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「月が綺麗ですね」その一言の為に世界を壊した。蜘蛛を助けた極悪人と、彼を数千年も探し続けた女神の、地獄から始まる転生純愛物語  作者: 月神世一


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EP 6

閻魔への嘆願書と、焦げる恋心

「……あー、あれか。気に入らねぇから殺しただけだ」

世一は煙をくゆらせながら、自身の凶行を事もなげに言った。

仲間殺し。極悪人の烙印。それを否定するどころか、肯定してみせる。

だが、結は静かに首を横に振った。

「……私、知っています。貴方様は、あの悪党達が白い花々を踏み荒らそうとしていたのに、怒って……」

「……」

「人間たちは貴方様を『鬼』と呼びますが、花々や、貴方様が人知れず守ってきた小さき者達からは、貴方様の地獄行きをやめろと嘆願書が続々と届いています」

閻魔庁も頭を抱える珍事だった。

殺した人間の数よりも、彼に救われた路傍の草花や虫たちの数が遥かに多いのだ。

「……貴方様は、荒々しいけど、誰よりも自由で……小さき者を守る優しさを持っていらっしゃる」

結の瞳が潤み、熱っぽい視線が世一に注がれる。

自らの隠していた本性、あるいは無自覚な善性を突きつけられ、世一はふいと顔を背けた。照れ隠しか、あるいは単なる不快感か。

「おい、ヤニのおかわりだ」

「は、ハイッ! これ門番、ヤニを持って参れ!」

「ハハッー!!」

感動的な空気をぶち壊す世一の要求に、結は即座に応じ、和勇牛は再び脱兎のごとく走り出した。

すぐに戻ってきた和勇牛から盆を受け取り、結は甲斐甲斐しく世一に差し出す。

「さっ、どうぞ」

「火」

「ハイッ!」

地獄の火種を近づける。その一連の動作は、すでに長年連れ添った主従のように洗練されていた。

「フーッ……」

世一は深く紫煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。煙が結の白い顔にかかるが、彼女はそれを聖なる霧のごとく浴びた。

「で? なんだ? 俺に何の用だ」

世一は本題を促した。自分を観察し、ストーカーし、こんな場所まで追いかけてきた理由を。

「はっ、ハイッ! 此度の件も、私を守ろ、ろ、ろう、うぅ……」

感極まって舌が回らない。同時に、世一がポンと袖に落とした新しい灰が、じゅっと音を立てる。

「熱っい! ありがとうございますぅ!!」

「……」

「私を守ろうとしてくれた行動で、あ、貴方様を死なせてしまった……その償いを……」

結は涙と涎と煤でぐしゃぐしゃになりがら、それでも必死に訴えようとした。

「貴方様が……」

「俺は『貴方様』じゃねー」

世一が遮った。

煙管を口から離し、鋭い眼光で、しかしどこか諦めたような色を宿して告げる。

「俺には『世一』って名がある」

それは、許しだった。

神の子である彼女が、地獄に落ちた罪人の名を呼ぶことへの許可。

結の思考が停止し、次の瞬間、爆発した。

「ハイッ……よ、よ、よ……」

「世一様ぁ!!」

絶叫が三途の川に木霊した。

あまりの歓喜に身をよじり、その拍子に袖の中の火種が転がり、さらに広範囲の皮膚を焼く。

「熱っい! もっと! 私にご褒美を!!」

名を呼べる喜びと、焼かれる痛み。二つの快楽が同時に襲いかかり、結はもはや神としての威厳など微塵もない、ただの愛に狂った女としてそこにいた。

世一は、足元で転げ回る「ご主人様」を見下ろし、小さくため息をついた。

「……やれやれ。地獄ってのは、案外騒がしい場所らしいな」

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