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赤き瞳のサムライ  作者: タピオカ
session1 『赤き瞳の冒険者』
2/6

大和の国のサムライ

建国より一千年、大陸最大の国家『ガルダ帝国』はその強力な軍事力を持って周囲の国々を併合して行った。

 しかし、様々な国を侵略し支配して行く中で、ガルダ帝国はとある国とだけは対等の条件で同盟関係を結んでいた。


 精兵たる帝国の軍隊数万を、たった三十人の戦士で撃退したと言われる剣客集団、『侍』を庇護する極東の島国。

 その国の名を、『大和』と言う。



 「ん?」

 黒髪の女が振り返る。

 その美しい女の瞳は、髪色と同じ夜の闇を閉じ込めたような色をしていた。

 本来なら中級ダンジョンを闊歩しているような大型のモンスター、タイタンの死体の上に立ったその女は、僕を見て数秒何かを考えた後、


 「姫、私達以外の冒険者を見つけました」

 そう、明後日の方向に向かって話し始めた。

 するとその女の声に反応するように、


 「ほんま!? どこどこ?」

 甲高い、少女の声が聞こえて来た。

 ひょこっ、と現れたのは僕より少し年下っぽい少女だ。

 この少女も黒髪ではあるのだが、やや茶色っぽい。

 この少女は茶髪と呼ぼう。

 「あ、ほんまや!ようやったで椎名(しいな)

 黒髪の女はシイナと言うのか……


 「いちおー確認なんやけど……お兄さん冒険者ってので合ってる?」

 茶髪の少女は僕の目の前に立つと首を傾げて尋ねて来た。

 近くで見ると思ったより結構小柄だ。でもどこか立ち振る舞いが大人っぽくて年上にも見えてしまう。

 変な少女だ。

 「あー、……一応そうだけど」

 「ほんま!? いやぁわたしらラッキーやで椎名!」

 ……ほんま、ってのはどういう意味だ?

 違う大陸の言葉だろうか。


 「なぁなぁお兄さん、実はわたしら困ってんねん。良かったら力になってくれへん?」

 どうやら訛の類みたいだ。

 所々聞き取れるが訛が酷くて良く聞き難い。

 困ってるのは理解できたが……

 「僕で力になれるなら……」

 「ほんまに?ほんに助かるわぁ。もうお兄さんと合わんかったらわたしらここで帰るはめになってわ」

 茶髪の少女はそう言うと後ろを向いた。

 「あすかー!はよこっちゃこーい!」

 まだ誰か連れがいるのか?

 そう思った時、いくつもの宝箱が重なった何かが現れた。

 「こんのっ、綾香!なんで俺がこんなの運ばないとなんないんだよ!」

 いや、それは少年だった。

 僕より少し年下であろう黒髪の少年が、五つもの宝箱を抱えて歩いて来たのだ。

 「あらま!飛鳥ってば女の子にそんな重たい物持たせるつもり!?男の子なんだからそれくらいしなさいっ!」

 「うちの母さんの真似すんなっつうの!」

 ドシン!

 宝箱の塔が地面に音を立てて置かれた。

 「ふぅー……で?この人は?」

 飛鳥と呼ばれた黒髪の少年は茶髪の少女に尋ねる。

 「冒険者の人や。これで重たい宝箱をいちいち持たんですむって寸法や」

 「そりゃ良かった。お願いします」

 少年はそう言うと宝箱から一歩下がった。

 「……僕が宝箱開ければ良いの?」

 どうやらそうして欲しそうだ。

 「いやぁ、この迷宮に入る前、宝箱開けると毒針でたり化石になってまうって聞いて参ってたんよ」

 「ああ、なるほど」

 迷宮内に現れる宝箱、その中には様々なアイテムが入っている。

 何故現れるか未だに解明されていないが、宝箱の中にはトラップが仕掛けられてるものがあり、彼女の言う毒針や化石になってしまう煙など様々なトラップが存在する。

 しかしそんなトラップがあるのは中級以上で、初級の迷宮にトラップ付きの宝箱なんて存在しない。

 どうせ新人を脅すのが好きな冒険者が初めて来た彼女らに吹き込んだのだろう。

 相変わらず悪趣味だ。

 そんな事を考えながら宝箱の鍵を開けると少女の、「おぉ~」と感心したような声がした。

 「流石は冒険者さん。お茶の子さいさいやな」

 「これくらいわね」

 少女は宝箱の中を覗き込み、次に手を伸ばして中の物を取り出した。


 「なんやこれ」

 取り出したのは小さなナイフ。

 初心者用のナイフだ。

 「ナイフだよ。ただの」

 「な、なんやて!?こんだけ運ぶの苦労してこんなしょうもないもんしか出ぇへんの!?」

 「運んだのは俺だけどな」

 ピシャリと飛鳥君のツッコミが光る。

 「まあ初級だから」

 「ぐぬぬっ……お兄さん次や次!」

 彼女に急かされるまま二つ目の宝箱の鍵を開ける。

 カチャリと音がなると少女は風のような素早さで蓋を開け中身を取り出した。

 「なんやこれ」

 「初級ポーションだね。しかも粗製」

 「つ、次!」

 そうして宝箱を五つ全部開けて行き、中身がしょうもないものだとわかった茶髪の少女は膝をつき地面を叩き始めた。

 「なんでやっ、なんで、なんでええもんが少しも出ぇへんのや! 少しくらい、少しくらいええやないのっ」

 悔しそうに地面を叩く茶髪の少女を半ば無視して、飛鳥少年はそこらに散らばったアイテムを拾う。

 「ま、俺は最初からわかってたけどな」

 ガクリ、少女は更に落ち込んでしまった。


 

 「姫、先ほどの妖怪から宝箱が出ました」

 黒髪の美しい女、椎名だ。その手にはさっきまでの木の宝箱とは違い、装飾華美な宝箱が。

 「どうせ、どうせ大したもんやないんや……わたしのロマンは木っ端微塵に消し飛んだんや」

 憧れから冒険者になった人だろうか。

 そう言う人には良くあるんだ、こう言う思ってたのと違う差異が。

 でも、

 「それ、さっきのタイタンから出たんだよね?」

 「ええ」

 「なら、レアなのが出るかもね」

 僕がそう言うと落ち込んでいた茶髪の少女がカバッ、と顔を上げる。

 「ほ、ほんま!?ほんまにほんま!?」

 「う、うん。タイタンは本来中級の迷宮に出るんだ。この初級に出るタイタンはこっちから攻撃しない限り狙って来ないタイプでね。そのせいかレアは出現し難いんだけど、普通のアイテムでも初級で出るアイテムとは天と地の差があるよ」

 そう言うと茶髪の少女は目を輝かせてタイタンが出した宝箱を見た。

 「お兄さん、はよっ!はよ開けてぇな!!」

 「う、うん……『鑑定』」

 椎名さんから宝箱を受け取り鑑定のスキルを発動する。

 この鑑定のスキルは文字通り、見た物を鑑定する能力だ。

 物の真偽からその見た物がどんな状態なのか、果ては他人のステータスすら覗いてしまうスキル。

 僕の鑑定はそこまで育ってないのでステータスなんて見れないけど。

 「……毒針か」

 「き、気をつけてなお兄さんっ」

 僕から少し距離を取った茶髪の少女は、飛鳥君の後ろに回り込んだ。盾にするつもりだろう。

 「『罠外し』……ふぅ、成功だ」

 特に苦もなく罠を外せた。

 カチャリと小気味よい音がなると、僕は蓋を開けた。

 まだ毒針を警戒する茶髪の少女の変わりに取り出すからだ。

 箱の中に手を入れ、手が振れた物の感触に、僕は思わず心を震わせた。

 「ど、どないしたんお兄さん?」

 心配そうに尋ねてくる少女に、箱の中身を取り出して見せる。


 「なんやそれ」

 少女はそれを見て、期待はずれの物を見たような態度を取った。

 それを見て僕は思わずほくそ笑む。


 「『巨人族の籠手』、中級の迷宮に出るタイタン、上級に出るサイクロプスからしか出ない装備アイテム。その稀少さと防具としての優秀さから毎回オークションは三千万以上が当たり前、僕も拝んだのはこれで三回目の代物……」

 「ごくっ……つ、つまり?」

 わなわなと震える茶髪の両手に籠手を乗せると僕は柄にもなくサムズアップして笑みを見せる。

 


 「大当たり」


 「いぃぃやったでえぇぇっっ!!」

 

 ◇


 「いやぁ、ほんま良かったわぁ、お兄さんのコネのおかげで即金で二千五百万でうっぱらえるなんて」

 場所は変わり冒険者の酒場。

 その一角の円卓を囲んで僕らは祝い酒を飲んでいた。


 『巨人族の籠手』が即金にしては高めに売れたからだ。

 『巨人族の籠手』を欲しがっていたパーティーを知っていた僕が仲介に立って行った。

 「コネ、って言うほど上等なもんじゃないよ。偶然だったし」

 「なんやお兄さん謙遜する事ないんやで?胸張りや胸を」

 バンバンと背中をたたかれる。

 なんと言うか、随分と馴れ馴れしいと言うか……まあ気分が悪くないから良いんだけど。

 「いい加減落ち着けって綾香」

 「えぇ~?なんや、飛鳥は嬉しくないん? レア装備見つけてそれうっぱらって大金手に入れてパ~って遊ぶ。これこそ冒険者って奴やん」

 「……まぁ、そうだけど」

 少し照れたようにする飛鳥少年。まあ年相応な反応だ。

 ちょっと手伝っただけの僕だが、こう言うイベントは正直嬉しい。

 

 そう思っていると、茶髪の少女が何か思い立ったように立ち上がった。


 「なぁなぁお兄さん、わたしらとパーティー組まへん?」




 ズキリ。


 胸に、刃を突き立てられたようや痛みが走った。

 

 『「 すまないと思ってる。……だけどアーサー、俺達の中で、一番戦力にならないのは、お前、なんだ……っ」』


 もう顔も合わせたくないと思ってた男の、声が聞こえた気がした。



 「綾香お前、また勝手にっ!」

 「ええやんパーティーの一人や二人くらい。それにこのお兄さんの鍵開け術は実際必須やで?脳筋思考なわたしらには必要な技能やん」

 「そうだけど……」

 「なぁなぁ、お兄さんどう? わたしら結構仲良くできそうと違う?」

 ……パーティー、か。

 正直組みたいと思う。でも、また切り捨てられたら……なんて考えが頭を埋め尽くしている。

 「……き、君はどう思う?」

 彼女の問いから逃げるように、静かに水を飲んでいた黒髪の女、シイナに尋ねる。


 ここで拒否してくれれば、逃げの口実ができる。

 また浮かんでくるバカな考えに死にたくなる。


 しかし、彼女の答えは良い意味で、


 「私は賛成です」

 期待を裏切ってくれた。


 「なら決まりや!お兄さんよろしゅうな!」

 差し出された手を掴み返すと、少女は嬉しそうに頷いた。


 「わたしは綾香。神楽道綾香(かぐらみちあやか)や。じょぶは戦巫女や」


 こうして、僕は侍のパーティーの一員となった。


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