


 「いや、それくらいどうって事ないよ。……でも、本当にできるんだよね?」

 この森に来る途中、馬車の中でも何度も聞いた言葉を、もう一度投げかける。

 「何度聞いても同じやで?」

 「僕は臆病だからね……安心を得るためには何度でもしないと気が済まないんだ」

 「なるほど、確かに冒険者には慎重さも必要やな。……ま、見ててくれればええよ。今回はわたしと……いんや、椎名だけで大丈夫やろ」

 「……は」

 神楽道がそう言うと、僕らの後ろを歩いていた椎名が小さく頷いた。

 ……どうしても僕はまだ彼女達の戦闘力について信頼しきれていない。

 当然だ、タイタンを倒したとは言え、僕はその倒した後の場面しか見ていない。

 彼女達がどれだけ強いと言い張ろうが、ソレを信用しきれない。

 だが、理性が信用できないと叫んでいても、心のなか……僕の中の本能が彼女達に絶対の信頼を寄せていた。

 刮目していろ、目を離すなと囁くのだ。

 「森言うても結構小さいしすぐ見つかるやろ……椎名、いつでもやれるようしとき?」

 「……」

 椎名は小さくうなずき、鞘を手で掴み腰を低くした。


 そのまま数分立つと、森の中が騒がしくなり始めた。


 「……来た、来た来たっ、来たでぇ椎名ぁっ!!」

 神楽道が声を張り上げるのと同時、森の木々をなぎ倒しながらその化け物は姿を表した。

 鋭い牙がびっしりと並ぶアギト、大きく太い、丸太のような脚、広げればその大きさは何倍にも膨れ上がったように見える巨大な翼、鞭を思わせる太い尻尾。

 亜種ではあるが竜の末席に座るその存在は、絶対的な暴力の権化。

 その名をワイバーン。

 かつて見た個体よりやや小さいが、それでも僕一人では為すすべもなく喰い殺されるであろう絶対強者。

 「ギシャアアアアァァァッ!!」

 蛇のような長い頭のワイバーンが、口を開き咆哮する。

 耳をつんざくようなその絶叫に、僕は思わず耳を塞いだ。

 不味いっ、この咆哮、威圧の効果が乗ってる!

 直に食らえば硬直と恐慌を同時に食らってしまう!

 僕はすんでのところで耳を塞げたが椎名や神楽道達は……っ!


 案の定、椎名はその場から一歩も動いていない。

 鞘を手に持ったまま動いていない!


 助けに行こうとした僕だったが、

 「あ、飛鳥君!?」

 「大丈夫だよ、アーサーさん」

 横から伸びてきた飛鳥君の手に肩を掴まれた。

 「で、でも……っ」

 「大丈夫だって。……ほら、全然動じて(・・・)いない」

 「!」

 彼の言うとおり、椎名は全く動じていなかった。

 僕から見えるのは背中だけだが、背中越しでも、彼女が全く動じていないとよくわかる。

 

 山のようにどっしりと構えているのだ。


 ドシッドシッドシッ!!


 ワイバーンが駆け出す。飛んで襲いかかるより走って食らいついた方が早いと判断したのだろう。


 だが、その判断はこと彼女達、『サムライ』にとっては悪手の中の悪手だった。


 「見てな。……うちの、桐生宗家に伝わる流派、桐生葉隠れ一刀流を受け継ぐ、サムライの一撃を」


 飛鳥君がそう言うのと、椎名が動いたのは同時だった。


 何時抜いたのか、椎名の手にはカタナが握られていた。

 美しい紋様が浮かぶその刃の切っ先は天を差していた。


──キンッ。


 鉄を叩いた金属音が鳴り響き、

 「桐生葉隠れ一刀流、……『矢切之太刀やぎりのたち』」


 次の瞬間に、竜が真っ二つに裂けた。


 「どや? ……これが、わたしらサムライの業や」

 腕を組んでいた神楽道が嬉しそうに笑う。

 

 「……ぁ」

 切り裂かれた竜から零れる鮮血の中、背筋を伸ばし、カタナを納める椎名の姿に、僕の心臓は喧しい程に高鳴っていた。


椎名の攻撃二回くらいで死ぬよう設定してたけどクリティカルで一撃死したワイバーン君UC


これでsession1は終了となります。次回から本格的にダンジョン攻略になるかも

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