Scene6:『ネコって機嫌悪いとき、飼い主すらガン無視するよね』
キミは背負い過ぎなんだよ。
パパにそうそう影響を及ぼせると思うな。
朱に交わって赤くなろうが、
それはただの"赤いパパ"だ。
私は、路地裏にいた。
いや、正確には、ガレージのうら。
つまれたガレキの上に、
ネコの様に丸まって、ねころぶ少女。
[器造型]LC-06、ノーニャだった。
彼女はネコを元に、
人間の肉体に改造した使い魔。
獣の魂と人間の魂は適合せず、
試験としては失敗。
しかし、現在はその高い探知・潜入能力を、
探索役として運用中だ。
……つまり、普通にいつも会っている。
にもかかわらず、
私はこうして改まって会いにきた。
……そう、これは、父と娘の特別な時間なのだ。
「……ノーニャ。少し……話が…」
私はできるかぎりやさしく、
ゆっくり近づきながら声をかけた。
かつて、失敗作だと決めつけて、
いまは、ただの道具として見ていた娘。
でも今なら……。今の私なら言える。
私を、お父さんと呼ん——
「……はぁ?」
ふりむきもせず、軽く刺してきた。
——第一声でトークシャットアウト
私は怯まない。父として、
この子に、ちゃんと向き合わねばならんのだ。
「お前に……会いに来た。
お前の主人……いや、父として、
あらためて謝りたくて……」
真剣に言った。
真摯に向き合った。
魂を込めた。
そう私は、心から——
「……オマエ、だれにゃ?」
——ばっさりいかれた。
「だ、誰って……私だろう!?
お前を作った、主人でっ…」
焦る私。
名前を呼ばれなかったことに傷つく私。
しかし、彼女のネコミミの形をした
跳ね毛がパタリと伏せられる。
「ふぁ~ぁ……」
そして、あくびを一つ,
——興味ゼロ。
「へぇ……そいつがどうしたにゃ」
「ど、どうしたって……
だから……っ、私は、お前のっ」
声が震える。
言葉が詰まる。
だが彼女は……。
「話しかけられる気分じゃないにゃ」
ピンッ!
しっぽが立った。
それが“警戒"のサインであることを、
私は知っている。
——いや、男の敗北のサインである。
私は……私は、ただ、彼女に……
あやまりたかっただけなのに……。
「……言葉をかけてくれるな。
気づいてしまうからだ。
今この瞬間、私は……
父としても、人としても、ネコ以下だと……!」
——返ってくる声はない。
彼女の耳はピクリともせず、
顔は、空の方を向いたまま。
私は何も言えず、その場を立ちさった。
街灯の明かりに、
私の影だけが、
長く、さみしく伸びていった。
——男の足音が遠ざかったあと、
ノーニャはようやく一言だけ、
ポツリと。
「……めんどくさいにゃ。帰ったにゃ」
——第六陣、無視。
──to be the last scene.
——お父さん的プロモーション -ネコ科対応失敗編-——
え〜、ネコというのはですね、
こちらが会いたい時に限って、たいへん不機嫌なんですね。
呼んでも返事をしない。しっぽが立つ。目線はくれない。あくびをする。
これはすべて「構ってほしくない」のサインでありまして、
それを無視して近づくと、一瞬で心を引き裂かれるわけです。
はい、泣いてません。ネコ科に強い男を目指します。
——次回予告。
Last Scene:娘たちにフルボッコにされましたが、今すごく幸せです。
いよいよ最終訪問。娘たちに会った結果、父はどうなるのか。
すべての“父性のズレ”が収束する……。
——
もしかしたら。
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