Scene15:『やさしさは、糸で編めるか』
——光の水が、耳元を滑り落ちていく。
流れに身を任せると、視界の奥に、
崩れた温室の中で糸を操る自分が見えた。
黒とオレンジのフリル。
宙に舞う布。
木のボタンを二歩脚で削りながら、ワタシは呟く。
「……次は、もっと……飛鳥ちゃんが笑うように……」
水のきらめきが反射して、景色が一変する。
——霧の森。
八つの瞳で、怯えた少女を見つめている。
その子は、怖がっている。
ワタシのせいで。
だけど、なにが悪かったのかは、やっぱり分からない。
ノーニャの声が、静かに響く。
『本能は変えられない。でも、やっちゃいけないことは覚えられる』
再び、温室。
ワタシは飛鳥ちゃんに服をたくさん着せすぎて、少し疲れさせた。
だから次は「着て着て」って言いすぎないようにしようと、指先で糸を止める。
感情は分からない。
でも、教えてもらえば、覚えることはできる。
ひとつずつ、少しずつ。
また森。
『選ぶのは、おまえ自身だにゃ』
——一人で生きれば、楽。
誰も傷つけず、誰にも傷つけられず。
でも、それじゃ——。
「……それでも、一緒にいたい」
涙が落ちる。
それが“正しい”かどうかなんて、分からない。
水面が割れる音。
そこから、もう一人の“ワタシ”が出てきた。
瞳は冷たく、糸は断ち切られ、手は空っぽ。
「……アナタには、どうせできない」
それは、ワタシの声だった。
感情も、共感もない——諦めきった“ワタシ”。
「優しさなんて、無理。
学んでも、真似しても、結局はズレるだけ。
また傷つけて、また嫌われる。それがオチよ」
心臓がひゅっと縮む。
図星だから。
でも、糸を握る手に、力を込める。
「……それでも。
それでも、ワタシは——形にできる。
生まれつき無くても、作ることはできる」
「……作ったつもりになって、どうするの?」
「それで、笑ってくれるなら——それでいい」
幻影は、しばらく黙ってワタシを見つめ——やがて、糸に触れた。
その指先が、裁きの水に溶けて消える。
温室が、きらきらと流れに溶けていく。
ワタシは糸をつまみ上げ、未来の自分に向かって縫い込むように言った。
「やさしさは……ワタシには生まれつきない。
でも、糸みたいに——覚えて、積み重ねて、形にできる」
水の流れが加速し、ワタシの作ったドレスの裾をさらっていく。
——その先に、仲間たちの笑顔があると信じて。
——to be the next scene.




