END
光が弾け、世界は一度、無に帰した。
神がいなくなり、全てを自分達で選択し、生きる時代が始まったのだ。
人々や生物達は、与えられることのない日々に、先の見えない暗闇に怯え、恐怖し、迷う……そんな残酷な世界になったのだろうか。
――いや。
そうだろうか。本当にそんな世界になったのだろうか。
今まで誰かの掌の上で生かされていただけの命が、初めて自分達の足で地面を踏みしめる世界が始まったのだ。
転んでも、誰も助け起こしてはくれないかもしれない。
けれど、立ち上がる痛みも、前に進む喜びも、全てが自分自身のものとなる世界。
恐怖しながらも、一歩ずつ。
自分達の意思で、明日へと進む世界。
そして、ふと足を止めて空を見上げ、
「綺麗だ」と、心から思える……そんな、のんびりと月でも眺める世界が、きっとやってくるはずだ。
*
数え切れぬほどの星霜が流れ、とある夜の道端にて。
一人の青年が、ため息混じりに歩いていた。
その名札には、皮肉にもかつて消え去った神の名残か、月神 世一と記されている。
「はー……今日もついて無いな」
仕事での失敗か、あるいは日常の些細な不運か。
彼は肩を落とし、ふと夜空を見上げた。
そこには、雲の切れ間から覗く、透き通るような満月が浮かんでいた。
その美しさに、日々の鬱屈が少しだけ晴れるような気がして、彼は独り言つ。
「……あ~、今日は月が綺麗だ」
その時だった。
背後から、鈴を転がすような、どこか懐かしい声が掛かった。
「こんばんは」
世一は振り返る。
そこには、夜の闇に溶けそうなほど白い肌をした、美しい女性が立っていた。
初めて会うはずなのに、なぜか魂が震えるような、強烈な既視感。
「は、はい。こんばんは」
世一はドギマギしながら返事をした。
彼女は、世一の顔を愛おしそうに見つめ、それから彼と同じように夜空を見上げた。
そして、かつて交わした約束を確かめるように、あるいは、遠い昔に伝えられなかった愛の言葉を紡ぐように、微笑んだ。
「月が、綺麗ですね」
その言葉は、ただの天候の感想ではなく、
何千、何万回生まれ変わっても貴方を見つけるという、長い長い旅の終わりの合言葉だった。
二人の頭上で、月が優しく世界を照らしている。
神はいなくとも、愛と自由のある世界が、ここからまた始まっていく。




