第42話 最終形態
「だって、レイくん。わたし、あなたが好きだもん」
その言葉と同時に放たれた氷の棘は、致命傷になり得る急所へとぴたりと伸びてくる。
地面を離れた瞬間──着地点を狙い撃つ、容赦のない殺意。
「──鬱陶しいなァ!」
三節棍を横薙ぎに振るい、迫る氷の棘を叩き砕く。
砕け散った欠片はキラキラと星のように光を散らし、幻想的な光景を作り出した。
綺麗だ──なんて思える余裕は、今のレイにはない。
「ざ〜んね〜ん! トラップでした〜♪」
砕けた氷が砂嵐のように舞い上がり、細かい痛みと視界不良を生む。
「君は……お前は結局何者だ。氷室か──リリカか」
「ん〜、どっちも? わたしはリリカだし、氷室でもあるからね。ちょっと前に会ったのは、わたしの氷の人形だよ?」
「なら──お前は俺の敵か?」
「うん、当たり前。今ごろレイくんのお仲間さんたち、わたしのゾンビに食べられてる頃じゃない?」
肩を揺らしクスクス笑うその姿に、ようやく思い至る。
自分の知っている“お嬢様の氷室”は仮面であり──その本質は、壊れた悪意そのものだということを。
「レイくん、もう終わり」
【氷の矢】
未来予知が反応した頃にはもう遅かった。
放たれた氷の矢がレイの腕を容赦なく貫く。
グサッ──
人が脆い生き物であることを、冷酷に突きつけるような音だった。
痛みに浸る暇などない。途切れなく押し寄せる攻撃に、体力が削られていく。
潮時か──
今まで封じていた能力を、ついに解放する。
腕を貫く氷の矢から滴る血が、ぴたりと止まる。
歯を食いしばり、矢をゆっくりと引き抜いた。
「リリカ……お前のターンはここまでだ。次は俺のターンだ」
口角を上げる。
次の瞬間、レイの姿が掻き消え、冷気の流れが揺らいだ。
「──ッ!」
三節棍が雷光のように振るわれる。
リリカは寸でのところで察知し、致命傷をかすり傷へと変えた。
その速度は、もはや脊髄反射の領域。
「なかなかやるなぁ」
「それはこっちの台詞。獲物は強いほど燃えてくるの」
"氷室"の華奢な身体が、じわじわと“白”に染まっていく。
つま先から髪の先まで凍りついた瞬間──空気が変わった。
ただの冷気ではない。
心の底まで凍らせるような、異質な寒気。
──俺、ビビってるんだ。
リリカの身体を覆っていた氷が──音もなく砕け散った。
「レイくん、逃げ場なんてないよ?」
氷の破片が渦を巻く。
それらはリリカの周囲に集まり、獰猛な形へと組み上がっていく。
四肢。牙。尾。
氷でできた巨大な獣が、リリカの影から這い出すように姿を現した。
「──ワオォォォォォォォン!」
咆哮が鼓膜を刺激する。
リリカの身体がその場に倒れる。その様子は、まるで役目を終えた道具──もう使わないから、と床に捨てられた玩具のよう。
「コレガ本当ノ、ワタシ」
狼とも、狐とも言えるような姿。
奴の毛皮に染み付いた、錆びた鉄の臭いが鼻から離れない。
一体どれだけの人を殺してるんだよ……
三節棍を握る手が震える。それは寒さによるものか。それとも──
頭に思い浮かぶよりも前に、無理やり目を背けた。意識したら、足元がすくみそうだった。




