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100億で落札された俺、ポンコツ美少女に自由を買われる〜幼児化した相棒のせいで、謎組織から無理難題を押し付けられる何でも屋になった件について〜  作者: くまたに
第2章 この猫どこの子?

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第20話 最後の一手

「ミヤビさん、聞いてください」


 張りつめた静けさを断ち切るように、レイは口を開く。

 その顔は、もう後がないからか、緊張に強ばっているように見える。


「時間はいくらでもあるわ。心ゆくまで話してちょうだい」


 案外、仕事への誇りがあるのかもしれない。ミヤビの表情は清々しかった。

 今更レイくんに、コハルちゃんに対する処遇を変えることはできない、といった余裕が見える。


「組織は──コハルを()()()()にして使うつもりですか?」


「レイくんってば、本人を前に恐ろしいことを言うのね」


 もともと浮かんでいた笑みが、さらに深く刻まれる。

 コハルの震えは、この日いちばんの強さに達した。

 ティナが背中を摩り、「先輩は優しい人だから大丈夫」と落ち着かせようと励むが、果たして実際はどうだろう。


「私はボスとよく会うけれど、あの人の考えはよくわからないの。だから何とも答えることはできないわ」


「嘘がお上手で」


「ちょっとレイ……その言い方は先輩に失礼じゃない?」


 聞いていたらこれはなんだ、と言わんばかりの口調で、ティナは言った。眉間に皺を寄せて少々キレているようだ。

 それほど先輩──ミヤビを尊敬しているということだろう。


「失礼? 真実を言ったまでだろ」


 信じていた味方に水を差され、胸の奥がざらついた。


「あらあらー。仲が良いわねー。若いっていいわ」


 茶化すように言われ、思わず息を呑む。ミヤビは軽口を叩けるほどに、余裕に満ちていた。

 目的を前に熱くなってしまったことを反省し、すぐさま彼女の方へ向き直る。


「話を戻します。コハルを組織でコケにすると、必ず後悔しますよ」


「どうしてそう言い切れるの?」


 緊張をほぐすために少しの間黙り込むと、レイは口を開いた。


「それは──コハルをボスが探しているからですよ」


「証拠は?」


「俺達が一昨日受けた任務の内容は『迷子の猫を見つけろ』です」


「それは"迷子の猫"でしょ? コハルちゃんは見ての通り人じゃない!」


 ミヤビからは、冷静さが少しずつ剥がれ落ちていく。

 対してレイは、わずかな希望を見い出し、曇天のようだった顔に一筋の光が差し込んだ。


「言い忘れていました──ボスからの任務には、まだ続きがあります」


「な、何よ……」


「『特徴は人っぽい』です。ミヤビさんは、コハルのフードの下を見たことがありますか?」


「ないわ……コハルちゃん、見せてくれる?」


「はい」と震える声で言うと、コハルはフードを下ろした。

 フードが落ち、猫耳が覗く。

 ミヤビの眉がぴくりと跳ね、息が止まる。


「……っ」


 言葉を失ったミヤビの瞳が揺れる。

 さっきまで胸を圧迫していた重苦しい緊張が、ふっと軽くなる。


 ――押し返せた。胸に熱が滲み、勝利の実感が満ちていく。


 レイは、コハルの猫耳に気づき、“迷子の猫”でも違和感がないことを先に見抜いていた。人っぽい特徴も任務に合っている。


 ミヤビはその場で黙り、みるみるうちに顔を真っ赤に染め、呼吸を荒らげる。

 ティナは「大丈夫ですか?」と心配そうに首を傾げるが、返事がない。


「どうかしましたか。ミヤビさん?」


「……」


 返事がないのはレイに対しても同じで、気まずさからか部屋は静寂に包まれた。

 数分間の静寂を破り、扉が開き、第三者が入ってきた。三人は伏せていた顔を咄嗟に上げる。しかし──


「うげぇー」


 意図せずとも、ティナの口からそんな声が零れ落ちる。

 その視線の先に立つのはカグヤ。険しい顔をしながら、自分がなぜ嫌がられているのか、と混乱する。

 ミヤビはその場で動かないままで、カグヤの方へ見向きもしなかった。


 ティナは身構えたが、レイは思わず苦笑交じりのニヒルな笑みを浮かべた。

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