第16話 蘇りの真相
「早速なんだが、胸を撃ち抜かれてどうやって生き延びたんだ?」
ティナが元の姿に戻るなりレイは聞いた。
路地裏で見せられたティナの胸には、赤い血が流れていた。あれが偽物だとは思えないのだ。
「一度、心臓は止まったよ。でも、あのロリが来た瞬間、バチッてね。静電気だったんだと思う。それで筋肉が痙攣して、奇跡的に動いたの。そこから先は、私の能力の範囲。でも──普通なら死んでたね」
レイは言葉を失った。まさかリリカが来たことによってティナが生き返ったなんて──
「そんなことよりも」
全く「そんなこと」で済む話ではない。それでもティナは、話を打ち切って次へと進んだ。
「あのロリが来ることをレイは予知したよね。あれはどうして分かったの?」
「……俺は政府の研究室で行われていた──」
レイは頬をかき、視線を足元に落とした。鎖の先が乾いた音を立てる。
「“未来予知”のできる人を開発する実験の唯一の成功者なんだよ」
そしてレイは記憶にある限りのことを話した。
研究室では「この実験はたくさんの人の心を救う」と言われ、それを励みに頑張ってきたこと。
実験で体中を痛めつけられ、自然と多少の痛みは耐えれるようになったこと。
一部を除いて記憶がないこと。今まで誰にも話してこなかったので、胸が軽くなった。
「未来予知ができるならさ、次ここに誰かが来るのはいつかわかる? それまでに逃げたいなって思ってるんだけど」
「あー、そのことなんだが……」
レイは気まづそうに頬をかいてから答えた。
「俺自身に起こる危険しか予知できないんだよ」
「え……てことはあのロリが、レイにだけ敵意がない場合は気づけないってこと?」
「そういうことだ」
それを聞くとティナは黙り込み、その場は静寂に包まれた。
「使えねぇ」──そう鼻で笑ったのは、ほんの数秒後だった。
「とにかく今は、ここを抜け出すことに専念しよう」
「そうだな──」
そう言い終える前に、ティナはノアを横一文字に切り払う。鈍い音が響き、鉄格子が綺麗に刻まれる。
「バカ! こんな静かな時に大きな音出したらバレるだろ」
「大丈夫大丈夫。どうせみんな寝てるから」
「そうだといいんだが……」
レイは不安を取り切れてないまま、先を行くティナの背中を追った。
しかし事件はすぐに起きたのだった──
「えっ……!?」
食料の乗ったお盆を、フラフラとおぼつかない足取りで運ぶコハルと遭遇した。フードの中に見える額には汗をうかべ、今にも叫び出してしまいそうだ。
ティナがフラグを立てるから……どうする。脅迫して口封じをするか?
レイが脅し言葉を探していると、コハルは口を開いた。
「あ、あの──私を助けてください……」
「「助ける?」」
予想外の言葉に二人は声をハモらせて首を傾げる。
対してコハルは「あわわ……」と心許ない声を漏らし、おろおろと動揺を隠せない。
「その……私はリリカ様が恐ろしくて、言いなりになっているのです。しかしお二人は強そうなので、助けて貰えないかと思ったのです……」
見ているだけで何故か心配になる。レイは自分には決められない、と隣を見た。
ティナは睨むように、頭一つ分身長の低いコハルを見下していた。
「アナタ……私のことを一回殺したよね? それに何かを頼むんだったら、そのフードを下ろしてから言ったらどう」
「ご、ごめんなさい……素顔を見ても驚かないでもらえますか?」
コハルは指先が震えながらフードの端を掴む。耳の付け根を隠すように、ゆっくりと――
フードが下がると、柔らかそうな猫耳が露出した。耳の先にはうぶ毛が揺れ、わずかに獣の匂いが混じる。
ティナの頬が一瞬ほころんだ。レイは瞬きを忘れ、視線が耳から離せなかった。
「……カチューシャか。可愛いと思うぞ」
「違います」
猫耳は、嘘でもおとぎ話でもなかった。
「え?」
「レイさんですよね。私はあなたと同じ研究室の実験体だったから見たことがあります」
「……」
いきなり想像の斜め上を言われてレイは混乱し、言葉を失う。
「いいよ」
そのティナの言葉によって静寂は破られる。
もし裏切られたとしても、ティナが反撃するで大丈夫だろう。
「俺もいいよ」
「あ、ありがとうございます……!」
目の端に涙を浮かべながら、コハルの顔がぱぁっと晴れた。
こうして、ここを抜け出す仲間が増えたのだった。




