表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【通常版】浮気され離婚した大公の悪役後妻に憑依しました  作者: もぁらす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/29

27話『堕ちゆく先』


 ——ああ。

 なぜ、こんなにも触れれば触れるほど壊れそうなのだろう。


 そう(うれ)いりつつも、壊してしまいたい願望にかられる。


 腕の中に抱き寄せながら、胸の奥でなにか黒いものが、ゆっくりと息を吹き返した。


 その時だった。


 「……少しだけなら」


 セレーネがそう言った一瞬——俺の中で、タガが外れた。


 

 それは、たった一滴の水が砂漠へ落ちた程度のものかもしれない。

 しかし俺にとっては——飢えた獣に差し出された餌のようだった。


 衝動に任せ唇を重ねた瞬間。

 理性は、細い糸のようにぷつりと音を立てて切れた。


 欲しい。

 触れたい。


 彼女の震えを腕で感じるたび、その震えの理由を、俺だけのものにしたい衝動が喉の奥で燃え上がる。


 セレーネの唇が触れるだけで、呼吸が苦しくなる。

 こんなにも苦しくなるほど欲しがるなど——俺はいつからこんな男になった?


 いや。

 最初から、だったのかもしれない。


 拒まれ続けた日々。

 寝室を出ていかれた朝の、あの空虚。


 思い出しただけで胸が締めつけられる。



 セレーネは戸惑い、俺の腕の中で小さく息を呑んでいる。


 ああ、かわいい。

 たまらなく。


 どうにか逃げようと様子を伺っているのを察する。


 「……離れようとするな」


 唇が触れたまま、声が低く漏れる。



 俺から逃げようとするな。


 逃げ足ごと抱きしめ潰してしまいそうな力が、腕に宿る。


 セレーネが怯えたように目を瞬かせる。


 

 違う。

 恐れてもいい。

 その震えですら、愛しい。



 愛さなくていいと言ったが——そんなものは嘘だ。


 愛して欲しい。

 俺を求めて欲しい。


 言葉で得れないのであれば、身体で確かめるまで。


 自制心はもう残っていない。

 胸の奥から溢れる何かをどう表せばいいのかわからない。



 ただ、蜜にまみれるその反応は、脳に甘い痺れが走らせる。



 愛されたい。

 求められたい。

 今すぐ欲しい。

 全部。


 「……セレーネ」


 名前を呼ぶだけで喉が焼ける。


 セレーネの肌に触れる、たったそれだけで意識が真っ白になる。


 ああ……だめだ。もう、我慢なんてできない。


 何度も自制するのに、セレーネを前にすると制御が効かなくなる。



 セレーネ、セレーネ、セレーネ。



 セレーネの香り、鼓動、温度、すべてが俺を狂わせる。


 獣のように、喰らうように、さらに強く彼女を抱き寄せる。


 いつもだ。


 ——ぷつん、と音がする。

 ほんのわずかな理性の繋ぎ目が、切れてしまう。


 ああ、もう止められない。



 「……セレーネ」


 名前を呼ぶたびに、セレーネから甘い吐息が漏れる。


 壊してしまいたい。

 彼女の全部を奪ってしまいたい。


 そんな感情が胸の奥で燃え上がり、形を変えていく。

 焦がれ、苛立ち、渇望し、そして黒い感情に支配される。



 こんなにも怯えた顔をしているのに、俺の腕の中から本気で逃げるという選択をしない。


 なぜ逃げないのか。

 なぜ震えたまま受け入れる?

 そんな姿を見せられたら——


 確信してしまうではないか。


 唇を離した瞬間、セレーネの喉の奥から低く、掠れた声が溢れた。


 セレーネの目が揺れる。

 怯えと、迷いと、少しの戸惑いが混ざった熱った色。


 美しい。


 抱き寄せた腕が、自分でも驚くほど強くなる。


 「や、やめ……レオニス……っ」


 弱々しい拒絶。

 押し返せない腕。


 そのすべてが、俺の中の炎を煽った。


 「……駄目だ」


 ゆっくりと言い返した。

 

 彼女は知らないだろう。

 俺がどれほど——この声を、この温度を、この体を求めているのか。


 おまえが逃げるたびに……この想いは募るばかりだ。




 いつも、理性なんてものは跡形もなく溶けていく。




 セレーネの指を絡め取った。

 震えているのに熱くて、小さな指。


 喉奥で熱が唸る。


 セレーネの瞳に涙が滲む。


 その涙すら美しくて、壊したくて、愛おしい。




 もう限界はとうにこえていた。


 唇が触れ、そのまま執着の深みに落ちていく。


 彼女の震える呼吸、

 甘い香り、

 細い肩……すべてが俺を狂わせる。



 その微細な震えが、自分の手の中で熱を帯びていくのがわかる。


 


 胸の奥がぞくりと痺れた。


 呼吸が乱れ、押し殺すように喉が震えて、セレーネの指先が俺の指を掴んだ。


 桃色に染まった身体が熟れている。


 


 その姿が更に俺の理性を容赦なく削っていく。


 俺に触れられて反応する姿に、視界が揺れる。


 セレーネの膝が震え、浅い息がこぼれ、堪えようとするほど身体が熱で締まる。


 ——もっと乱れたところが見たい。


 セレーネは恥ずかしさで頬を染め、唇を噛みしめて、首を振りながら腰を浮かせては痙攣を繰り返す。


 その仕草が更に俺を煽る。



 「……やめて……そんな……」


 「……」



 呼吸が触れ合い、セレーネの心臓の音が俺の胸に直接響いてくる。


 その震えが、熱が——更に俺を狂わせる。



 セレーネの瞳が揺れる。

 涙がにじむ。

 その弱い表情が、俺を深くえぐった。


 「レオニス……お願い、やめ……」


 本当に“やめてほしい”のだろうか。


 “感じているから、これ以上は堪えられない”


 いつもそう言うセレーネは、最後は欲しいと涙ぐむ——だから俺はそう理解している。


 


 熱に熟れ、緩んだ口元からは唾液が垂れている。


 倒れた身体を膝の上にあげると、折れそうな身体を抱きしめる。





 「……セレーネ」


 唇をそっと触れさせる。


 「欲しければ言わぬと……」



 喉の奥が熱で唸る。



 「……欲しいです」


 その言葉は、闇に沈んでいった。

 



 涙をにじませて俺の名前を呼ぶ声と同時に、切なそうに喘ぐ。


 抱く腕が熱に沈む。


 


 「……その淫らな姿は俺だけが知っていればいい……」


 闇に堕ちゆく瞳で、彼女をまっすぐ捕らえながら囁いた。


 「全部、俺のものだ」


 吸い付く熱が肌に、胸の奥が灼けた。


 


 もう戻れない。


 頭では分かっているのに、身体が彼女の熱に引きずられる。


 触れた部分だけじゃない。

 呼吸の震えも、指先の強張りも、すべてが俺の皮膚に張りついて離れない。



 脳がじりじりと痺れていく。

 理性の縁が、熱で溶けて崩れはじめる。


 

 自分でさえ驚くほど“欲”に濡れていた。


 セレーネがびくりと身体を震わせる。


 その反応ひとつで——視界が真っ黒に染まる。



 胸が焼ける。

 思考が切れる。


 自分で自分を止められない。

 抗えない。

 落ちていくことすら心地いい。


 「……そんな声を出すな」


 セレーネの鳴く声が掠れている。

 それが苦しいほど熱い。



 身体中の血が一箇所へ押し寄せた。


 セレーネの香りが満ちると——視界がぐらっと傾く。



 血が脈打ち、筋肉という筋肉が熱で痺れる。


 

 「……どこへも行くな」


 低く唸るような声が漏れる。



 呼吸が荒ぶ。

 胸が上下しすぎて、息苦しいのに——その苦しさが快感へ変わっていく。


 セレーネが果てるたびに、自分の奥底にある何かが剥き出しになる。


 抑えつけてきた“雄”の衝動が、全部、皮膚の裏から這い出てくる。


 


 手のひらで彼女の腰を捕まえる。





 セレーネの声が震え、唇が熱く乾き、喉が嗄れたように喘ぐ。


 締め付けの苦しさが快感に変わって、その二つの境界が消えている。


 ——狂っている。


 その自覚はあった。




 


 俺に呼応するようにセレーネの呼吸の乱れが激しくなる。


 指先だけで、跳ねる。

 引けば追ってくる。

 触れれば蕩ける。





 たまらない。


 “少しだけ”と言った彼女につけ入るのは——簡単だ。


 


 


 俺の手ひとつでどうにでもなる素直な身体に、芯が熱くなる。


 ああ、可愛いセレーネ。


 もっと欲しくなる。

 もっと壊したくなる。

 もっと俺だけのもので満たしたくなる。



 そのたびにセレーネは泣きそうな声で喘いで——快楽に狂う。




 ……血が、逆流していく。


 胸の奥を殴られたみたいに熱が広がり、ずっと抑えていた何かがぶちぶちと切れていく。


 頬を赤く染め、涙をにじませ、俺の手を必死に求める顔。


 その姿が——美しすぎて。


 唇の端が、勝手に上がった。

 堪えきれないほどの愉悦が胸を満たす。


 


 そっとセレーネの顎を掴み、涙の縁を親指でなぞりながら囁く。


 「おまえの……望むままに」


 


 息を吸い込むだけで、彼女の甘い香りが肺まで満ちていく。


 理性なんてもう欠片もない。


 ただ——圧倒的な支配欲だけが残った。


 


 どこまでも、——堕ちればいいだけだ。


 俺が囁いた瞬間、彼女の瞳が大きく揺れて、熱が滲んだ。


 その反応があまりに可愛くて、腹の底が熱く満たされる。


 

 怯えと戸惑いと、抑えきれない熱が混ざっているその体温に、沈んでゆく。


 彼女を追い詰めて、逃げれないよう両腕で捕まえる。


 



 喉奥で笑いそうになる。


 可愛い。

 どうしようもなく、壊したくなるほど可愛い。


 俺の腕に抱えられた彼女は、完全に俺の支配下に落ちている。




 欲望が胸を焼き、彼女の耳元に顔を寄せる。


 そして頭を撫でる。



 「欲しいと言ったのはお前だぞ……セレーネ」


 耳たぶに唇が触れ、彼女の身体がびくりと跳ねた。


 逃げようとした腰を、片腕でしっかりと抱き寄せる。


 「まだだ」


 身体は止まることを知らない。


 セレーネの呼吸がひゅっと細くなる。


 その首筋に、唇を落とした。


 最初は優しく。

 次に深く。

 そして——噛む寸前でやめる。


 何をしても彼女が達して、俺の胸が狂気じみた熱で満たされていく。


 これは長い“堕落の儀式”だ。


 指先を、ゆっくりと太ももへ滑らせながら囁く。



 「俺の手で……お前が壊れてゆくのがたまらなく愛しい」



 彼女の身体が、震えて、揺れて、しがみついてくる。


 そうだ。

 それでいい。


 それがいい。


 「堕ちてくれ。俺に」


 耳元で囁き、唇が彼女の首筋をなぞる。


 何度も、何度も、彼女の中に吐き出した。


 熱の中心へ滑り込み、セレーネが息をきらせて力を失っていく。


 俺に堕ちていく彼女を、ずっと支配したい。


 理性のない声はどこまでも俺を狂わせる、余裕のない叫び。


 もっと聞かせてくれ。


 指をひと撫でしてやると、彼女は息を呑み、俺の服をぎゅっと掴んだ。


 「…嫌い……」


 喉奥から絞り出すように。

 泣きそうに。

 縋るように。  


 


 たまらなかった。


 胸の奥が痺れるほど悦びで満たされる。


 「……そうか」


 

 セレーネの動物的なまでの反応が、俺の理性をまた吹き飛ばしていく。


 「——可愛い」


 囁きながら、彼女の髪に指を差し込み、首筋に唇を押し当てる。


 震えて、

 息を乱して、

 必死に耐えようとして耐えられず、

 俺の肩に爪を立てるセレーネ。


 その必死さに、全身が焼けるような熱で満たされる。


 


 抑えろという方が無理だ。


 「セレーネ」


 名前を呼ぶたびに、彼女の身体が反応する。


 そのひとつひとつが——どこまでも俺を狂わせていく。



 俺の中の獣が目を開ける。


 このまま、意識を奪うほどに甘やかして、返事もできなくなるほどに蕩かして、この狭い馬車で——完全に俺のものにしてしまいたい。


 「セレーネ」


 もう一度名前を呼び、彼女の顎に触れ、顔を上向かせる。


 瞳が潤んで、焦点が合っていない。


 


 俺は、微かに笑った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ