赤き瞳の冒険者
TRPGのリプレイ風の物語です
また更新が不定期、ぶっちゃけなろうの肥しになると思います
思えば昔から、僕は嫌な事に物申す事をしない子供だった。
それは例えば瞳の色で笑われ、心では怒っても愛想笑いで受け流したり、高い滝上から滝壺に飛び込めと言われた時も怖くて怖くて死にそうでも愛想笑いで飛び込んだり……いままで僕はどんなに嫌な事でも何も言わず愛想笑いで済まして来た。
でないと、他人から嫌われてしまうからだ。
小さな村で生まれた僕は早くに両親を無くし祖母に育てられた。
その祖母も僕が幼い時に死んでしまった。
親の居ない僕は村の厄介者扱いされ、でも追い出されずになんとか過ごして来た。
十四歳になり成人の扱いを受けるようになり、僕は逃げるようにその村から去った。
逃げてたどり着いたのは村とは比べものにならないくらい大きな街だった。
見るもの全てが新しく新鮮な気持ちになったが、村よりも街の方が生きるのに辛い事がわかってからは、冒険者になりその日その日をギリギリ生きていた。
街で生き数年もすると、僕にも仲間が出来た。
僕と同じ年頃の男女の冒険者だ。
彼らとパーティーを組んでからは街での生活も楽しくなり、冒険者での仕事がある種の生きがいのようにも感じていた。
更に三人、新しい仲間を仲間に迎えまさに順風満帆と言った所だった。
「アーサー、……俺達のパーティーから抜けてくれないか?」
申し訳なさそうに、仲間だと……いや、親友だと思っていた男にそう切り出された。
「お前も聞いただろ? ギルドはパーティーでの行動人数を最大五人に規定した。……もう、俺達六人でパーティーを組むことは許されないんだ」
確かに聞いていた。何かの人数把握のためだとかギルド側から通達があったのは覚えている。
だから、だから?
「 すまないと思ってる。……だけどアーサー、俺達の中で、一番戦力にならないのは、お前、なんだ……っ」
ギリッ、と目の前の男は歯を食いしばる。さもどうしようもない事だと言わんばかりに。
さも、苦渋の決断だと、内外にアピールするように。
そう、この男の言うことは間違っていない。
僕は最初剣士だった。拙いながらも盾と剣を振り回し魔物を倒し雀の涙程の賃金をギルドから渡され生きていた。
だが、僕をパーティーに誘ったこの男は剣士で、相方の女は治癒術師だった。
剣士二人ではバランスが悪いと斥候や罠の解除に長けたレンジャーになる事を提案された。
確かに、と納得した僕は剣を置き短剣と弓を持ちレンジャーとなった。
次の仲間はレンジャーの男だった。
剣士でいるよりレンジャーの方が長かった僕だったが、それでもレンジャー一筋のその男には適わず、魔法使いとなる事を勧められた。
確かに、と納得した僕は短剣と弓を置き、慣れない杖を持った。
次に仲間になったの魔法使いの女の子だった。中途半端な僕とは違い、圧倒的な知識と力を持っていた彼女には適わず、前に剣士だった事もあり僕は魔法剣士となった。
次に仲間になったのは魔法剣士だった。
前衛と後衛、どちらも華麗にこなす彼女に比べて精々後衛の壁役にしかなれなかったが、僕は精一杯頑張った。
頑張った、つもりだった。
そして今僕は、僕を最初に誘った男に、クビを宣言された。
戦力不足だからと、中途半端な僕を切り捨てた。
中途半端になった理由はこの男にあるのに、男は僕を切り捨てた。
「本当に、本当にすまない。……だけど、俺達はもっと先に行きたいんだ」
「……わかった、わかったよ、アムダ。僕はこのパーティーを抜ける」
こんな時も、僕は愚痴の一つも零せず、頷いてしまった。
「っ! ……アーサー……っ」
僕とアムダとの話を見守っていた仲間達が目に涙を溜めて僕を見る。
やめろ、そんな目で、嘘の目で見るな。
「ごめんなさいっ、アーサー……」
やめろ、そんな悲劇面するな。お前達は僕を切り捨てたんだ。悲劇面するなっ。
「確かに今の僕じゃ足手纏いになっちゃうしね。……皆の邪魔にはなりたくない」
挙げ句の果てに、少しでも良い奴だったと思われたくて理解ある男を演じる僕。
そんな僕自身にも嫌気が刺す。
「……皆、頑張って」
そう言って、最後の最後まで僕は何も言えずに彼らと別れた。
◇
「自分の事ながら、本当に嫌になる」
ため息をつきながら洞窟の中を進む。
多くの冒険者達が歩いた事のある地下洞窟の地面は踏みならされており疲労する事無く進める。
六人でなら上級者らが使うダンジョンを攻略できたが、一人となった今では下級のダンジョンしか使えない。
中級のダンジョンでも攻略できないわけでもないが、下級ダンジョンに比べて危険が多すぎるのだ。
むろん下級ダンジョンでも命の危機が無いわけじゃないが、中級に比べれば天と地の差だ。
故に僕はできる限り死なないように下級ダンジョンを選んだ。
「っ、……また最初みたいになるのか」
一人で日銭を稼ぐために迷宮に潜る。
仲間と共に迷宮を踏破する楽しみを知ってしまってからでは、その行為は酷く苦痛を有した。
(何やってんだか、僕は)
村を飛び出してから何年経った。
今年で18、もう四年も経った。
四年も経ったの言うのに、僕は結局変われずにいた。
「ん?」
ふと、僕はそこで一度立ち止まった。迷宮内に、何か違和感を感じたからだ。
その違和感は小さいものの、決して見逃してはならないと、僕が持つレンジャーのスキル『勘』が告げている。
一人になった事で剣士のジョブに戻った僕だったが、魔法使いの魔法や、レンジャーの勘スキルなど一部のスキルや技は他のジョブでも使用可能なのだ。
アムダの言うままにジョブを変えて来た僕たが、その事に関しては感謝しているのだ。
抜刀し、足音を立てないように僕は迷宮を進む。
すると、耳が何かの音を拾った。
これは……話声だ。
気になって更に迷宮を進むと、天井の高い広い部屋に行き着いた。
そしてそこには──
「ふぅ……大陸の妖怪にしては中々歯ごたえがあった」
巨大な人の姿をした魔物、『タイタン』の骸の上で細い湾刀を持った黒髪の、美しい女がそこにはいた。
それが僕と、彼ら『サムライ』との初めての出会いだった。