第29話 いざ潜入
とある会議室に集められたのは、ツバキを誘拐した組織の部下。
心強い顔ぶれを眺めると、一人高い位置から見下ろしていた男が口を開く。
「侵入者が複数名現れた。総員直ちに見つけ出して、排除しろ! 戦意があるとみなした場合殺しても構わない。出撃だ!」
「「「……」」」
「まったくお前達は……わかった。捕らえた侵入者一人につき、100万円のボーナスをやる!」
「「「ウォーッ!!!」」」
お金に吊られた部下は両手を上げ、わかりやすくやる気を出していた。
ここまで含め、全て予定通り。男は眼下でアツくなっている部下を見ていやらしい笑みを浮かべた。
◇
時を同じくして──裏で侵入したことがバレていることに、まだ気づいていない4人は着々と奥へ進んでいた。
「あ、あの……先程から鳴り響いている警報音と、この赤い回転灯はなんですか?」
「道が暗くて危ないから、音と光でどうにかしてるんでしょ」
頬をかきながら聞く東に、ティナは適当に言い返す。
レイとコハルは、自分の知らないものがある、程度としか思っていないため、間に割って入って訂正することはなかった。
「ですが……」
「大丈夫だってば。私は何度もこういうところに潜入してるけれど、いつもこんな感じだから安心して」
どうしてかわからないけれど、いつも敵に見つかるんだけどね。言おうか迷うが、声に出す前に呑み込んだ。
ティナは今まで、恵まれた戦闘スキルで幾つもの修羅場をくぐり抜けてきた。それが知らないうちに自身となり、今回裏目に出た。
「ボクはいつもは屋敷の警備にあたっていたので知りませんでした。気を取り直して敵の進んだ道のりを特定します」
「ん。お願い」
わ、私だって負けない⋯⋯!
コハルは目をつむり、意識を五感に集中させる。
地下に続くこの通路は音が反響し、猫の聴力を持ってしても上手く聞き分けることができない。
それなら嗅覚はどうだ。ツバキとは一度しか会っていないが椿をモチーフにした、梅のような匂いの香水が微かに感じ取れる。
「こ、こっちからツバキさんの匂いがします!」
「ナイス。凄く頼りになるよ」
ティナは優しく口の端を上げると、コハルは安心したように息を吐いた。
ぽっと出の東が出来すぎていたので、突然解雇されてしまわないかとヒヤヒヤしていたからか肩の力が一気に抜けた。
「ツバキさんが心配だ。先を急ごう」
通行人がツバキの誘拐を目撃してから、早くも1時間が過ぎていた。
今頃何をされているかわからない。情報を引き出すために酷い拷問を受けている可能性も──レイは素早く進む。
どう工夫しても足音が響く。それからは目配せだけで意思を共有していた。
《⬛︎角から⬛︎攻⬛︎ 頭⬛︎⬛︎く》
チームワークも出てきてようやく調子に乗り出した時だった。脳内に直接流れ込む、不吉な言葉。
レイには覚えがあった。これは未来予知──
「未来予知に反応があった……どこかから攻撃が飛んでくるかもしれない」
辺りを見渡す。通路は入り組んではいるが、足音が全くしない。コハルと東がいるというのに、匂いで見つけられないということはまだ近くにいないということだろう。
戦場では少しの油断が命取りだ──
レイは速度を落とさずに走る。ちょうど曲がり角に差し掛かった時だ。死角から突然刃物が飛び出してきた。
誰よりも早く気づいたティナは、レイの首の根っこを引き、間一髪殺されることは免れた。
レイは勢いのまま数メートル後ろに飛ばされる。
「私がいる以上、誰にも手を出させない」
その途端、ティナの赤い瞳が光った。




