それが二人のネズミの違い【企画競作スレ】
「あっ、おみやげ届いたー!」
ランカの楽しげな声が玄関先から聞こえた。
ボーイフレンドの一人が、東京に来たついででお土産を送ると約束をしていたものが、今日、届いたらしかった。
東京なら、実は近場で電車を乗り継げば2時間もあれば行けないこともない。
けれど、ネットで知り合う彼女たちのボーイフレンドたちは、日本中至るところが所在地なので、中には滅多と東京へは来れない人も居るのだ。
別段、珍しいわけでもない東京の物品。
けれど、二人は彼らの気持ちが嬉しくて、喜んで受け取っていた。
包みの中から出てきたのは、某有名なネズミのキャラクターグッズ。
ランカのボーイフレンドたちは皆、大抵、センスが良かったので、お洒落なプレゼントが多かった。
自慢したくなる、見せびらかしたくなる、そういうプレゼントばかり。
白いボアの布地で出来た小さなポーチには銀色の細いチェーンが付いていて、ポーチの形はネズミーランドを象徴するアノ形。そして、赤に白の水玉の、お馴染みの柄に染められたリボンがくっ付いていた。
イマドキの流行をガッチリ掴んだ選択。
「かわいいー!」
「いいなー。」
隣からプレゼントを覗き込んで、もう一人、マイナがぽそりと呟いた。
「マイナにも届いてたじゃん、開けてないの?」
見せて見せて、と迫るランカに微妙な笑顔を浮かべて誤魔化しながら、マイナは少し大きめのその紙袋を背中に隠す。郵パックに入った味も素っ気もない物体だが、これでも彼女のボーイフレンドからのプレゼントだ。
同じく東京に来た記念に送るから、とか言っていた。
何も、同じ日の同じ時間帯で来ることないのに……マイナの笑顔は半泣きのように見える。せっかく貰ったプレゼントなのに、ランカの視線一つで地の底にまでその価値を叩き落されるのが嫌なのだ。
ランカの、ビミョーなものを見るような目。その眼が至極当然のような気が、マイナもしてしまうから、堪らなく嫌だ。
マイナの手から横取りして、ランカが郵パックを開いて、中身を広げた。
ネズミ。
某有名アニメの黄色い電気ネズミの、着ぐるみパジャマ……だろうか?
彼女の視線がビミョーなモノに変わる前に、黄色い塊をひったくって、マイナがすっくと立ち上がった。
「着てくる。」
ヤケにならなくてもいいんだよー、と、言うべきかどうかでランカは迷いながらマイナを見送った。
何時まで経っても部屋から出てこないマイナに痺れをきらして、ランカは部屋へと突入する。
そこで見たものは……。
黄色いタオル地を頭まですっぽりとかぶって、お布団に潜り込んですやすやと眠っているマイナの姿。
「……とうっ、」
ジャンピング・エルボー。
ぎゃーっと叫んでマイナが飛び起きた。
「だって、だって、思ってたより、ぬくぬくであったかくて、気持ちよかったんだもんっ、」
ついついランカの期待を忘れてお布団の誘惑に負けてしまったのだ、とマイナは言い訳をした。
マイナのボーイフレンドたちは、みんな揃って感性がズレている。実用一辺倒だったり、変り種すぎて付いていけなかったり、ビミョーにお洒落や流行りとは違っていたり。
見せびらかしたいとは思わないけれど、こっそり、自分一人だけでニマニマしていたくなる物ばかり。
黄色い電気ネズミのパジャマも、マイナの顔をすっぽりと隠してしまって、なんだか出来損ないの着ぐるみショーか、素人仮装大会みたいだ。ぬくぬくのほこほこなのだけど。
「んー。」
腕を組んで足元から頭のてっぺんまで、じろじろと見回していたランカが、この頭のフードをちょちょい、と直した。
だぼん、としたネルとフェルトの二枚素材で出来た黄色い着ぐるみパジャマに包まれた、マイナの頭の端っこにちょこん、と電気ネズミのどんぐりまなこが乗っかった。
「うん。こうすれば可愛いい。」
魔法みたいに、雰囲気が変わって、鏡を見たマイナが一番びっくりした。
「マイナのボーイフレンドたちは、みんな、どこか変わってるけど、壊滅的にセンスない人ってのはまだ見たことないよねー。」
鏡に映る電気ネズミを一緒に覗き込みながら、ランカがにこにこと笑った。
あたしも欲しいなー、と言ったのはたぶんお世辞だろうけれど。
挿絵まで戴きましたー、絵師さんありがとう!
お題スレから続編が出ましたー。
http://ncode.syosetu.com/n5982x/
「頑張れマイナちゃん 続」