本命と大穴と落とし穴
なんとなく思いついて突発的に書きました。
王宮のとある広間。
第一王子の婚約者選考にあたり、候補となる令嬢が集められている。
最有力候補は、公爵令嬢フサワシーナ。
家柄、性格、知性に美貌。どれをとっても最上位の存在と言えよう。
他には侯爵家、席次上位の伯爵家から数名の令嬢がいるのだが、
なぜかたった一人だけ、男爵家よりこの場に呼ばれた令嬢がいた。
大穴候補、男爵令嬢ズーズーシーナ。
家柄は無論貴族の中での下層に位置する。知性はそれなりらしい。
美貌については…まあ、平均よりは少しばかり上?だろうか。
性格に至っては、この場に集まった令嬢も誰一人知らない。
そもそも上位貴族と接点がない家の者なのである。
領地にこもり、貴族学院にすら通っていないと聞いている。
当然参加を不思議がられたし、相応しくないものとして皆見ていた。
◆
「貴女、ご辞退なさいな」
ズーズーシーナ嬢へそう言い放ったのは、侯爵令嬢ヤカマシーナ。
他の候補達もその傍らに付いている。総意という事だろう。
「第一王子殿下の妃たるもの、まずは後ろ盾が必須ですわ。
男爵家に過ぎない貴女にそれがありまして?
それになんですの、その陰気な装い。
貴族令嬢には最低限、気品や美的感覚というものが必要ですのよ。
何も華美な装飾をと求めているのではございません。
ですがこの場にはあまりにも不釣り合いだと思いませんこと?」
ヤカマシーナ嬢に同意し、他の候補達も頷いている。
「あの、おそれながら…」
ズーズーシーナ嬢は口を開く。
「わたくしは、自らの意思で参加した訳ではございません。
王室から是非にとのご指名で候補者の一人に選抜されました。
末端貴族である我が男爵家には拒絶など許されません。
それを否定なされば、皆様のお家にも警告が下されるやも。
装いは恥ずかしながら我が家の経済的事情もございます。
どうかお察しくださるよう」
おどおどと、おびえたようなか細い声で答えるズーズーシーナ嬢。
まあなんてこと、身をわきまえなさいな、口の減らない方ね、
事もあろうに王室のご意思を言い訳にするなど、と罵る令嬢達。
「判っていただけないようですわね。
後々後悔などなさらなければよろしいですが」
ため息をつき、そう残してヤカマシーナ嬢達は去る。
ズーズーシーナ嬢はただぼんやりと、彼女達を見送っていた。
◆
ヤカマシーナ嬢達は苛立ちが収まらなかった。
正妃となるに、フサワシーナ様が選ばれるのはまあ理解は出来る。
自分達はなれずとも、今後の活動によっては妃付きの女官やら、
運が良ければ側妃への道もあるやも知れない。
同格ではなくとも、次に優れる者として選ばれるのだ。
家にとっても自身にとっても大変な名誉、好機と言える。
だがあの娘はだめだ。我々の近くにある事も許し難い。
他の者と競い合うのは良いが、何故蝶々の中に蛆虫がいるのか。
目障りだ。早々にここから退場させるべきだろう。
ズーズーシーナ嬢を排斥すべく、彼女達は動き出す。
割り当てられた部屋に忍び込ませ、私物を奪ったり壊したり。
妃教育の時間には、用意した座席を壊れるよう細工させたり。
食事の時間には、家から取り寄せた怪しい薬を混入させたり。
思いつく限りの嫌がらせを行き過ぎた警告として行った。
◆
ある日の朝。ヤカマシーナ嬢の絶叫が王宮の一室に響く。
女官達が駆け付けると、ヤカマシーナ嬢が床にうずくまっている。
振り向いた彼女の肌は深緑色に染まっていた。しかもなにか臭い。
女官達が呆けていると、王宮のあちこちで同じような悲鳴が続く。
全て第一王子の婚約者候補に割り当てられた部屋からである。
ある者は頭髪が全て抜け落ち、またある者は肌が染みだらけに。
全身に剛毛が生えた者もいた。フサワシーナ嬢以外。
全員が我を失い、話も聞けない。一体何が起こっているのか。
妃教育どころではない。異常がある全員が実家へ帰される。
一夜にして婚約者候補は二人に絞られた。
◆
「よ、予想よりも早かったですね」
二人の令嬢が茶会を開いている。口を開いたのはズーズーシーナ嬢。
「そうね。長引くかとも思ったのだけど」
答えるのはフサワシーナ嬢。彼女達は元々知り合いである。
ズーズーシーナ嬢の家は代々、王宮の暗殺部門を預かっている。
彼女は呪術に長けており、中でも呪いの付加を得意としている。
何かしら悪意を受けた場合、それを別の形で呪い返しする。
婚約者候補達はそれを受けた。今回は死んだりはしない。
計画は王族主導で行われている。公爵家は聞かされていた。
今回の婚約者選考は、実のところ選考ではなかった。
選考などせずとも、既にフサワシーナ嬢に内定しているのである。
王室に対して叛意を疑われた家系から彼女達は集められていた。
候補者の彼女達にその意思がなくとも、第一王子に近しい立場で、
実家から何かしらの指示を受けて行動する可能性は否定できない。
そんな家系を牽制し、かつ彼女達の品格と気質を確認する事で、
今後の彼らの扱いを決めるつもりだったのだ。
候補者達は気づくどころではあるまいが、親達は察するだろう。
お前達の思惑は筒抜けだからな、今後も妙な事をするなよと。
半年ぐらいは呪い解けません。




