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「月が綺麗ですね」その一言の為に世界を壊した。蜘蛛を助けた極悪人と、彼を数千年も探し続けた女神の、地獄から始まる転生純愛物語  作者: 月神世一


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14/16

補足

月夜の再会、数千年の恋

あの日、世一の拳が宝玉を砕いた瞬間。

世界は消滅したのではなく、神という「支配システム」だけが崩壊したのだ。

神々は肉体と万能の力を失い、ただの「意識」の塊となって、彼らが作った六道輪廻の渦へと放り込まれた。

かつて絶対者であった大神は、その運命を受け入れられなかった。

「なぜ余が!」「神に戻らねば!」

その執着は鎖となり、彼は虫へ、獣へ、あるいは名もなき草へと転生を繰り返した。

強者に食われ、踏まれ、枯れる恐怖。世一が言った「自分で生きる世界」の過酷さと理不尽さ。

終わりのない生存競争の中で、かつての神の精神は悲鳴を上げ、摩耗し、やがて誰であるかも分からぬほどに壊れていった。

一方で、元・天照、今の結は違った。

彼女の魂を繋ぎ止めていたのは、過去の栄光への執着ではなく、たった一つの「約束」だったからだ。

(必ず、会いに行きます――)

彼女もまた、何度も死に、何度も生まれた。

ある時は戦乱の世の村娘として、ある時は道端に咲く花として。

記憶が薄れそうになるたび、あの日の煙草の匂いと、ぶっきらぼうな優しさを思い出し、魂に刻み込んだ。

そして、時は流れ――現代。

コンクリートのジャングル、東京。

ビルの谷間を、一人の男が疲れた足取りで歩いていた。

月神つきがみ 世一よいち

どこにでもいる、しがないサラリーマンである。

彼には前世の記憶など欠片もない。かつて世界を壊し、神を殴り飛ばした大悪党の面影は、その名前と、なぜか満月を見ると落ち着くという癖に残るだけだった。

「はー……今日もついて無いな」

仕事でのミス、満員電車の疲労。

世一はネクタイを緩め、ふと夜空を見上げた。

そこには、ビルの明かりにも負けない、煌々とした満月が浮かんでいた。

その光を見た瞬間、胸の奥のざわつきがスッと消えていく。

「……あ~、今日は月が綺麗だ」

独り言のように呟いた、その時。

「こんばんは」

背後から、鈴を転がすような声がした。

世一が振り返ると、そこに彼女がいた。

長い黒髪、白い肌。現代的な服装をしていても隠しきれない、神々しいまでの透明感を持つ女性。

彼女は、震える手を隠すように後ろで組み、泣き出しそうなのを必死に堪えて、満面の笑みを浮かべていた。

何千年、何万回もの輪廻を超えて。

ようやく、ようやく見つけた。

記憶を失っても、魂の形は変わらない。目の前にいるのは、紛れもなくあの日の彼だった。

世一は、初対面のはずの彼女から目が離せなかった。

心臓が、早鐘を打っている。

「は、はい……こんばんは」

世一の返事を聞いて、彼女――結は、一歩踏み出した。

もう「神と罪人」ではない。

同じ人間として、同じ月を見上げる存在として。

彼女は夜空を見上げ、万感の愛を込めて、古くからの愛の言葉を告げた。

「月が、綺麗ですね」

世一は瞬きをした後、自分でも驚くほど自然に、優しく微笑んだ。

「……ああ、本当に」

神のいない世界で、二人の物語がここからまた、動き出した。

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