EP 8
紫煙と破壊の約束
「結、お前の力はいらない」
世一は短く言い放った。
世界を統べる絶対神への道。それを、道端の石ころを蹴るように拒絶したのだ。
結は目を見開いた。
「な、何故? 私の力を使えば全知全能、全てを統べる王になれますのに!? そうすれば、もう誰にも縛られず……!」
「それじゃ、結は救えないだろ」
「っ!?」
結の言葉が止まった。
彼女自身の力を礎にして神になったとして、それは結局、彼女が「誰かのための道具」であり続けることに変わりはない。
世一は、彼女が最も忌み嫌っている「役目」という鎖を、正確に見抜いていたのだ。
世一は呆然とする結から視線を外し、手元の煙管を顎で示した。
「おい、火」
「は……はい……」
震える手で火種を近づける。
深く煙を吸い込み、世一はゆっくりと振り返った。その視線の先には、檻の外で様子を窺っていた巨躯の門番、和勇牛がいる。
「フーッ……おい、そこの門番」
世一は挑発的に煙を吐いた。
「お前、俺の首をはねると言ったな? デカイ図体の癖に、言った事を引っ込めるのか? 小せぇカスだな」
「なっ!」
和勇牛のこめかみに青筋が浮かぶ。
「俺の首をはねれるかどうか、試してみろと言ってるんだよ」
「き、貴様、図に乗るのも大概にしろ! 仏の顔も三度まで、鬼の顔は一度までだ! 今すぐに身体を真っ二つにしてくれるわ!」
激昂した和勇牛が、怒りに任せて巨大な鉄棒を振り上げた。
狙うは世一の脳天。だが、世一と和勇牛の間には、罪人を閉じ込めるための強固な鉄格子がある。
和勇牛は怒りで我を忘れていた。鉄格子ごと粉砕しようと、渾身の力で鉄棒を叩きつける。
ドゴォォォン!!
凄まじい轟音と共に、鉄格子がひしゃげ、蝶番が弾け飛ぶ。
「ろ、牢が壊れ……」
結が息を呑む。
土煙が舞う中、和勇牛はニヤリと笑った。「手応えあり」と思った瞬間――影が動いた。
「!」
土煙の中から飛び出したのは、五体満足の世一だった。
振り下ろされた鉄棒の上を駆け上がり、無防備な和勇牛の懐へと飛び込む。
「ハハッ、馬鹿だろお前」
世一の拳が、和勇牛の鳩尾に深々とめり込んだ。
「開けてくれりゃ、もうお前に用はねーよっっ!」
「グハッ……!」
巨体がくの字に折れ、和勇牛は白目を剥いて吹き飛ばされた。
地響きを立てて倒れる門番。その横に、世一は軽やかに着地する。
「フーッ……」
世一は乱れた着物を直し、煙管を吹かした。
そして、壊れた牢の中で立ち尽くす結の方へ、ゆっくりと歩み寄る。
「結、お前の願いは何だったか……そうか、『破壊』か」
世一はニヤリと笑った。
それは、人を殺め、金を奪った時と同じ、凶悪で、それでいてどこか清々しい「悪党」の笑みだった。
「ヤニの礼に壊してやるよ。お前を苦しめる世界全部、な」
神になどならない。
俺は俺のまま、この薄汚い煙管一本分の礼として、天界だろうが地獄だろうが、気に入らないものは全てぶっ壊してやる。
地獄の底で、史上最悪の暴動が幕を開けた。
世一のカッコよさが際立つ展開となりました。




