EP 7
神殺しの提案と、紫煙の一喝
「フーッ……」
紫煙が揺らめく中、世一は核心を突いた。
「結、正直に話せ。何故俺を見に……お前は、何がしたい?」
ただの気まぐれや恋慕にしては、度が過ぎている。世一の目は、結の奥底に巣食う闇を見透かそうとしていた。
結はビクリと震え、視線を彷徨わせた後、堰を切ったように語り出した。
「……わ、私は下々の願いを叶える、神……だ、誰も……」
言葉が熱を帯びていく。
「誰も誰も! 力ばかり求めて! 『商売繁盛』『家内安全』『富を』『名声を』……誰も私の事を見てくれない! 彼らが見ているのは私の『力』であって、私じゃない!」
美しい顔が悲痛に歪む。
崇められることの孤独。利用されることへの虚無感。
「誰もじゃ嫌なんです! 私は、私を見てくれる人に……私の好きな人の為だけに、力を使いたい!!」
彼女は一歩踏み出し、世一を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、かつてないほどの暗い情熱が燃えていた。
「私は……世一様の自由爽快に生きる姿が羨ましく……世一様なら、こんな、こんな退屈で腐った世界を壊してくれると!」
「フーッ……」
世一は無言で煙を吐く。結の言葉は加速する。
「私の力を世一様が使えば、世一様は絶大な力を得て大神をも凌ぎ、大神が持つ『宝玉』を手に入れれば……世一様はこの世の全てを統べる絶対神になられます!」
それは、天界への反逆。クーデターの勧誘だった。
悪党として生きた男に、最強の力を与え、世界を混沌へ陥れる。それが結の望み。
「結」
世一が名を呼ぶが、結は止まらない。恍惚の表情で未来を夢想している。
「此度の世一様の地獄行きは納得出来ず! 私の身命を掛けて世一様をお助けいたします! いいえ、お助けするどころか、世界の頂点へ……!」
「結」
「さぁ、私の手をお繋ぎ下さい! 世一様の絶対神への道を、私が叶えます!!」
結は白く美しい手を、救いの手であり、破滅への招待状でもあるその手を、世一の目の前に突き出した。
これで世界は変わる。
私の愛する悪党が、神になる。
そう信じて疑わない結の暴走を、
「だまれ」
低く、地を這うような一言が断ち切った。
「ひっ」
結の喉が引きつる。
伸ばした手が空中で凍りついた。
世一の瞳は、怒っているようにも、呆れているようにも見えたが、その圧力は先ほどの門番の比ではなかった。
絶対的な拒絶。
煙管から立ち上る煙だけが、静寂の中でゆらゆらと揺れていた。




