第30話 強者
「ククッ……我の攻撃を避けるとは……名乗れ。我が遊んでやろう」
空気が凍てついた。そう錯覚するくらいに冷たく、殺意の込められた声だった。
同じ空気を吸うだけで殺されたりしないだろうか──そんな思いが頭をよぎり、息が止まる。
「あれれ〜みんなそんなに怖い顔しちゃってどうしたの? もっとニコッて笑おうよ〜」
先程とは別の声が響く。幼いその声からは、中学生くらいを連想させる。
緊張がほぐれた東はふっと息をつく。
「どうして誰も笑わないの? ぼくの言うことを聞けない人達にはお仕置をしないとだね」
暗闇の奥で影が揺れた。その刹那──
「かはっ……!」
東はうめき声が漏らして姿を消した。そして1秒も経たずして背後でとてつもない破壊音が響く。
「あれ? 少し触れただけなんだけどな〜」
回転灯に照らされて、幼い声の敵は姿を現す。
白い執事服に身を包むのは顔立ちの整った美少年。優しい笑顔の裏には深い闇が広がっている。
「お前って奴は……力加減を考えろ」
その後ろから地響きと共に歩いてくるのは、黒い執事服に身を包んだ少年。白い服の方と顔立ちが似ている――というか全く同じだ。
首元には小さな入れ墨。黒い方は「1」、白い方「2」と書かれている。気味が悪く、油断したら一瞬で首をはねられそうだ。
「そんなに警戒しないでよ〜。ぼく達は優しいからさ〜。他の仲間に苦しめられる前に、一瞬で殺してあげる」
「そんなことはさせない。私はティナ──アンタ達に絶対に負けない」
そう強く言い吐くと一歩、また一歩と二人に歩み寄る。そして銃剣を振るい、天井に大きな穴を開けた。
「お前何をやって──」
「行って! ここは私が食い止める──だからツバキさんのことは任せたから!」
そこまで言うと天井から瓦礫が崩れ落ち、あっという間に行き止まりとなってしまった。
別のルートからでも行けるだろうが、ツバキが連れて行かれた道は塞がったため、匂いで辿ることができなくなってしまった。
ひとまずレイとコハルは数メートル後ろでくたばっている東の元へ駆け寄る。
「大丈夫か?」
「なんと、か……」
苦しそうにお腹をさするが、心配をかけさせないように優しく笑って見せる。
レイが右手を差し出すと東はガッシリと掴み、その場に立ち上がった。
「それにしてもどのようにしてツバキさんを探しましょうか……」
「コハルさんはボクのことを心配してくれないのかな!?」
「元気そうだったので……」
そう淡々と言いながら、鼻をピクピクと動かして他に匂いが残っていないか探す。
コハルは無関心のように装っているが、内心東が元気そうなことにホッとするのだった。
「この中である程度戦える人はいますか?」
「俺は最近拳銃の使い方を教えて貰ったくらいで、まだ上手く使えない。いっその事いないと思ってもらって構わない」
「私の運動神経は猫のようにいいですが攻撃の威力はないので、レイさんのようにいないと思ってください」
「なるほど……ちなみにボクは元警察ですが、ティナさんほど強くはありません」
「全員この業界に不向きすぎないか」
東とコハルは追跡などに長けているが、レイはどうだ。
未来予知は自分に対する攻撃にしか反応しない。多少タフだが先程の規格外の強さの2人を前には意味をなさない。
「とにかく敵と鉢合わせにならないことを祈って先に進もう」
「わかった」
レイは脳をよぎる未来予知を決して逃さないように、意識を集中させる。他の2人も同じだ。各々感覚器官に精神を研ぎ澄ます。
それなのに厄介事は起きてほしくない時にこそ起きてしまう。
「お、お前らは──!」
明らかに三下のような、特徴のない顔の敵が影から現れた




