第37話 対面
「合格よ⋯⋯」
メイド長は息を切らしながら言った。
後からやってきたレイとティナはクラスに一人はいるヤンチャな生徒のように、メイド長の手を煩わせた。
初めの一時間ほどは部屋にある拷問器具を指さして脅していたが、二人は少しも臆さなかったので、時間が立つにつれてストレスと疲労が溜まっていったのだ。
「案外余裕だったな」
「そうね。昨日までしていたリハビリと比べたら、天と地ほどの差があったわ」
涼しい顔を浮かべる二人。コハルは自分が何日もかけてなし得たことを悠々と超えられてしまい、自分の未熟さを思い知らされた。
「結局私は駄目人間なんだ⋯⋯」
「そんなことありませんよ」
「――え?」
部屋の隅でカタツムリのように丸くなっていると、東が優しく声を掛ける。
爽やかという言葉が似合いそうな笑み。
「あなたはあの二人と違って真面目に頑張ってきました。だから大丈夫です。確証はないのですが⋯⋯」
「あ、ありがとうございましゅっ――」
「そこで噛まなかったら安心できるんだけどな」
こそっと東は呟くが、テンパるコハルの耳には届くことはなかった。
◇
「あなた達が新入りの方ですか?」
今日はこの屋敷のお嬢様、一条家の一人娘と初めて会う日だ。
「はい。今日からよろしくお願いします」
「そう、よろしくね。私は氷室。あなた達は?」
「私はティナと申します。そして後ろに控えている二人はレイとコハル。三人で氷室様にたかるハエ共を蹴散らします」
修行の成果か、途中までなんとか敬語を保てていたが後半は修行前に戻っていた気がする。
こっそり氷室の方を見てみる。いかにもお嬢様らしい、「うふふ」とでも言っていそうな微笑みを浮かべていた。
髪もまつ毛も美しい白でまるで雪のよう。心做しか淡い冷気を帯びている気がする。
「様なんて堅苦しいじゃないですか。それにあなた達の方が歳上でしょう。私のことはどうぞ氷室とお呼びください」
「わかった氷室」
「おいティナ──」
「ティナさん!?」
今年18歳になるレイやティナに比べ、氷室の顔つきは幼い。
しかし中学生くらいのコハルよりかは歳上だろう。
「うふふ、いいのですよ。今まで友達がいたことがないので、あなた達が友達のように接してくれると私は嬉しいです」
「氷室さん……安心してくれ。もう俺達は立派な友達だ。たくさん思い出を作っていこう」
目の端に涙を浮かべてレイは右手を差し出した。
研究室にいた時の記憶がほとんどないが、一人孤独で寂しかったことははっきりと覚えている。
だから氷室の寂しさを誰よりも知っていた。
「氷室さん、私達はずっ友です! 永遠に仲良くしましょう……!」
レイと同じ感情の者がもう一人。
永遠に仲良く、は重すぎるかもしれないが今まで孤独だった氷室を笑顔にするにはちょうどよかった。
「ありがとう。じゃあ今日は夜が更けるまでお話をしましょう!」
「いいね。女子会だね」
「それいいですね!」
ティナがいらないことを言ったせいで、レイが混ざりにくい雰囲気になってしまった。
「お嬢様……明日は学校ですので夜更かしはいけません」
後ろで眺めていた東は口を挟むが、女子達三人は楽しそうに話に花を咲かせていて、聞く耳を持たなかった。
どうやら今夜女子会中に食べるお菓子を決めているようだ。
「はあ……お嬢様がこうなってしまったらボクの手には負えませんね」
東はそう呟くと肩をすぼめて去っていった。
レイは自分も混ざりたかったので何度か声をかけてみたが、ことごとくスルーされてしまう。
結局レイも東のようにこの場から離れることにした。
三人の女子会は日付が変わるまで行われたのだった。




