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勇者

作者: 風矢

「私の可愛い勇者。起きなさい、今日はお前の16歳の誕生日でしょう?」


 随分と回りくどい言葉で起こされたものだと寝ぼけ頭で思う。


 もうちょっと寝ていたいけれど、

 あんまり粘ると布団ごと剥ぎ取られてしまうかもしれない。


 渋々ながら身を起こす。


 ところで、

 私を起こしたこの人は一体誰だろう。


 何故かそんな疑問がよぎる。


 きっと私は寝ぼけたままなんだ。


 普通に考えればこの人は私のお母さん。


 そうでないとおかしいじゃないか。


 そんなことを考えている間にお母さんは朝食の支度をしに行ったようだった。


「そうか、今日って私の誕生日なんだっけ。」


 自分で呟いてみてやっと自覚してきた。


 確か16歳になったら何かしないといけなかったはずだけど、

 何をするんだったかな。


 私が食卓につき、朝食をもそもそと食べていると


「今日はお城に行って、魔王を倒しに行くんでしょう?

 沢山食べて頑張ってきてね。」


 …え?


 何を言われているのが理解するのに数秒かかってしまう。


 魔王ってそんな。


 特に何の技術も能力もない16歳の小娘に何をしろと?


 そういえば、起こされた時に勇者とか呼ばれたような気がする。


 きっと何かの冗談か何かなんだろう。


 でも、お城には行かなきゃいけない。


 この国では16歳で成人とされ、

 お城で洗礼を受けることが義務とされている。


 まだまだ眠い目をこすりながらお城へと向かう。


 お城に着いて私が目にしたのは、

 とても形骸化されているような式典とは思えないほどに盛大なものだった。


 いくら一生に一度のこととはいえ、

 たった一人にこれほど盛大なものを開くとは思えなかった。


 他にも何か別の催しでもあるのかな?


 ふとお母さんに言われた台詞が蘇る。


 まさか、ね。


 普段は入ることも許されないお城の通路を通り、

 王の間と思われる場所へ通された。


 王様に直接洗礼を受けるなんて、

 余程の家柄の子じゃないとないって聞いてたのにこれはどういうことだろう。


「おお、勇者よ。待ちかねたぞ。

 それでは早速だがこれが魔王を倒すための装備だ。

 しっかり頑張って来て欲しい。」


 見るからに高価な鎧と剣を王様から手渡される。


 腕にずっしりと重みはくるが、

 鎧や剣ということを考えるとものすごく軽い。


 って、ちょっと待って。


 今、何て言われた?


「いやその、魔王って何なんですか?」


 私は慌てて顔を上げて王様に尋ねようとした。


 しかし、ついさっきまでそこにいた王様はどこにも見当たらなかった。


 手渡された装備を手に、ポツンと佇む。


 これからどうしたらいいんだろう。


 装備を置いていくわけにもいかないので、

 とりあえず家に持ち帰る。


「ただいま~、なんだかすごく疲れたよ。」


 つい口から愚痴が出る。


「あら、お帰りなさい。まあっ!それが王様から頂いた装備なのね?

 着て見せてちょうだいな。」


 お母さんが奥から出てくるなり、目を輝かせて言った。


 まあ、せっかく貰ったものだしね。


 着てみて損はないか。


 そう思い、鎧を着て剣を構えて見せる。


「これでとうとう魔王を倒せるんだね…。

 頑張って行ってらっしゃい。」


 お母さんはそっと目尻を拭うような仕草をしたかと思うと、

 そのまま私を家の外へと押し出していった。


「いや、ちょっと待ってよ!

 私にそんなこと出来るわけないじゃない!」


 お母さんの手を振り払おうとしても、

 何故かすごい力で抑えられびくともしない。


 しかし、私が恐怖を感じたのは目の前の光景を見てからだ。


 さっきまで人っ子一人いなかった道の左右に人垣が出来ていた。


 その全員がこちらを見ている。


 口々に言われる台詞には、

 「今度こそ魔王を」「これが最後の希望」

 といったものが断片的に聞こえる。


 気味が悪い。


 私は無数の人につかまれ、

 魔王がいるであろう屋敷に連れ去られてしまった。


 扉の前で解放してもらえたが、大勢の人達はそこから動く気配がない。


 どうやら入るしかなさそうだ。


 扉を抜けてすぐの部屋に人影が一つ。


 その人影は真っ白な仮面を被って、大きなマントで身体を覆っていた。


 背格好は私と同じくらいだろうか。


「今度は誰が連れてこられたんだ?

 格闘家か?傭兵か?それとも超能力者か?」


 仮面で隠れて見えないがニヤニヤと笑っていることが雰囲気でわかる。


 私は何も言えなかった。


 身体が動かないのだ。


 震えだけが止まらない。


「ん?まさか何も知らされてないのか?

 …ハハッ!そうか、そういうことか!」


 魔王と思われるその人は突然狂ったように笑い出す。


 どれだけの時間が経っただろうか。


 やがてその笑い声が消えたと思った時、

 突然その人は私に飛び掛ってきた。


 その目は血走り、最初の余裕が嘘のようだった。


 私は恐怖の余り、手に持ったままだった剣を突き出す。


 余りにもあっけなく、

 人影は血溜まりを作りその場に倒れる。


 そのまま、私は気を失った。




「私の可愛い勇者。起きなさい。」


 もうちょっと寝ていたいけれど、

 あんまり粘ると布団ごと剥ぎ取られてしまうかもしれない。


 渋々ながら身を起こす。


 ところで、

 私を起こしたこの人は一体誰だろう。


「あなたは…一体誰ですか?」


 寝ぼけた頭のまま、浮かんだ言葉をそのまま口にする。


 目の前の人は童女のような笑みを浮かべてこう言った。


「私は、あなたのお母さんよ?ずぅっと、ね。」


END

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