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どこかの異世界で

本命と大穴と落とし穴

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/23

なんとなく思いついて突発的に書きました。

王宮のとある広間。

第一王子の婚約者選考にあたり、候補となる令嬢が集められている。


最有力候補は、公爵令嬢フサワシーナ。

家柄、性格、知性に美貌。どれをとっても最上位の存在と言えよう。

他には侯爵家、席次上位の伯爵家から数名の令嬢がいるのだが、

なぜかたった一人だけ、男爵家よりこの場に呼ばれた令嬢がいた。


大穴候補、男爵令嬢ズーズーシーナ。

家柄は無論貴族の中での下層に位置する。知性はそれなりらしい。

美貌については…まあ、平均よりは少しばかり上?だろうか。

性格に至っては、この場に集まった令嬢も誰一人知らない。


そもそも上位貴族と接点がない家の者なのである。

領地にこもり、貴族学院にすら通っていないと聞いている。


当然参加を不思議がられたし、相応しくないものとして皆見ていた。



「貴女、ご辞退なさいな」


ズーズーシーナ嬢へそう言い放ったのは、侯爵令嬢ヤカマシーナ。

他の候補達もその傍らに付いている。総意という事だろう。


「第一王子殿下の妃たるもの、まずは後ろ盾が必須ですわ。

 男爵家に過ぎない貴女にそれがありまして?


 それになんですの、その陰気な装い。

 貴族令嬢には最低限、気品や美的感覚というものが必要ですのよ。


 何も華美な装飾をと求めているのではございません。

 ですがこの場にはあまりにも不釣り合いだと思いませんこと?」


ヤカマシーナ嬢に同意し、他の候補達も頷いている。


「あの、おそれながら…」


ズーズーシーナ嬢は口を開く。


「わたくしは、自らの意思で参加した訳ではございません。


 王室から是非にとのご指名で候補者の一人に選抜されました。

 末端貴族である我が男爵家には拒絶など許されません。

 それを否定なされば、皆様のお家にも警告が下されるやも。


 装いは恥ずかしながら我が家の経済的事情もございます。

 どうかお察しくださるよう」


おどおどと、おびえたようなか細い声で答えるズーズーシーナ嬢。

まあなんてこと、身をわきまえなさいな、口の減らない方ね、

事もあろうに王室のご意思を言い訳にするなど、と罵る令嬢達。


「判っていただけないようですわね。

 後々後悔などなさらなければよろしいですが」


ため息をつき、そう残してヤカマシーナ嬢達は去る。

ズーズーシーナ嬢はただぼんやりと、彼女達を見送っていた。



ヤカマシーナ嬢達は苛立ちが収まらなかった。

正妃となるに、フサワシーナ様が選ばれるのはまあ理解は出来る。

自分達はなれずとも、今後の活動によっては妃付きの女官やら、

運が良ければ側妃への道もあるやも知れない。


同格ではなくとも、次に優れる者として選ばれるのだ。

家にとっても自身にとっても大変な名誉、好機と言える。


だがあの娘はだめだ。我々の近くにある事も許し難い。

他の者と競い合うのは良いが、何故蝶々の中に蛆虫がいるのか。

目障りだ。早々にここから退場させるべきだろう。


ズーズーシーナ嬢を排斥すべく、彼女達は動き出す。

割り当てられた部屋に忍び込ませ、私物を奪ったり壊したり。

妃教育の時間には、用意した座席を壊れるよう細工させたり。

食事の時間には、家から取り寄せた怪しい薬を混入させたり。

思いつく限りの嫌がらせを行き過ぎた警告として行った。



ある日の朝。ヤカマシーナ嬢の絶叫が王宮の一室に響く。


女官達が駆け付けると、ヤカマシーナ嬢が床にうずくまっている。

振り向いた彼女の肌は深緑色に染まっていた。しかもなにか臭い。


女官達が呆けていると、王宮のあちこちで同じような悲鳴が続く。

全て第一王子の婚約者候補に割り当てられた部屋からである。


ある者は頭髪が全て抜け落ち、またある者は肌が染みだらけに。

全身に剛毛が生えた者もいた。フサワシーナ嬢以外。


全員が我を失い、話も聞けない。一体何が起こっているのか。

妃教育どころではない。異常がある全員が実家へ帰される。

一夜にして婚約者候補は二人に絞られた。



「よ、予想よりも早かったですね」


二人の令嬢が茶会を開いている。口を開いたのはズーズーシーナ嬢。


「そうね。長引くかとも思ったのだけど」


答えるのはフサワシーナ嬢。彼女達は元々知り合いである。

ズーズーシーナ嬢の家は代々、王宮の暗殺部門を預かっている。

彼女は呪術に長けており、中でも呪いの付加を得意としている。

何かしら悪意を受けた場合、それを別の形で呪い返しする。

婚約者候補達はそれを受けた。今回は死んだりはしない。


計画は王族主導で行われている。公爵家は聞かされていた。


今回の婚約者選考は、実のところ選考ではなかった。

選考などせずとも、既にフサワシーナ嬢に内定しているのである。


王室に対して叛意を疑われた家系から彼女達は集められていた。

候補者の彼女達にその意思がなくとも、第一王子に近しい立場で、

実家から何かしらの指示を受けて行動する可能性は否定できない。

そんな家系を牽制し、かつ彼女達の品格と気質を確認する事で、

今後の彼らの扱いを決めるつもりだったのだ。


候補者達は気づくどころではあるまいが、親達は察するだろう。

お前達の思惑は筒抜けだからな、今後も妙な事をするなよと。

半年ぐらいは呪い解けません。

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