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100億で落札された俺、ポンコツ美少女に自由を買われる〜幼児化した相棒のせいで、謎組織から無理難題を押し付けられる何でも屋になった件について〜  作者: くまたに
第2章 この猫どこの子?

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第15話 牢獄に流れる雫

「ふっ……ふふっ……ふふふふふふふふふっ! どうよ、助けようとした人に撃たれた感想は?」


「……油断しちゃってたね」


 ティナは膝から崩れ落ち、力なく笑う。

 その様子を見て満足したリリカは口を開いた。


「実は今日コハルがお前にぶつかったのはわざとなんだよね」


「それってどういう……」


「やっぱり気づいてなかったんだね」


 リリカはそう言いながら一歩、また一歩とティナに向かって足を進める。

 路地裏にかつかつ、と足音が響く。その音は硬くて乾いている。


「コハルは私の命令でお前に発信機をつけたの」


「そう……」


 想像よりも反応が薄かったからだろうか。リリカはつまらなさそうに眉間に皺を寄せる。


「それと最後に。コハルに爆弾なんて仕込まれてませ〜ん。お疲れ様(おちゅかれちゃま)でーす(で〜ちゅ)


 初めて会った時のような幼児語に戻って、リリカは心の底から煽り散らかす。

 ティナは朦朧とした意識であったが、最後に「良かった……」と言って、その場に倒れるのだった。



     ◇



「──ティナッ!」


 レイは目を開くと、そこは先程リリカによって意識を失った場所とは違う、見覚えのない牢獄のような部屋に閉じ込められていた。


「ここは──ッ!」


 腕は鉄製の手錠で拘束されており、その上鎖で壁に固定されている。

 周りを見渡すと、少し離れたところにティナの亡骸が放置されていた。


「ティナ……」


 ティナは未だにノアを離さず、強く握り締めていた。

 レイはリリカに対する怒りや自分の不甲斐なによって、軽い立ちくらみを覚える。

 そのまま無気力になり、地面に寝転がる。


 あれからどれだけの時間が経ったんだ……


 部屋には窓がなく、天井から吊るされているランプしか明かりがない。だから時間を把握することは出来ないのだ。

 隅の方にトイレが一つあるがそれ以外は何も無く、殺風景な部屋だった。

 数を数える以外何もすることのない時間を過ごしていると、部屋の外、廊下のようなところから足音が聞こえた。


「おに〜たんは元気かな〜」


 予想はしていたが、今一番聞きたくなかった声が耳に入る。頭の中に熱がこもり、今にも爆発してしまいそうだ。


「おに〜たん♪ おに〜たん♪」


 レイの気持ちなど少しも考えていないような陽気で、鼻歌の混じった声が近づいてくる。

 足音はパリパリ、とまるで氷の張った水溜まりを歩くような音色を奏でている。


「あ〜見つけた(み〜ちゅけた)


 そう言ってリリカが鉄格子に手を触れると、氷の亀裂が音を立てて広がった。

 いつしか吐き出す息は白くなり、呼吸をすることさえ苦しくなる。


「俺は意識を失ってから、どれくらいの時間が経った? そして俺達をここに閉じ込めて何をする気だ」


「そこの略奪女は死んでる(ちんでる)し、おに〜たん一人では何もできないから教えて(おちえて)あげる。人体実験をするの(ちゅるの)


「人体実験?」


「うん。その略奪女の体は、おに〜たんとは違って(ちと)の手が加えられてないからね〜」


 それを聞いた途端、目の前が真っ暗になった。

 何も罪がないのに殺した挙句、人体実験をすると言うのだ。

 自分に力さえあれば、こんなことにならなかったのに……


(あたち)は夜ご飯を食べてくるから、また明日(あちた)来るね〜」


 最後に「ばいば〜い」と言って、冷気と共にその場を後にするのだった。

 そして牢獄は静寂に包まれる。見渡しても視界に入るのはトイレと、幼児化したティナだけ。


 ──()()()()()ティナ?


「お前生きてるのか!?」


 咄嗟に出てしまったその声は、石の壁に反射して残響が静かに広がった。

 レイは手錠につけられた鎖で引っかかり、倒れそうになった体勢を立て直しながらティナの元に駆け寄る。


「……う、ん……なんと、か」


 数秒の間を開けて、部屋に小さな返事が生まれた。

 レイの瞳には大粒の涙が溜まり、声にならない嗚咽と共に肩を揺らした。


「そんなに……泣かない、でよ……」


 ティナは段々縮んでいく柔らかい手で、そっとレイの頬を撫でると、力尽きて眠ってしまった。

 規則的な胸の動きを見て、レイは堪えていた声を漏らして泣いた。

 頬を伝った涙の雫がティナの顔に垂れるが、依然として起きる気配はない。すやすやと優しい表情で眠っているのだった。

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