お夕飯までには帰ります
第一章 お夕飯までには帰ります
「お姉ちゃん、今日のお夕飯なーに?」
「答えなくても分かるでしょ、あんたの好きな、和風おろしハンバーグよ」
答えなくても分かります。
不必要であっても、仲睦まじい姉妹は雑談を交わすのに、何を言っているのでしょうか、この姉は。
「わーい、お姉ちゃんの手作り和風ハンバーグ大好きー」
手作りって響き良いですよね。
何でも美味しそうに聞こえる。
実際はそうでもないけど。
お姉ちゃんが作ったやつは特に。
「見てるだけなら、手伝ってよ」
手伝わされそうになりました。
確かにわたしは、料理が嫌いではありません。
よくお姉ちゃんのお手伝いをします。
まだ一人で料理をしたことはないです。
料理はお姉ちゃんの役割です。
うちはお父さんもお母さんも居ないので、お姉ちゃんがよく家のことをしてくれます。
出来た姉です。
実に便利です。
わたしも後、半年経って、中学生になったら、家事を今以上に分担させられるかと思うと、気が気ではありません。
半年後には、自動で和風おろしハンバーグを作ってくれるロボットが開発されていることを、切に望みます。
お姉ちゃんのお手伝いをしてあげたいのは山々ですが、ハンバーグのタネを触るのだけは御免です。
あのベタベタ、いや、ネチョネチョ?
どっちでもいいのですが、あの感触は耐え難いものがあります。
夏休みの宿題がまだ残ってる点も、見過ごせません。
姉と同じ時間を共有したかったんですが・・・残念です。
「御免ね、お姉ちゃん。夏休みの宿題がまだ一杯あるから、お夕飯までやってくるね」
やばいです。
街角でドッペルゲンガーと遭遇した時の眼差しをして、こちらを見ています。
「監視してるから、宿題、ここに持ってきな」
姉からは、中国製加工食品並には、信用されてます。
あの姉も、あれで一歩家から出れば、異性にチヤホヤ、友人に恵まれ、教師からも信頼されて、ご近所の評判も抜群。
皆、完全に騙されてます。
うちの姉は、妹の誕生日にお金がないからって、妹が欲しがってた携帯電話を手作りしてプレゼントしました。
妹を号泣させる鬼畜外道です。
今でも携帯電話を見る度に、泣きそうになります。
とんだ歩くトラウマ製造機です。
というか、どうやって、あれを自分で作ったのでしょうか。
他にも色々問題ある気がするのですが、気にしてません。
ほら、贈り物は素直に受け取らないと、うん。
あと、怖い。
もう兎に角、怖い。
知らなくていいこともあると思うのです、きっと。
現実から目を背けましょう。
素晴らしき哉、現実逃避!
いつか、姉の寝首を快てやりたいですが、今はじっと耐えています。
臥薪嘗胆です。
さて、宿題を取りに部屋まで来ましたが、困りました。
ホントは終わってるんですよね・・・宿題。
そもそも、わたしみたいな出来る女は、七月中に宿題を終わらせるのです。
出来る女ですからね、わたし。
もう毎日遊び放題です。
いやー楽しいですね、夏休み。
遊びに誘ってくれる友達もいませんが。
わたしだけ早めに宿題を終わらせても、友達は追い込まれてから本気出す。
ってタイプが多かったらしく、今頃宿題を片付けてます。
周りに合わせるべきでした。
わたしとしたことが、一生の不覚です。
友達に宿題を写させる未来が見えます。
恩を売る良い機会ですが。
そういえば友達の一人が「明日、遊ぼう」って言ってましたけど、あれは宿題を写させてって意味でしょうね。
さっき携帯で返事のメールを送ったはずですが。
プレゼントですから文句を言うわけにはいきませんが、やっぱり最新機種が欲しかったですね・・・
せめて、タッチパネルに対応してると良かったのに。
と、携帯の画面に戯れで触ると、急に辺り一面が白い光に包まれて―
「もうご飯出来たけどーいつまで宿題取りにいって・・・あれ?・・・どこ居るの、トイレ?」
第二章 わたしにもお姫様に憧れていた時期がありました へ続く