手紙
自室にもどると早速封筒を開封しました。中には三枚の手紙が入っていています。あれ、と思いました。いつもより枚数が多いのです。昨日はそんなに沢山話した訳ではないとにと思いました。でもやっぱり一枚目で感想は終わっていました。
二枚目からは文頭に改めて私の名前が書いてあります。その次の文を読むと私の体は麻痺したように重くなりました。
「今日をもってボクはもう手紙をかけなくなる」
そう書いてありました。私は目だけをゆっくりと動かして友達が残した文字たちを時間をかけて飲み込みました。
ボクに残された時間はもうわずかなのです。手も足もろくに動かなくなってしまい、人の手を借りないわけにはいきません。だからボクは、最後の手紙に、ボクついて知ってもらいたいことを書きます。これはただ一方的に愚痴を溢すだけになるかもしれないし、君の何か役に立つかもしれない。
今まともに機能しているのは目と耳だけです。いや、むしろあまりにも良すぎてボクには厄介なだけですが。
小さい頃、ボクが目を隠していたことを覚えていますか?ボクの目はあまりにもいろんなものが見えすぎてしまうからそうしていました。その範囲は僕の小さい脳では許容を越えてしまい、気が狂ってしまう。だから君の顔や君の連れて行ってくれた場所を見ていたいと思っていても、その願いが叶うことはなかったのです。
また君は「目が見えないから大変だね」とも言っていました。そんなことはないのです。ボクはどんなに小さな音でも聞こえてしまうのです。だから目と同様に、脳が対応しきれなかった。なので耳は耳栓をした上に、さらに目を隠している布で耳を塞いでいました。それでも全然聞こえてしまいました。
音の振動で物がどこにあって、どれぐらいの大きさなのか分かるので、目が見えなくとも私生活には何にも問題はありませんでした。
今ボクは地上に暮らしています。嵐が来ても、雨が降っても、雷が落ちても、全く関係のない所に住んでいます。そしてボクは目隠しをはずしていつも下を見ているのです。真っ白な濃霧で隠れていようがボクには関係ありません。人が建物に入らない限り、ボクは何十億もの人間が見えるのです。
耳栓もはずして生物の声も無生物のざわめかしい音も聞いています。
でも、ボクの体は大きくなって、脳が膨大な情報量に対処しきれるようになっても、ボクの心の許容範囲は越えている。
耳と目がたまたま良かっただけで、みなはボクを人間と呼んでくれない。本当は自分が欲しいもの以外、何も見たくないし何も聞きたくない。でもそれが産まれたときからの義務で、死ぬことを許してくれなかった。
それだってとんだいい迷惑なのに、みなはさらに、全ての責任をボクに擦り付ける。
ボクに運命を決めさせようとしたり、ボクがこう言ったからと融通の聞かない人だっているし、ボクのためと言って争いをしたりする。
別に全てがそうと言っているわけではないけど。ただ思うのは、ボクに頼りすぎないで、自分で自分の決めた道を進んでほしいということ。
ボクは綺麗なものも汚いものも沢山見てきたし聞いてきた。
気にくわないことに、幸福なことよりも辛いことの方がボクの頭に刻まれている。
ボクは擦りきれた布のようにボロボロになってしまったけど、君がいたからボクの気が狂うことはなかった。ずっとボクを信じてくれていた。存在を忘れないでいてくれた。君と出会えて友達になれたこと、塞ぎきったボクの中に幸せを沢山注いでくれてありがとう。
私は手紙を握りしめて外に飛び出しました。そして僕は大空に向かって叫ぶのです。
――これで最後になるけど忘れないでいて。
手紙を書くことはもうできないけど、命を絶やすその日まで、
「ボクはいつだって君のことを見守っているよ」