■キーワード10 『時』
バトン回答、および記録。
■キーワード10 『時』
「時をかけて堕としめ続ける。唇から糸を引く血。脈動は守りきれぬ命を示し、とくんと哀れな音を最後に、血潮を止めたな。失われし吐息。もう朽ち果てて言葉も返さないお前に、そっと何度も口付をし、どうして私を置いて逝くのかと繰り返したのは何時だ? 闇に落ちようとする私に微笑んでくれたのは幻だったか? 暖かく柔らかい体は悲しい程に冷たくなったのだよ。次第にそれさえも失われて腐肉となり、私の鼻孔をくすぐって。そして骨肉や髪まで次第に風が攫い、匂いは消え、泥と砂に帰した。そこまで見送って、我が手には何も残さず、底に辿り着く事のない最も暗い闇に、望みのまま身を沈めた。今も落ち続ける底のない沼。永遠の時に堕とすのは、それは誰でもない私自身だ。そうであったと悟っても、もう振り返る気も、縋る気もない。だから私はここに在り続けるのだよ」
たまに何かを思い出し、同じような事を考える。
こうして生きるようになった理由なのかも知れない。
思い出した途端に泡と消えるそれは呪いにも近く、もう何度繰り返してもそれは大した形を成さず、私には何の意味もない。
私に課せられたのは、依頼主に応え、的確な死を与え、魂を口にする事。
人の死を愉悦に感じる死神であり、吸血鬼であり、悪魔である。
化け物である事も自覚済みだ。
何も迷う事はない、死の虚無から出ようとも思わない。
ここでしか息をする事の出来ない生き物。
もっとも暗き所こそ私には似合う。
それに誇りを持っている。
今日も私を呼ぶ声がする。
さあ、宴を始めよう。
歌ってはいけない心臓の時を止める。
その瞬間の鮮やかで鮮烈な、命の飛沫が私の存在理由。
半端な気持ちでないなら何時でも、私を呼ぶがいい。
計り知れない闇の深淵で、慰みを欲するならば。
心からその招待を待っている。
後二つ、エピローグと付録、合計13部を予定。




