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100億で落札された俺、ポンコツ美少女に自由を買われる〜幼児化した相棒のせいで、謎組織から無理難題を押し付けられる何でも屋になった件について〜  作者: くまたに
第4章 冷たい少女の護衛

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第40話 白き牢獄

 事件は、あまりに突然だった。

 氷室と共に学園に入っていったティナとコハル――それっきり、連絡が途絶えた。

 時刻はすでに午後七時を回っている。


「お嬢様は今、二人と自習室で勉強しているそうです」


 ハンドルを握る東の声に、レイは険しい目を向けた。


「氷室とは連絡ついてるのか? ……でも他の二人はいくら電話しても反応がない」


「おかしいですね」


「心配だ。俺が中に入って探してくる」


 レイは車のドアを乱暴に開け、夜気の中へ飛び出そうとした。

 しかしその腕を東が掴む。


「待ってください。昼にも言いましたが、この学園のセキュリティは異常です。そして職員たちの頭もぶっ飛んでます。場合によっては平気で人を殺すかもしれません」


「じゃあ、このまま黙って待てっていうのか?」


「いいえ」


 東は薄く笑い、エンジンを再びかけた。

 その目には、奇妙な自信が宿っている。


「――抜け道があります」



     ◇



 数分後。

 二人は立ち入り禁止と書かれた柵を越え、学園の裏手へ回っていた。

 そこに、ぽっかりと口を開けた古い鉄扉がある。錆びついたプレートには、かすれた文字でこう刻まれていた。


 “旧地下防空路入口”


「この通路を進めば、学園の地下に出ます」


 廃止されたはずの通路。だが、暗闇の中には所々淡い光が揺らめいていた。

 まるで、誰かが奥で灯りを点しているかのようだ。


「……明るいな。電気が通ってるのか?」


「いえ……電源は何十年も前に止まっているはずです」


 東が首を傾げる。

 レイは壁を撫でた。ひんやりと冷たい。

 地面は微かに湿っている。


「戦時中、この道は生徒たちの避難壕として使われていたそうです。お嬢様は入学してすぐ、友達のいない寂しさから学園中を探検していました。そんな時、偶然この通路を見つけたと聞きました」


「大発見じゃないか」


「ははっ、そうですね──無駄話はこの辺にしておきましょう。お出迎えのようですね」


 東は通路の奥、闇の中を睨む。

 足音が水溜まりを割る音とともに、パキパキと響いた。

 レイは咄嗟に拳銃を握った。


「誰だ!」


「……」


「もしかしたら学園の関係者かもしれませんね。となると、ここにもセキュリティが」


 想像を超えていたのだろう。

 東の顔に悔しさと焦りが滲む。

 冷静な彼にしては珍しく、歯を食いしばる音が聞こえた。


「もう一度聞く。お前は誰だ! 答えないなら撃つぞ」


「……」


 やむを得ない。

 レイは銃の引き金に手をかけた。

 姿は見えなくても、音で大体の場所はわかっている。

 後は一か八か——

 破裂音が地下通路に響く。


「チッ、外した」


 レイはもう一度引き金に手をかけた——刹那、空気が凍った。

 通路は一瞬で白い氷に覆われる。


 足は動かない。氷に掴まれるように拘束された。

 本気を出せば逃れられるが、能力についてはできる限り開示したくない。


 レイは、ふと東の方へ首を向けた。


「東さん!?」


「……」


 闇の中にいる"誰か"と同じで、東も反応がない。

 なぜなら──氷の像となってしまっていたからだ。

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