序章
オリジナル小説を書くのは初めてで拙い文章になるかもしれませんが、よろしくお願いします。
空に太陽が昇り、人々に一日の始まりを告げる。新しい日を迎えるもの、昨日と変わらない日々を送るもの。内容は様々である。
そして、ある少年にとっては新しい日を迎えた。とても大きな変化である。
家を出るのだ。
少年は家の門を出て、外から10年間を過ごした我が家を見つめた。家と言うが、実際は屋敷である。少年は伝統ある退魔一族の一人で次期当主となるべく厳しく育てられてきた。しかし、少年は当主になることは決してない。
なぜなら、少年は退魔士としての素質を全く持っていないのである。
少年の一族は人によって様々だが、だいたい3歳ぐらいになると術が使えるようになる。そこから訓練をして制御できるようになるのだが、少年は10歳になった現在でも術を制御することはおろか、発動させることすらできないのである。唯一持っているのは退魔士の命とも言える「霊力」だけである。それ以外は、普通の人間である。
少年の父親は、少年に人一倍厳しく修行をつけたが、能力が開花することはなかった。親族や分家のものたちは少年を「無能」と呼び、同年代の少年退魔士たちにいじめられていた。
父親は少年に絶望し、そして勘当を告げた。母親も少年を庇うことなくこれに賛成し親戚や分家のものたちも反対せず、満場一致で少年は家を出ることを告げられた。しかし、一人だけ少年を庇うものがいた。 ―少年の姉である。
姉は親族会議が行われる直前まで断固反対していたが、決定されてからは何も言わなくなった。しかし少年にとっては、この上なく嬉しかった。一人だけでも自分のことを思ってくれている人がいる。それだけで少年の心の支えとなっている。
そして今、姉は門の前で少年を見送っている。しかし、見送りに来ているのは姉一人だけである。それでも、少年にとっては十分だった。少年にしては少し大きいトランクを置き、姉の顔をまっすぐ見る。
「わかっているとは思うが、こうなったのはお前が能力を持っていなかったのが原因だ。恨むなら神や運命とやらを恨むことだな」
「ハハハ……」
姉の辛辣な言葉に、少年は苦笑いするしかなかった。姉は他人に厳しく自分にも厳しい人間なのである。
「ま、お前がこの道を諦めておらず、なおかつ生きていればまた会うこともあるかもしれん」
「そうだね……」
それからしばらく沈黙が続いた。聞こえてくるのは眠りから覚めた鳥のさえずりだけである。口を開いたのは少年だった。
「姉ちゃん……」
「なんだ?」
少年はこれまで以上の真剣な顔をして姉を見る。姉は顔色を変えず普段の厳しい顔つきで少年を見つめているが、内心は少し緊張していた。少年は深呼吸を一つして、告げた。
「俺、強くなるから」
「……!」
少年の言葉に、姉は少し目を見開いた。しかしそれも一瞬のことですぐに顔色を戻した。
「ほう。強くなる、か。弱虫で無能のお前がな?」
姉は挑発の言葉をかけるが、少年は動じなかった。
「強くなる。強くなって一人前の退魔士になって、この街に帰ってくる」
少年は本気だった。
「お前にとって、それは過酷な道だぞ」
「わかってる」
「途中で妖魔どもに殺されるかもしれないぞ」
「退魔士に妖魔はつきもの、でしょ?」
一連のやり取りをして、姉は口元を緩めた。滅多に見せない姉の笑みだ。
「そうか。なら、せいぜい死なないことだ」
「うんっ!」
少年は一つ頷き、トランクを持ち上げた。
「それじゃ姉ちゃん、いつかまた……」
「ああ。またな」
こうして、10歳の少年は屋敷を去り、退魔士になるための修行の旅に出たのである。
もう7年も前の話である。
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