やっぱり、あなたがラスボスでしたか
第五章 やっぱり、あなたがラスボスでしたか
いよいよ、勇者さん達との戦いも大詰めです。
結果は見えていましたが。
そもそも、剣や杖で戦おうとするのが、どうかしてます。
こっちは火炎放射器や、ガトリングガンや、ロケットランチャーや、今、正に、右隣の執事のお兄さんなんて、空から笑顔で手榴弾をばらまいてます。
極上の笑顔ですが、やってることは外道です。
左隣のメイドのお姉さんは、無表情でアサルトライフル乱射してますし。
こっちはこっちで怖いですね。
わたしですか?
目は可哀想・・・って感じを出しながらも、口元はニヤニヤを隠しきれない。
そんな表情で、ロケットランチャーを撃ってます。
わたしだけはまともですね、良かった。
ところで、あの光ってるの、なんでしょう。
「あれが勇者達の移動用装置です。あれを使用して、魔界に来ているのです」
久々にサタンさんお得意のスキルが発動しました。
「なるほど、あれが・・・それなら、あれを壊せば・・・!」
サタンさんのスキルにも、慣れましたね。
慣れって怖い。
空を飛んでる間に、勇者さん達の魔法が二、三、こっちを目掛けて飛んできましたが、華麗に回避。
「これで終わりです!」
―辺り一面を白い閃光が包む。
移動用装置は、光照らす吹雪となって、消え去った。
勝利。
遂に勝利した。
絶望の表情を浮かべる、勇者さん達。
戦いは終わった。
終わったのです。
「あーあ、良かったんですか?壊しちゃって」
不意にメイドのお姉さんが、そんなことを口にしました。
嫌な予感しかしません。
やらかした。
知ってる、知ってます。
これはやっちゃたパターンです。
でも、聞きます。
知らなくて良いことも、あるとは思うのですが!
「良かったって。え?何がですか?」
「だって、あれを壊しちゃったら、魔王様も元の世界に戻れませんよ?」
今年の夏の目標はクロールで十メートル泳げる様になることです(策士策に溺れる的な意味で)
綺麗に落ちたので、もうここでエンディングで良いですね、うん。
鬱です・・・
勝利したのに、なんですか、この憂鬱な気分は。
「勇者さん全員倒したら、元の世界に戻れるって話でしたよね」
「申し訳御座いません、方便です」
やっぱり、あなたがラスボスでしたか。
強制転移魔法で元の世界に戻れるって、教えてくれなかったら、今頃はナマスですよ。
明らかに、最初から知ってて、利用した訳ですね、魔王を。
やっぱり油断ならない、サタンさん。
ですが、今は一刻も早く、元の世界に戻りたいので、さっさとその、強制転移魔法とやらを使用します。
自分で使えたんですね。
つまり、いつでも帰れたと・・・
何の為に戦ったんでしょうね、ホント・・・
争いは何も生まない、その意味が分かった気がします。
・・・サタンさんから、例の如く、長ったらしい呪文を書いた紙を渡されましたけど、長すぎます。
念仏でも、もうちょっと短いです。
「呪文は省略が可能です」
最後まで、そのスキル使いますか、サタンさん。
「え?省略可能?どんな?」
「紙の一番最後に、添えてあるかと存じます」
大きな羊皮紙の最後の文章を見ると短く、こう、書いてありました。
―おもらし―
喧嘩を売られてるんでしょうか。
「至って真面目です、それが呪文なのです」
もう誰も信じられないのですが、特にサタンさん。
しかし、ここまで来て迷うこともないでしょう。
わたしは、やらずに後悔するより、やって後悔する女です!
嫌な予感しかしませんが!
「おもらし!」
メイドのお姉さんと、執事のお兄さんと、槍を持った骸骨さんにまで、嘲笑しています。
良いでしょう、戦争です。
血の雨を降らせてやります。
生まれてきたことを後悔させてやります。
現代のボナパルトと呼ばれる、わたしの軍略をお見せしましょう。
静寂の中、くすくす笑いが響き渡る。
何の罰ですか。
わたしが何をしましたか。
いや、色々した気はしますが。
今してるのは、後悔です。
十秒前の自分を、呪い殺してやりたいです。
「魔王様、魔法には触媒が必要なのです」
本格的なやつでした。
呪文を口にすれば、即、発動と思い込んでました。
完全に痛い子ですね・・・いや、だから心が読めるスキルを何故、こういった時に使わないんですか。
「申し訳御座いません」
お姉ちゃんへのお土産は、サタンさんの首にしますか。
グロい、グロい。
絶対、喜ばない。
姉妹の縁を切られる自信さえ、あります。
「それで、触媒ってどんな物でしょうか」
「あれです」
そう言って、サタンさんは意外な物を、指差しました。
「携帯・・・?」
確かに、何故か、こっちの世界に一緒に来ていましたが。
ですが、数日の内に充電が切れて、今はウンともスンとも言いません。
「これを持って、呪文を唱えろと?」
頷くサタンさん。
もう騙されるのは、御免です。
あぁ、早く元の世界に帰りたいです。
しかし、口にしたくないのですが、この呪文。
どれだけ他人の古傷抉れば気が済むんですか、この方達は。
「おもらし」
白い閃光。
サタンさんが、メイドのお姉さんが、執事のお兄さんが、骸骨さんが、コウモリさんが、遠ざかっていくような―
「あ、あれ?あんたさっきまで、どこ居た?良いけど、もう出来たよ。和風おろしハンバーグ」
姉です。
しかも、和風おろしハンバーグです。
「は?何?あんた泣いてるの?」
「・・・お姉ちゃん」
「何」
ずっと言いたかった、でも言えなかった、あの言葉が思わず口から溢れてしまいます。
「お姉ちゃん・・・大好き」
Gで始まる、あのわたし達の天敵を見つめる時の目です。
眉間に寄った皺。
釣り上がった目。
怒りを含んだ口元。
「きもっ」
あぁ、帰ってきたんだ・・・わたし。
日常って良いですよね。
いつか姉から人間扱いされたいです。
「本日は、魔王様に謁見を申し込んでいる者が居ります」
謁見?珍しい。
魔界の住人に知り合いは居ないし、誰でしょうか。
それより、今日のお昼は冷製カルボナーラでも食べたいですね。
「暑いですし、結構かと存じます」
サタンさんは相変わらずです。
「まおまおー謁見を希望した人が来たよー」
メイドのお姉さんは、今やタメ口です。
っていうか、そのあだ名やめてください。
って、え?
人?
人って、人間、え。
「お母・・・さん・・・・・?」
続く・・・かも?
五章で一応の完結です。続きが気になりますね。いいえ、なりません。